第二話 ムクロアツメ(前編)


「かよちゃん、事案ログボードは持ってきてるか?」

「わっちを誰と心得る。当然じゃ」

「今データを送る」

「はよせい謙一」


『ムクロアツメ 脅威判定プロトコルリスク・階層ティアー 高等指定アドバンスド・クラス

 国内正式呼称 人間の遺体を収集する荷車

 二〇一█年██月██日████、兵█県█崎町にて実体が観測され、日本初の目撃例となる。

 以後、█梨県███郡他、全国各地に出没。


 医療施設内霊安室や斎場から死後二十四時間以内の遺体を持ち去る習性を有する。

 発火する車輪を持つリヤカー、荷台に搭乗し鞭を振る人骨、リヤカーを引く大型骸骨からなる三部分で構成される対話不能型アノマリー。

 人骨部は両腕からキネトジェスチャーを行い███に似た小型アノマリーを多数精製、使役。

 これらを用いて遺体を回収していると、フィールドエージェントより報告有り。

 一定周期での物理透過能力、冷却効果のキネト災害を使用。

 これにより建造物への侵入及び障害排除を行っていると考えられる』


 おちおちバレンタインも満喫できんのか。


「ごめんな、かよちゃん。せっかく来てくれたのに」

「構わぬ。さっさと終わらせるぞ」


 スーツ姿の佐原さはらあおいが口を挟んできよる。

 

「かよさんは休んでいた方が……疲れてませんか?」

「嫌じゃ嫌じゃ、待ちとうない!」


 黒いセーラー服、兵部ひょうぶ沙苗さなえも小煩い。


「長旅だったじゃないすか、かよちゃん。大丈夫っすか?」

「ぬかせ小娘!年寄り扱いするでない!」


 謙一がノートパソコンを閉じ、わっちに向き直る。


「かよちゃんの力も借りれたら、頼もしいな」



 わっちの親友、金谷謙一は以前この世界に転生してきた。

 謙一が元いた世界は日本とよく似ておるが、怪異が実在せんらしい。

 代わりに、多くのネット記事や文献が残る。

 こっちの日本とまるで逆じゃ。


「カナヤ君、今回の敵に心当たりは?」

「財団物語の収容生物シリーズです? 謙一先輩!」

「何回も言ってるだろ!物語は遠野物語!財団は物語付けるな!財団は財団だ!」

「アタシはなんとなく、ヨウカイって気がするっすね」

「わっちは夏奈と同じで財団物語に一票じゃ」


 遠野物語、財団物語、宇宙人、他にも多くの「お話」が溢れる世界から来た謙一。

 財団関連は「財団物語」と言わぬと咎められたが、知らぬ。

 物語は須く一緒じゃ。


「とりあえず、沙苗が正解だな。今度の相手はおそらく妖怪に近い」


 ヨウカイ。

 謙一がいた日本では、わっちに近い者が「座敷童」と呼ばれ、それもまたヨウカイじゃったらしい。

 わっちのスマホで座敷童と検索しても何も出ぬ。

 この世界は、ヨウカイのヨウという文字もない。

 

「わっちの能力が欲しいとな?」

「必須ではない。あれば、きっと時短できる」


「おん」

「疲れてないか?かよちゃん」


「任せい。問題ない」

「ありがとう、助かる。みんなも準備を!」


「さて、謙一よ。この怪異……どうたおす?」


「策はある」


 地図が広げられた。

 やれやれ、とんだバレンタインじゃの。


 

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