第4話
「おーい、セルゲイ。どうした。ぼーっとしちまって。まだたったの三日しか経ってないってのに、もうお家が恋しいのか?」と通りすがりのアンドレアス副機関長がからかってきた。そうだ、俺は、三日前に火星の周回軌道上にある宇宙ステーションMー55を発った貨物船「セレナーデ」に急遽、無理を言って乗せてもらい、植民惑星アメリアへと向かっている所だった。筋力トレーニングマシンで鍛えている途中で、うっかり寝てしまったらしい。太陽から数光年先という近さに惑星アメリアを発見した当時、地球人は自然豊かな星に知的生命が全くいない事に首を傾げたが、人口増加によって太陽系の岩石惑星は開発されつくし、人間は更に移住する土地を欲していたため、人間が住めるように環境をほとんど変えることなく移住できるこの星はありがたい存在だった。しかも、なぜか露天掘りに近い状態で採掘できる金属の山がいくつも発見されたため、ろくな調査も行われないまま、移民団が送り込まれる事になった。これも、超空間移動装置が開発されたおかげだ。どういう仕組みなのか、俺は考古学が専門なので詳しい事はわからないが、時間と空間をどうにかすることで、銀河系を飛び出す事も可能になった。今ではかなりの数の植民惑星が存在し、人類は当たり前のように宇宙空間を移動している。惑星アメリアで採掘された金属と石灰岩は他の惑星での開発や宇宙ステーション等の材料に使われているが、移民のほとんどが今や他の惑星へと移ってしまった。理由はそれぞれだが、どういう訳かあまり住民は多くないようだ。採掘作業のほぼすべてがオートで行われているから、仕事が無いというのも理由の一つかもしれない。
「…忙しい時には休みたいといい、休むだけで仕事が無いと不安になる。妙なもんだな、人間って奴は」誰に聞かせるともなく、呟いた。
しかし、変な夢だった。あれは200年ぐらい前の物理の授業だったようだな。今じゃ古典中の古典だ。むしろ、考古学者の俺の方が今の科学者よりも詳しいかもな…。しかし、角田ってあれから結局、英語の吉原と結婚したんだよな…。ガス爆発に巻き込まれて意識不明になっている角田に吉原が泣きながらしがみ付いてて…え?あれは夢の話だよな。なんで、そんな記憶があるんだ?
俺は考古学者、セルゲイ。38歳。火星の第3コロニー出身。自分でいうのもなんだが、常日頃から鍛えているせいか、結構マッチョで良い体だと思うが、なぜか今まで彼女ができた事は一度もない。それが何で夢の中で女の子になってんだ?あまりにもモテなさ過ぎてとうとうおかしくなったんだろうか。
「システムより乗務員へ通達です。セレナーデER‐13は1時間後に惑星アメリア上空、エアポート№3、ゲートFにドッキングします。衝撃に備えて各自、定位置で安全装置のロックを確認してください。」おっと、結構すぐに到着するんだった。戻ろう。トレーニングマシーンを壁に格納すると俺はそのまま指で壁を軽く押して乗務エリアの自席へと向かった。
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