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 カガヤキがまた出た。

 情報が俺の中でまた更新された。

 アノマリーは万能ではないらしい。

 どうあっても「謙一」の死は防げなかった。

 長々話したけど、今はまずネジキリだ。


 今の俺はもう、アイツらの仲間の金谷謙一。

 借り物だった身体に本物の魂を宿らせる。

 

「どこがそんなん決めたんだよ、ヤベえだろ」

「最終的に承認したのは欧州ドイツ支部でした」

「ドイツが悪いってことですかー?」

「谷丸ちゃん、そうじゃないの」


「海外も名前、遠野対策機関なのか?」

「違いますね。そして、立案も決定もまた別な国です」

「ややこしいんですね……」

「そう。系統もパワーバランスも、複雑」


 武力介入、軍事作戦、空爆予告、小型戦術核。

 とんでもないことになっている。冗談みたいな話だ。

 冗談では済まされない現実を、理解した。


 夜まで佐原や谷丸と訓練を重ねる。

 俺が覚えるのは短刀の使い方、ただそれだけ。


 刺すでも突くでも斬るでもない。

 削り取る、ただそれだけを研鑽する。


「謙一せんぱーい、これも!練習しません?」

「ちょ、おいパンツ!」

「私は絶対できないなぁ、それ」


「スパッツでーす!葵さんも恥ずかしがらなきゃできますってー!」

「できるかな、俺に」

「恥ずかしい以前に私は体幹バランスが……」


「あ、そっか。葵さんごめんなさい!」

「まあ俺が使えたら幅広がるな。教えてくれ、谷丸」

「大丈夫!確かにこれはカナヤ君向けの技能ね」


 俺は谷丸から新技を与えられる。

 少しでも、体を慣らせ!


「どんどん教えますねー!」

「俺の能力とシナジー最高まである!爆アドだ!」

「カナヤ君がまた聞いたことない言葉を……」



 山下君と一緒に四人で改めて作戦概要の確認。

 相談室でのブリーフィング。


「サーモグラフィ機能搭載高耐久人造アノマリー」

「長いですよー山下さーん」

「山下さん、運用呼称は?」

「こっちの機関ってアノマリー改造や量産するのかよ!?」


「仮称、ネツヨミです」

「高耐久ってどのくらいですー?」

「元が破壊試験総合耐性、準一級だからね」

「破壊試験でダメージ通るアノマリーもあんのか……」


 佐原と谷丸にそれぞれ片目眼鏡が手渡される。

 眼鏡型の超常物質を二つに分けて改良したらしい。

 俺が大好きな「財団」と所々が違う遠野対策機関。

 でも装備が増えるのは良いことだ。


「高ランクの物理干渉や現実改変をくらわない限り、ほぼ傷はつきません。使い方は」


 ニュース速報が入る。


 空港の滑走路が炎上。

 それは、ネジキリからのメッセージ。



 移動前、五分だけ時間をもらう。

 一人きりの収容セル。


 俺とアイツのスマホ。

 過去の謙一が未来の俺、カナヤに残した動画。

 もう一度だけ見てから行こう。



 

 再生。



 

 大したこと言えないんだろ?

 最初の方は適当に流すか。

 

『ってわけで、俺は大したことは言えない』

 

『それでも俺はカナヤを、お前を勇気付けたい』

 

 もう元気はもらったよ謙一。

 もう一人の俺。


「俺も見てたんだ、そのアニメ。原作はゲームだよな」

『だから一番好きなアニメを参考にさせてもらった』


「確かにあのシーンのマネしたくなるのは分かる」

『パクるよりは、一番最後の締め方は変えよう。俺達らしくいこうぜ』


 いつの間にか俺も、声を出しながら動画を見てた。

 

「で、アレを選んでくれたんだよな」

『つまり最後の挨拶は、お前が大好きなやつでいく』


 


 少し早送りするか。

 


 

「よかったよ、謙一も俺の推しを好きになってくれて」

『俺なりの解釈も語っておく。それで、ラストだ』


 画面ごしの、時を越えた対話。

 

「配信動画、終了時の挨拶は俺が思うに」

『俺の解釈だと、最後に言ってる挨拶は』


「一人一人の動画視聴者リスナーに宿す、宝の言葉」

『未来を切り開く奴らに届ける、鐘の音色』


 撮影者の手がスマホへ伸びる。

 もうすぐ……撮ってくれた動画が終わる。


「行ってくる、謙一」

『行ってこい、カナヤ』


「『出発」』


 旅立ちの号令。


 覚悟完了。

 挨拶は実際、大事だ。


 

 集落の中央。

 向かうは谷丸のみ。

 俺達は……行かない。


『他の二匹は逃げたかァ!?』

『もう待ってたんだー?えらいですねー!』

『他の二匹はどうしたって聞いてんだろうがァ!』

『そのイス、気に入ってるんですかー?』

『他のォ!二匹ィ!!』

『案内してあげますよー、ついてこれるならー!』

『なん……』


『ざぁーーーーーーーーーーこ!!』


 

 通信機から煽りとネジキリの怒鳴り声が聞こえる!

 谷丸が走り出した!!


