【掌編】This is a pen.


 俺は仲間達と離れ、初めてを感じたその瞬間からに閉じ込められている。

 彼の部屋、しかも玄関先から出してもらえない。ドアが開くとリビングが見える、玄関が開くと共用廊下の風景がチラリと見える、ただそれだけの日々。


 仲間達との対話から時間や自然という概念がいねん自体は一応、知っていた。

 しかし実感がかない。彼が雪まみれで帰宅する時期は「今はそんな季節なんだな」と思う、その繰り返しの日々。



 俺が蛍光灯の光を受けた日から十度目の冬が訪れた、ある日のこと。



 ずっと閉じ込めていたくせに、彼がそっと手を伸ばし……俺を部屋の外へとれ出した。


 暗闇の中で移動させられて、どのくらい時間が経っただろうか。


 ようやく俺は、を知覚する。

 


 空だ!



 この建物には窓がある! 空がある! 赤く色付いた木々に雪が積もり、そして大きく広がっていく、空! 赤も白も青も、色という概念も、仲間達から教わった知識でしか知らなかった!


「私が貴方の担当編集、ということになります。ところで、素敵なボールペンですね」


 初めて聞く、彼以外の人間の声。


「ありがとうございます、プロになったら出先でさきでも使おうと決めてたんですよ」


 そう答えながら、彼はを優しくでていた。

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