第3話
南無三、寝過ごした。
もうとっくに始業時刻を過ぎている。
朝とも昼ともつかない時刻を指した時計は嗤うかのように時を刻んでいる。
むしろ吹っ切れ、僕は清々しいまでの感覚でリビングに向かった。
すると、そこには新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる宵岡さんの姿があった。
その朝日を浴びて座る姿はとても眩しく、美しい。こうしてみてみると、宵岡さんはすごく美人だ。
どこかクールな雰囲気もただよっている姿はとても美しく映った。
改めて、自分が拾われたという奇跡が、現実味を増し、同時に今までの人生には訪れなかったほどのおおきな幸運だと思った。
彼女を見つめボーッとしていると、彼女が僕に話しかけてきた。
「あ、おはよう。随分遅いね。」
と、爽やかな笑顔で僕に挨拶する。
僕は我に返り、ああ、と間の抜けた返事をした。
「すいません…」
と、俯きながら言うと、
「あはは、そんな謝らなくていいよ。」
と笑いながら言う。
その笑顔を見ると、ぼくのなかに心地よいような、辛いような、えもいえぬ感覚が溢れる。
そこで、宵岡さんが立ち上がり、ぼくの方に近寄ってくる。
「よく眠れたようで安心した。昨日はあんなことがあったけど。」
そういわれて、昨日以前のことを思い出す。
それは思ったより遠い過去に存在するように思われ、思い出すことで精一杯だった。
「そうでしたか…」
と僕はまるで他人事のように呟いた。
「まあ、これから仲良くやっていこっ♪…大丈夫だから」
と彼女は言った。
「ところで、学校はどうしたの?」
「あっ、えっと、ど、どうしよう。」
「寝坊しちゃったのね。」
宵岡さんが微笑む。
「ああ、今日家に荷物を取りに行ってからいつも通り登校しようと思っていたんですけど…」
「あら、確かにそれは必要ね。段階を踏んでこちらに持ってこないと。」
この言葉を聞いても、どうやら僕を長期的に住まわせてくれるお話は本当なのかもしれない。
「1日ですべて運びきれると思いますよ。ぼくの家には本棚くらいしかないので。」
「そうなんだ。じゃあ、もう今日全部持ってきちゃうか。」
「そうします。」
「学校は…まあ、今日くらい休んでも大丈夫です。どうせ今までもかなり休んできたので。」
「そうだったのね。だけど、私の家にいるからには、学校はちゃんと行かないとだめだよ。私は一応あなたの保護者なんだから、そういうところはちゃんとしてもらうからね。」
なんて優しい人なのだろう。僕にここまで真摯に向き合ってきてくれたひとは今までの人生で姉を除いて一人もいなかった。
「はい、これからは頑張ります。」
「素直でいいね。」
「あ、ありがとうございます。」
「そういえば、来月の模試に向けて自分のできる範囲で勉強も始めておくといいかもしれないね。」
と宵岡さんが言った。
勉強か…そういえば、いままで生きていくことで精一杯で、ほとんどしてこなかったな…とりあえず、基礎的なことから見直していくか。
「じゃあ、一緒に荷物を取りにいこう。」
「はい。」
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