Case 18.おもしれー女
カナタんは、語り始める。
「違和感に気づいたのは、先週の──メンバーシップ限定、カナタん腹パン会の時のことぷい」
「なんだそれは」
「カナタんがファンに一人一回腹パンする会」
「え、なぜ……?」
「何故って言いやがっても。メスガキ系ITuberなんてこんなもんぷいよ」
「本当にそうか!?」
「まぁアイドルでいうところの、握手会みてぇなもんでしょぷい」
「本当にそうか!?」
ベル書店の事件でのような──そう、被虐趣味といった例もあるが、それ程多い性的嗜好ではないだろう。
「それでその時に、ファンの人から、きな臭ぇ噂を聞いたぷい」
「ほう」
「なんでもここ最近、色んな場所から、突然人が消えやがってるらしいぷい」
「人が……?」
「ね、きな臭ぇでしょ? 他のファンからも同じような話を聞いて……カナメイトの中にも消えた人が結構居るって言いやがってて──あぁ、そのファン達は、同担拒否じゃねぇから、安心しろぷい」
「いやよく分からん」
何を安心するのだろう。同担拒否という語彙は、私の頭の中になかった。
「それで、白崎 麗に相談したぷい。調べて欲しいって」
「なるほど──そういえば、カナタんと麗ちんも、協力関係にあるのか?」
「はっ、まさか。主従関係ぷいよ。あいつがカナタんを殺さない代わりに、聖霊会に情報提供してやってるぷい。あのメスガキが協力しやがると思うぷい?」
「なるほどな。……どうでもいいが、麗ちんの方がメスガキ系って感じするな」
なんとなくだが、そう思った。
「ちなみに、白崎 麗は、カナタんよりも前に転生してやがったぷい。初配信の後、すぐ居場所と参加者であること特定されて、剣向けられたぷい。そん時には、結構の地位にアグラかいて座りやがってたぷい」
「麗ちんは、ずっと麗ちんなんだな。そういえば私は、コナン君のせいですぐバレたな」
「……コナン君?」
そこで、逸れた道筋を元に戻して。カナタんから、話の続きを聞いた。
実際、聖霊会とカナタんが手を組むことによって、失踪者の居場所はすぐに判明したらしい。ヴェルサイユ通りから馬車で数十分ほどの距離の──森の奥にある、錆びれた教会に失踪者は向かっていたそうだ。
そして聖霊会の人間が、教会の中に入ると──どこか、別の場所にテレポートさせられたらしく。すぐに、女の声が鳴り響いたのだと。
その女の声が言うに、そこは彼女が創り出した空想世界であり──彼女の元へ辿り着くには、空想世界から抜け出すこと。
いつでもリタイアは可能で、死ぬこともないが──誰一人として、抜け出すことができていないらしい。
そして、その空想世界では何故だか魔法も使えないらしく……麗ちんもどうしようもないとのことだ。
さらに──その女の声が言うに、クリエイティブでなければ、決して脱出不可能らしい。
「空想世界を創り出す、か……」
「相当えげつねぇ魔法の使い手ぷいね」
話を聞いた感じ、謎は多い。しかし、分かることもある。
「おそらく──犯人はデスゲームのプレイヤーだろうな」
カナタんにインプットされた内容では、異世界の住民の魔法はプレイヤーと比べれば、弱いという。
例えば、クリスさんの重力操作やエリザベスさんの絵を自由自在に操る能力。確かに凄いが──ジョーカーの能力と、その彼を上回った麗ちん。そして、まだデータは少ないが、モリアーティ。かなり強大だ。
「空想世界で殺されねぇのならってカナタんも挑戦したけど……全然出られなかったぷい。これでもクリエイターなのに、無様だぷい」
「え、挑戦したって、危険じゃないかカナタん。流石にプレイヤーだとバレたら、何されるか分からないのだろう」
「ファンが被害に遭ってるなら、指くわえて黙ってられねぇぷい」
そう悔しそうに言うカナタん。彼女も強い信念を胸に宿しているのだろう。私は頷いた。
「だからと言って、シャーロット、お前を巻き込むつもりはねぇぷい。ただ、知恵を借りようと思って」
「ふむ……」
そうはいっても、今の情報だけでは推理のしようがない。
