6-4 差し替え前 原文


 葵さんの様子が心配だった、それは本当!

 だからお見舞いに行きたかったのも本当に本当!!

 でも、今日の目的はそれだけじゃない!!!


「腹、減ったな」

「私もお腹すきましたー!」

「どっか行くか?」

「わー!謙一先輩連れてってくださーい!」


 デートだ!

 デートである!

 これは間違いない!

 アニメや漫画で見てきた!これはデート!

 夜まで時間をかけて、私は謙一先輩を調査する!

 まずはお散歩デート!


「周りから、どう見えてるんですかねー私達」

「兄妹とかだろ」


 カップルじゃないんだ。

 しかも、お散歩デートは一階でエレベーターを降りて徒歩一瞬で終わった。

 ほんとに一瞬だった。

 三十秒もない距離、一言ずつ言葉を交わしたらもう着いたハンバーグのお店。


 最初からここって決めてたのかな?

 ボックス席に座って、調査開始!


「先輩やっぱり年下で、妹!って感じが好きです?」

「やっぱり、って何だよ」

「ほら、先輩がホーム画面でいつも見てる赤い髪の」

「あの人の十七歳って、あくまで設定上のものだぞ」


 謙一先輩が推してる赤い髪のキミチューバー。

 私も気になって最近少し見始めた。

 確かに可愛いし面白い。私のライバルだなって思う。


「設定!?」

「そ。十七歳は公式設定で、中の人はもうちょい年上」

「知らなかった……そっか中の人もいますよね」

「ったく、にわかがよぉ。興味出たのか?」

「ごめんなさーい!興味……ありますね!」

「きしょい、とか酷いこと言ってきたくせに?」


 そんなこと言ったっけ?

 いつだろ、まあいっか。

 もうちょっと突っついてみよ!


「謙一先輩は赤い髪の女の子が好み?」

「いや、そうでもない」

「なら胸?」

「髪とか胸とか、いやそれも確かに大きな魅力の一つではあるそこは否定しない、にしても年齢設定の件といい谷丸お前は読み込みが浅い浅すぎる興味持ってくれたのは嬉しいがきちんと視聴してくれ、あの人単体の良さもコラボでのシナジーも一言では語りきれない、とにかく過去の動画を見ろ、そうすればお前の中でもおのずと」

「わー、待って!謙一先輩、ハウス!」


 周りの人から変な目で見られてる……


「とりあえず、な」

「はい」

「アーカイブ全部見ろ」

「えええ……」

「そうすりゃ見えてくるさ、〝良さ〟ってやつがよ」

「私、切り抜き動画派なんで……」


 どうしよう、ドヤ顔してるけど全然かっこよくない。

 いや違う!謙一先輩のペースに飲まれるな!

 肝心の質問がまだだ!


「もし、推しの人に告白されたらどうします?」

「ないない絶対ない」

「もしも!の話です!」

「そういうのとちょっと、違うんだよな」

「どういうこと?」

「中に人がいるのも分かるけどさ」

「はい」

「付き合うとか結婚じゃなくて、見守りたい」

「なるほど!?」

「壁や空気って言うのかな、遠くから応援したい」


 私のライバルは、いなくなってしまった!!



「さっき謙一先輩は兄妹みたいって言ってましたけど」

「おう」

「なんかこれ、デートみたいにも見えません?」


 

 黙らないでよ!


 

 ちょっと!


 ねえ!無理!


