Case 17.新たな事件の匂いがしやがるぷい
ブリリアント婦人からの報酬で事務所を構えて10日程が経ち……ワトソン君とも打ち解けていった。彼女の口調は砕けてきて、ブリリアント婦人に言われた通り……変わろうとしているようだった。
事務所も、アンティークな家具で揃え、家としても十二分に機能している。それでもお金は余ってるくらいで……婦人には感謝しきれない。
「──それでな、同室のサムさんに教わったんだ。ミコちゃん、勝って兜の緒を締めよ。人間、希望を手にしたときこそ、油断してはならないと。それが、ワシが今日、天井目前1474ゲーム赤7単発をくらって思ったことじゃって」
「その同室のサムさんって人の話、毎回分かんないんだけど!?」
「私も分からん。サムさんは聡明で、私が本で見たときないこと沢山知っていたからなぁ。後、ポセイドンだけは信用しちゃダメらしいとかな」
「ポセイドンさん誰!?」
ワトソン君にはもちろん、私のこと──異世界転移とデスゲームのことを全て話した。荒唐無稽なことだけど、ワトソンに志願するだけあって、時間はかかったが、信じてくれた。なので、サムさんのことも気兼ねなく話せるし、楽しかった。
「シャロちゃん、その人のこと本当に大好きだったんだね」
「そうだな。主治医の先生もだが、私は周りの人間に恵まれていた」
好き、という感情はあまり考えたときなかったが、今思えばそうなのだろう。先生やサムさんは私に幸せを与えてくれたのだから。
と、そこに、ドアをノックする音が聞こえる。
どうぞ、と言うと……。
「へぇ、案外綺麗ぇにしてやがるじゃねぇぷいか、シャーロット」
現れたのは意外な人物──プレイヤーであるカナタ・プイキュアとマキナさんだった。空の上の──バーチャル空間じゃない実体の彼女に、どこか新鮮さを覚える。
「リアルで見ると、意外と小さいのだな、カナタさんは」
「カナタんでいい。お前よりは十分でけぇぷいよ、シャーロット」
「……プイキュア名乗ってるのにやっぱ口調怖い」
「まぁメスガキ系でやってっからね、カナタんは」
悲しいけど、インフルエンサーとしてのキャラクターを演じているのだろう。正直素に見えるが。
それから、ソファに座って貰い。ワトソン君が二人にミルクティーを用意してもてなした。
落ち着いたタイミングで、私は口を開く。
「というか、よくここが分かったな」
「ローランド家のあの口わりぃ女に教えてもらったぷい。光の玉で探さずに済んで楽だったぷい」
「君も十分口悪いが」
ブリリアント婦人は、この事務所を借りる手伝いまでしてくれたので、そういうことか。
「今日ここに来たのは──カナタんが、お前を信じてるってことを伝えに来たぷい。ローランド家の一件で、お前だけは、デスゲームに懐疑的な姿勢を見せやがった。カナタんも、こんな腐ったデスゲーム、クソ喰らえって思ってるぷい。……配信では、キャラ作ってたけど。もう二度とあんな配信しやがらねぇぷい」
「……なるほど。やっぱりプイキュア好きに悪い人はいない」
「……? 別に好きじゃねぇけどぷい」
「え!?」
「そもそも魔法少女自体、鬱々としやがってて嫌ぇぷいね。魔法少女なんて、大概味方同士で殺し合ってるじゃねぇぷいか?」
「いや偏見だろ。あの作品だけだろ」
「なら、色んな作品想像してみるぷい」
思考を回す。魔法少女がテーマの作品を次々と思い浮かべる。
「……………」
私は反論を諦めた。
「それでお前は、カナタんのこと、信じてくれるぷい?」
真剣な眼差しで見つめてくるカナタん。プイキュアが好きじゃないことはショックだが……私は、信じたいと思った。彼女が聖麗会と──麗ちんと繋がってるのは、ジョーカーとの件で確実。そして麗ちんは、私のこと嫌いって言ってて……だから裏があるかもしれない。でも、私は真っ向から人を疑いたくない。疑うのは、事件で推理しなきゃいけないときだけだ。
「あぁ、もちろん信じるよ」
「話が分かってやがるぷいね、シャーロット」
そう言いながら、手を差し出してくるカナタん。私たちは、握手した。
「元より戦うつもりなんて毛ほどもねぇぷいけど、カナタんも、もう少し戦闘向きの魔法を持ってたらよかったぷいね……」
「そういえば、君の魔法は──やはり空に映写するあれか?」
「そうぷい。光の玉──あー、これも前言いやがった通り、カナタんの魔法で生成したものぷい。光の玉の周辺の状況を、別ん場所にリアルタイムで配信できる。もちろん、配信しやがらないで、カナタんだけが状況を知る事も可能。ジョーカーも言ってやがったけど、監視カメラみてぇな使い方もできるぷい」
「なるほどな。……そうだ、では、マキナさんの魔法は?」
「愛してる私に魔法適正はない愛してる」