だから……。
「私も教会に行ってみよう」
それしかないだろう。探偵と警察は足を使って事件解決の糸口を見出すものだ。
それに……ジョーカーや麗ちんの胸に私の言葉が届けられなかったことを、とても後悔している。その犯人がプレイヤーなら、今度はしっかりと、いけないことはいけないと、伝えたい。
「シャーロット……お前もぶれねぇヤツぷい」
私の言葉に、やれやれといった様子で言うカナタん。
「それでこそシャロ」
私の彼女になったマキナさん──恋人だから、ちゃんにしよう。マキナちゃんは、嬉しそうだった。
「私の恋人、おもしれー女」
私はそう言いながら、彼女を大切にしようと決意した。
「恋人はおこがましい。私が勝手に傍に居たいだけ。別れて」
「私もう振られた!?」
しかし、破局してしまった。
いや、でも、私には恋愛というものがよく分からないので、これでいいのかもしれない。交際は、お互いの心が通い合ってないといけないと本で見たときある。
「デスゲームに参加してるとは思えねぇ空気感だぷい」
「でもそれは割かし、カナタさんも」
「あ?」
ワトソン君を可愛く睨むカナタん。
まだ見ぬプレイヤーが、彼女のような人間であればいいなと、私は心から願った。
そして、早速明日には教会に行こうと決めたその日の夜……。
「そういえばシャロちゃん、お布団がありません」
「あーマキナの。確かにな」
結局私は、マキナの敬称を外した。ちゃん付けした瞬間振られたことが、ちょっぴり悲しかったからだ。
そんな彼女も事務所で暮らすこととなり。布団を購入していないことに、就寝前に気が付いてしまった。
「もっとマキナって呼んで、シャロ」
「マキナ」
「愛してる」
名前を呼んだだけで、私は愛を伝えられた。それはとても気分がいいものだった。
「今日は私がソファで寝るよ」
私はそう提案する。
「それは駄目。私が寝る」
「いや、それならわたしが。わたしはワトソン君──助手だからっ」
「それなら私は恋人」
「さっきお別れしてなかった!?」
「……つまんねー女」
「なんで!? ひどいっ!」
私に気を遣って、二人は言い争ってしまった。とてもよくない状況だ。
でも、私はこれを解決する言葉をドラマで聞いたときがある。
「──私のために争わないで!」
これは王道らしく、よく聞くテンプレートなセリフだから、自信がある。
「それなら、どっちがシャロのあの笑顔を再現できるかで勝負しよう」
「望むところだよっ! マキナちゃんより、シャロちゃんと一緒に居る時間長いんだからっ」
「私無視!?」
「それと、負けた方は明日一日語尾に『ヤンス』をつける」
「罰ゲームってやつだねっ! おっけーだよっ!」
やはり私は、サムさんや
二人は私を差し置いて、向かい合う。
そして、私の真似をして、ぶへへへっと笑って、こちらを向いた。私のアイデンティティだからか、あまりいい笑顔には見えなかった。似てなかった。
「シャロちゃん、どっちが似てた!?」
自信満々に言うワトソン君。
「いや、どっちも似てなかったぞ。じゃあ私に顔の系統が近いマキナの勝ちでいいんじゃないか」
点数を付けられないほどだったので、そう言った。
「愛の差ね。ソファは私のもの」
「リーゼロッテ、一生の不覚……!」
こうして、新たに迎えた3人の夜は更けていった。
◆
翌日──事務所の前で、カナタんが聖霊会に頼んで準備してもらった馬車に私達は乗った。
「無理はしやがんじゃねぇぷいよ、シャーロット」
彼女は出発直前、心配そうに言ってくれた。
「あぁ。……口調はキツイが、やはりいっぱい優しいな、カナタんは」
そんな彼女を応援してくれるファンをなんとしてでも救ってあげたい。そんな気持ちが芽生えた。
「わたしも僭越ながら、精一杯頑張るでヤンス」
「お前は口調どうしたぷい!?」
こうして、カナタんに見送られ……揺り籠がごとき馬車に身を預けるのだった。
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