 きょろきょろそわそわし始めた謙一先輩は目を合わせず、ひとりごとみたいに話しはじめた。


「服、これ、別に俺が選んだわけじゃなくて」

「え?あ、はい」

「前の、金谷謙一の持ち物みたいで」

「言ってましたね昔。お気に入りのメーカーって」

「そうなの?」

「はい。十代の時に初めてモールで買ってから、ずっと通ってるブランドみたいです」

「その、ネットだと評判悪かったけど」

「そんなに変じゃないですよ。おじさん臭いですけど」

「ダサくない!?」

「セーフです、セーフ!」


 そっか、中身は十三歳。

 ちょっと可愛く思えてきた。


「セーフかぁ」

「わ、かっこいい!とは、なりませんけどねー」

「まあ、着慣れてるっぽいしこれでいくよ」

「シャツはパンツから出した方いいかもしれません!」

「そうなの?」

「朝から思ってました。前の先輩は出してましたし!」

「なるほど……これで合格?」

「はい!謙一先輩、合格です!」

「……で、谷丸に合格もらったら俺はどうなるんだ?」


 急にそんなこと言わないで!

 

 何なの!

 

 真顔で言われて、恥ずかしくなってくる。

 何も言えなくなった。


「ごめん、変なこと言って」

「別に……いい、です」


 

 なんで謙一先輩の方が恥ずかしがってんの!おい!


 

 そこから、お互いずっと無言でハンバーグを食べる。

 謙一先輩は忙しそうにスマホをいじってた。

 推し活ってやつかな?

 


「長居もアレだな、出るか」

「で……すね」


 お店を出て、まっすぐ少し歩いた先。

 丸太を切り出した腰掛けに二人で座った。

 謙一先輩は左を向いて、大きな館内液晶を眺めてる。


「面白いです?」

「というより……楽しみ、かな」

「どうして?」

「あれに映ってる予告の映画、全部一条館でやるから」

「確かに!見に行けますね!」

「機関入ってる三条館しか知らないから楽しみなんだ」

「今度、一緒に行きましょうよ!」

「いいかもな」


 次回のデート確定演出!きた!

 映画デートか、ヨシ!

 ちょっと攻めてみよう!


「謙一先輩は、気になることとかありません?」

「……まぁ、たくさんある」

「聞きますよ?」

「谷丸、しっぽとか翼出せるの?」


 そっちかぁ。

 

「あー、資料見たんですか?」

「ごめん、少しだけ。共通基礎スペックの項目だけ」

「謝らなくていいです!そこまでは閲覧フリーだし!」

「そっか。出る……の?実際」

「お父さんに聞いたり訓練すれば、出るかもですねー」

「かも、なんだ」

「ぶっちゃけ、出したくないです。可愛くないんで」


 ちょっと私に興味わいてきてるのかな?


「もう一つ、気になってることあって」


 お!なんだろう!


「俺の……能力について」


 そこぉ!?


「消えるやつですね」

「そうそう。やっぱ戻って何か試そうかな」

「戻るぅ!?」

「戦闘訓練室とかで」


 まさかのデート中止!


「ここで試しましょうよ!」

「いや、ここはまずいだろ普通に」

「平日だし人いませんよ!?」

「えええ」

「何回か見ましたけど、そんなに長くないですし!」

「能力の時間?」

「はい!消えても二秒とかでした!」

「なら、いいのかな」



「消えろ!」

「拒絶!」

「消える!」

「消去!」

「イレース!」

「我は不可視」

「バニッシュ!」


 謙一先輩は、手当たり次第に単語を呟きながら目をカッと見開いていた。


「しんどくないです?」

「うん、実情キツい。かなり恥ずかしい」

「ドイツ語やフランス語も試してみます?」

「効果あんのか!?」

「前の謙一先輩は、何かをボソっと言ってましたね」

「マジで!?」

「はい、消える前に毎回!」

「なんて!?」

「なんだっけなぁ、キャンセル、だったと思います」

「………………は!?」

「え?」

「言えよ!それを!先に!さっきから俺ずっと……」


 我慢できず、私は笑い出してしまう。

 呼吸が治まってきて謙一先輩の様子を見ると、様子がおかしい。

 

 さっそく一回「キャンセル」して不発に終わった後。


「声」

「え?何も言ってませんよ?」

「声が」

「謙一先輩、怒ってます?」

「……一、度……発動」


 謙一先輩が、消失した。

 

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