「え? あーそうなのか──……愛してる?」
何故か私は、愛を伝えられた。よく分からなかったけど、嬉しかった。
「……そういえばお前の魔法はなんなのぷい? 一度も使いやがったとこ見てねぇぷいね」
「……実はな」
私は、自分が魔法を使えないことを話した。隠していると疑われても無理ないが、JOKERの名前を出すと眉を顰めながらもとりあえずは納得してくれた。
「JOKERが無能力者なんて、エッジ効きやがってるぷいね」
「まぁ、魔法を使えてたとしても、私はゲームを降りていたがな」
「そうぷいね。白崎 麗やジョーカー──あのモリアーティとかいうチビガリ女の脳味噌がイカれてるぷい」
「本当に口悪いな君……」
「メスガキ系ITuberからぷいね」
「よく分からんがメスガキ系ってそういうキャラなのか!?」
あっちでサムさんと一緒に一回だけバーチャル配信者を見たときあるが、もっと純然でキャッチーな感じだった気がする。
そして次に、私達はインプットの情報交換をした。
私の情報に加え、彼女には2つの知らない情報がインプットされており──。
・異世界について:魔物が跋扈している伏魔殿のような場所を想起しているかもしれない が、君たちが転移する世界に魔物は存在しない。
・異世界の住民について:魔法適正を持つ者は多いが、基本、参加者より強力な魔法を持 つ者は存在しないだろう。十分に利用するべきだ。
㊙:君は参加者の内、4番目の転移者である。
「あれ!? 私よりインプット量多いぞ!?」
「おかしいぷいね。シャーロットが何番目に転移しやがったのかは不明だけど──カナタんより3か月くらい遅いぷい。これもJOKERの特権ぷい?」
あのオランウータンは、私をどうしたいのだろう。明らかに、不遇にしてきている。真相究明するって息巻いていたからなのかな。
「その主催者の求愛行動なのかも」
カナタんの隣に座るマキナさんが口を開く。彼女は頬をほのかに染めて、私の瞳をしっかり見つめて。
「──貴方は最高の人間だから。私も、貴方にゾッコン」
澄んだ瞳を輝かせて、二の句を継いだ。
「……マキナさんが、私に?」
そういえば、さっき愛を伝えられたし──ローランド家で戦いが終わったあと、似たような表情を向けられたのを思い出した。
「そう。食べちゃいたいくらい」
「そんなにか」
「君も膵臓も食べたい」
「欲張りさんだな」
しかし、何故だろう。私は理由を訊ねた。
「ローランド家での戦い──ぼろ雑巾のようになりながらも、白崎 麗たちに心根を訴え続けたあの姿に、私は心打たれた。恋した」
「そ、そうなのか? ぶへへへっ」
「……! その笑顔……やばい……ドキドキが止まらない……」
私は、初めてサムさん以外から笑顔を褒められた。私の口角はさらに上がった。
「………………あれ本気で笑ってるぷい?」
怪訝な顔をして、カナタんはワトソン君に尋ねる。
「はい。シャロちゃん、全身全霊の笑顔です」
「ある意味異能ぷいね」
カナタんのはネガティブな意見だったけど、気にならないくらい、嬉しかった。
そして、マキナさんの想いは本気なようで……。
「私──貴方の──シャロの隣に居たい。シャロが穢されながら、汚されながら、必死にもがく姿を傍で見たい」
そう、私の手を強く握ってそう言った。人に強く好意を示されたことが少なかったので、私は驚いた。何を言えばいいか分からなくなってしまう。
「今日はそれも、伝えにきたぷいよ。コイツ、マジでシャーロットにバチクソ惚れてるぷい。あれからずっと、お前の話しやがるぷい」
ティーカップを持ち上げながら、カナタんは言った。本当に、マキナさんは私を好いているということらしい。
私は──告白されたときがない。初めての経験だった。
だけど、早く何か返さないといけないと思い、恋愛作品を思い浮かべて……。
「おもしれー女」
見たときあるセリフを引用した。マキナさんは、顔に紅葉を散らし、大きく頷いた。セリフの候補は色々あったけど、間違いではなかったらしい。
「……お前も十分おもしれぇぷいよ」
カナタんは、ジト目で私達を見回しながらそう言った。
「では、カナタ」
そんな彼女の方をマキナさんは向く。
「シャーロットがいいなら文句ないぷい。配信も一人で十分慣れてきたし。ただし、マネージャーを辞めた訳ではないぷい。カナタんが呼び出したらくるぷいよ」
「うん、カナタ」
こうして、助手だけでなく、仲間のプレイヤーと、恋人もできてしまった。
そして……。
「──それじゃあ、本題に入るぷいよ。お前に相談したいことのメインだぷい」
私達は三人で新たなミステリーの坩堝に足を踏み入れることとなる。
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