【掌編】新人職員の初任務


「実は僕、人間じゃないんだ」


 夜の公園、呼び出された私、彼の笑顔は引きほほには涙がつたっていた。

 周辺道路は黄色いテープで封鎖されている。

 遠くにパトカー、近くには黒塗りの車両が数台。


「一緒に生きれる道があればよかったんだけどね」


 それが人の姿をした彼の口から発せられた最後の音。

 憐憫れんびんを求める声だったのか、わかれをつたえようとつむいだことだったのか、私には分からない。


 いつもピシッと伸びていた背中は白い針だらけの猫背になり、私の頭をそっとでてくれた手には鋭い爪と銀色の毛が生えている。


 僕も今着いた、僕も今起きた、それが彼の口癖だった。

 待ち合わせ場所や朝起きた時のベッドで、私と目があった時の口癖。

 いつも優しく泳いでいた黒い瞳が、今は真っ赤に変わり私をじっと見つめている。



蔦縛結束ボタニカル・キル、発射!』

国内アノマリー・呼称コード〝トゲビト〟確保!』

獣化じゅうか抑制剤よくせいざい……経口投与開始!』


 黒塗りの車両から現れた〝職員〟の集団が彼に〝対応〟を開始した。


 私は数分しの〝返事〟をするため、静かに唇を開く。


「実は私、知ってたの」


 知ってしまったから、この職場を選んだのだ。


「あるんだよ、一緒に生きれる場所が」


 人と怪異が共生できる組織、それが……機関。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る