 

 まずは俺達の陣に誘い込む!!!


 

『追いつけないんだー?ざっこぉ!なっさけなーい!』

『テメェ!!!』


 ミツトビ戦の話を聞いて俺、カナヤが思いついた案。

 煽って逃げる!!

 これを使って「謙一」が考えた「次」の策に繋ぐ!



『そーんなの撃たないと触れないんだぁ?』

『んだとコラ!?』

『飛び道具ないと自信ないんだなー、って。ざぁこ!』

『このォ!』

『しかもぉ、その熱いの私には当たりませーん!』

『ああ!?』

『全部見えまーす!よわよわ〜!使うだけムダー!』

『だったら手でふん捕まえてやらァ!!』

『ざぁぁこ!ざこざこ声だけデカいー足遅いー』

『ブッッッ殺す!!!』


 飛び道具を封じた!?

 声しか聞こえないけど、ナイスだ谷丸!

 俺の読み通りネジキリが撃ち出す小さな発火性のオブジェクトは高温の石だった。


『謙一先輩!』

「どうした谷丸!」

『やっぱ飛ばしてくる粒はネジキリより熱いですね!』

「ネツヨミで見分けがつきやすくて助かるな」

『それと!山にはほとんど延焼してないですー!』

「わかった!よくやった!」


 隣の佐原も通信に参加!


『フェイントとかもなかったから、やっぱりアレって』

「俺の見立て通り、手を伸ばした方向にしか撃てない」

「握力を鍛える運動、遠隔デコピンの動きね」


『弾の正体、先輩が言ってた通りかもしれませんね!』

「そうか、なら……!」

「油断せず走りきって!!着地の瞬間も気を付けて!」


 

『わ、え!?うそうそうそ、何!?』

「どうした谷丸!!」

「谷丸ちゃん!?」


 

 直後聞こえた谷丸の悲鳴。

 


 通信機器ごしに乱れる音声。

 


 それは、歓喜の悲鳴だった。


 

 ピンチでもなんでもないのに、覚醒。

 谷丸は翼を得た。

 エナジードリンクかよ。

 とにかく速く、高く、なるべく大地に触れず、そう願いながら必死に駆ける中で目覚めた飛翔。


『すご!ずっと昔からあったみたいに使えますこれ!』

「いいぞ!煽ってやれ!!」

「今、空を旋回したの谷丸ちゃん!?見えてきた!!」



「ざぁこ、ざぁこ、地を這うイキりイモムシ-!」

「テメェだってさっきまで走ってたろうが!」

「聞こえませーん!」


 いた!

 マジで飛んでる!!

 

 里つ人集落から北にまっすぐ、直線距離で三キロ!

 道中、何度も放たれた即死級の土ドリル!

 死線を潜り抜け……谷丸は辿り着いた!


「ちょっと着陸しよっと」

「いいのかァ?山の下まで降りてきてェ」

「あー、ざこが何か言ってるー?」

「食うぞォ?燃やすぞォ!?」

「住んでる人達の避難は済んでまーす!」


 佐原が立ちはだかる。


「それに、燃やさせない!」


 田園地帯。

 ほんの少しの民家。

 山林火災の二次被害は防がれた。


「ざぁこ!ざこざこ周りが見えないー」

「アア!?」

「だから……気付かない」


 消火用ポンプ車。


 周りを取り囲むのは消防と自衛官。

 陸上自衛隊にも災害時用車両が存在する。

 

 三十メートルという有効距離ギリギリから、隊員達が決死の覚悟で構える消火ホース。

 稼働できる人員と車両、周辺路面の消火栓ハッチを全て使いきり接続ホースを最大限延長して待機していた。


『『放水開始ぃ!!!』』


「ガッ、テメェらァ!!このォ!!!」


 ネジキリは、動けない。


 本来は元の金谷謙一が考えた不確かな策。

 ないよりマシ程度の作戦。

 雪女の冷気を受けた時の発言から、水も有効かと推論を立て山下君が各所へ支援要請を行った。


 イチかバチか、ダメもと、そんなはずだった作戦も俺は「効く」と確信している。

 奴の正体が読み通りなら!

 佐原の腕を奪った「熱」を持つ口内!!

 体の中に、水をぶち込め!!!


「テメ、いい加減に!!」


 効くか分からないけど、風も撃ってやれ!


「佐原ぁ!!今!!!」

「風薙ぎッ!」


 え、あの技そういう名前だったんだ!?


 ダメージが、通った!!

 無理ならつかまれることや被弾覚悟で、佐原が手で直接引っぺがすしかなかった。


 でも効いた!届いた!!断ち切った!!!


 ネジキリの包帯状装備品がタテ一閃に割け、その全貌があらわになる!!!!


 

「謙一先輩、どうです!?」

「カナヤ君!!」

『金谷さん…………結果は!?』


 


「やっっっぱりだ!イケる!!倒せるぞコイツ!!!」


 


 黒い体。


 胸にはオレンジ色に輝く大きな刻印。


 ヘブライ語で真理を意味するאמתエメスの三文字。


 ネジキリの正体、それは溶岩を媒介としたゴーレム!


 勝ち確だ!!!

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