第四話 プラモデルと星屑のバレンタイン
「すーっかり遅くなっちゃいましたねぇ」
「でも、日付変わる前に戻ってこれてよかったー」
「言うて、イベントそんな大事っすか?カナっちも葵姐さんも」
「年に一度じゃぞ!季節の催しは大切にせい!」
なんだか四人で盛り上がってるな。
谷丸が百貨店で買ってきたチョコレート。
佐原がたくさん作ったマフィン。
みんなでつまみ、夜を明かす。
「サナっち……さすがにこれは……」
「本当に気休めというか、申し訳程度ね……」
「しょうがねっす!今月は赤スパ送り過ぎてアタシお財布ピンチなんすよ!送らざるを!得なかったっす!」
「構わぬ構わぬ、気持ちが大切じゃ!」
沙苗から、小さな小さな個包装チョコが振る舞われた。
「そういや、かよちゃんそのクソデカリュックの中身何なんだ?」
「謙一! よくぞ聞いた! これはの……」
すげえ!
何かと思ったらデデドンビウムのプラモデルだ!
ノハウス・ジールの機体もある!?
果たしてバレンタインの贈り物として適切かはさておき、初めて現物を見た!
「いいじゃろ?いいじゃろ?どっちか選ぶがよい」
「ありがとう、かよちゃん!」
「残った方は、わっちが来月までに組み立てる」
「来月まで?」
「ホワイトデーは謙一が岩手まで来い」
「うん?」
「そして、わっちとブーンドドドするのじゃ!」
「いいな!久々にブンドドするか!」
かよちゃんと話すようになるまで買ったことがなかったプラモデル。
これがまた面白い。
かよちゃんから聞くまで知らなかったブンドドという言語。
スマホで調べたら有名っぽくてビビった。
みんなで戦った遠野での日々も懐かしい。
「なーんか、私達置いてけぼりですねー」
「谷丸ちゃん拗ねない拗ねない」
「アタシらみんな、そのロボットアニメ履修してないっすもんね」
「なんじゃ、おぬしら興味があるのか?」
*
座敷童の現実改変能力。
あまりにも、やりたい放題である。
遠野対策機関北海道支部の施設が組み込まれている大型商業施設。
機関がある三条館から連絡通路を抜けた先のシネマコンプレックス。
本日限り、臨時でレイトショーの枠が増やされた。
増えた、ということになった。
「生き死にが絡まなければの、結構なんでもありなのじゃ」
本日限り、デデドンビウムとノハウス・ジールが戦うロボットアニメがスクリーンで上映された。
上映が決まってた、ということになった。
「わ、謙一先輩!良いですねこれ!!」
「映像の古さもまた、味わい深い……」
「アタシ、水星しか見たことなかったっす!」
「いいじゃろ?いいじゃろ?感謝せい!」
「五人しかいないからって騒ぐなよ。映画は静かに見るもんだ」
銀幕に映る「星屑」というアニメ作品。
それが、かよちゃんから俺達へのバレンタインの贈り物になった。
*
「そういや谷丸、かよちゃんに聞いたぞ?」
「なんですー?」
「真っ昼間から飛んでたってな」
「あ」
「前も誰かに撮られてツブヤックスで拡散されてたろ」
「四万ヨカッタネと二万リツブヤイトされてましたね!」
「ドヤ顔すんな!」
「はーい、気をつけまーす!」
一泊二日の滞在予定だったかよちゃんは岩手に帰る。
明日からの彼女はまた、遠野対策機関のトップ。
沙苗はフィールドエージェントの任をこなしながら推し活に励み、赤スパでおじさん構文を連投する。
佐原は後任や若手育成に励み、谷丸は気ままに街を飛んだり飛ばなかったりする。
そうして俺達の日常は、続いていく。
〈了〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます