第24話:ゲームチェンジャー
「なんで開いたの!?」
「僕が、かつてこの国を支配したドワーフの子孫だからだよ……たぶん」
そんな僕の言葉を聞いて、ジルが目を見開いた。
「そうか……エリュシオン家は古ドワーフ時代から続く血脈だもんね……血が鍵だったのか……!」
ジルが興奮気味にそう言うけど、多分、これ僕じゃなくても開くと思う。
ゲーム内ではあんなイベントなかったけど、別にこのエリオン王国の人間じゃなくてもここを見付けて開けることができたしね。
おそらくだけども、国を動かせるレベルの権力者が来るとあの老人が出てきて問答を行い、合格すれば鍵が貰えるみたいな、そんな感じだろう。
「さあ、入ろう」
僕は二人よりも先に扉を抜けた。その先には鉄で覆われた無骨な通路が続いている。
鉄と錆の臭いが鼻腔をくすぐる。
「やっぱり、人工物だわ」
ジルが興味津々に、通路の壁や床を検分している。
そろそろ、種明かししても良い頃合いだろう。
「ウヴァルローグ……〝焔を吹く城の如き存在〟だっけか。その表現は当たらずとも遠からずだよ、ジル」
「まるでここが何か知っているかのような口振りだな」
リッカがそう僕の背中に問いかけてくる。
「まあね。ここはかつて竜やエルフと覇権を争っていた、僕らの先祖であるドワーフがその技術の全てを詰め込んだ――空中戦艦の残骸さ」
「空中……戦艦? おいおい」
リッカが呆れたような声を出した。無理もない。僕だって、いきなりそんなことを言われたら、そうなる。
「戦艦は海に浮かぶものだろ」
「今はね。遥か古の時代に、ドワーフは船を空に浮かべていたんだよ。竜に対抗する為にね」
「……
リッカの先祖である
だからそんな名前がつき、不吉なものと恐れられた。
「竜と間違えるのも仕方ないわ。だってここは竜に対抗するために造られたのだから。大きいのも納得だわ!」
ジルはというと、すっかり僕の言葉を信じてしまっている。
「しかし……アルマ王国はこんな遺跡のために、わざわざ攻めてくるのか?」
逆にリッカはさめたような口調で、つまらなさそうに周囲を観察していた。
「何を言っているのよ! 前竜欧暦のことが分かるかもしれない超貴重な遺産なのよ!? きっと世界各国から客が訪れるわ!! そうすれば街にも活気が戻る! なるほど、ウル様の目的はそれだったのね! 戦艦の眠る山の街ハルキアって打ちだしましょう!」
なんかジルが勝手に盛り上がっていて、僕は思わず苦笑してしまう。
そうであれば、どれだけ平和だったか。
「……残念ながら僕の目的はこの戦艦じゃない。この戦艦の中にある、とある場所さ」
このウヴァルローグをさっきは空中戦艦だと言ったが、用途しては戦艦というよりも、拠点や要塞としての側面の方が強い。
もはやどういう原理で浮いていたかは謎だけども――ここが要塞なら、必ずアレが存在するはずである。
気付けば、僕は通路の途中で立ち止まっていた。
横にはまたあの紋章の扉だ。その上に、僕には見慣れたとあるものが交差した意匠が施されている。
「ここだ」
「まるで自分の家のようだな」
リッカが僕の心を見透かしたような発言をする。
「王族にだけ伝わる伝承のおかげ……と言ったら信じる?」
「別になんだっていいさ。ウルが無理してまでここを得ようとした理由が、この先にあるのだろ? それには興味がある」
「早く、開けましょ!」
ジルが待ちきれないと言った様子で急かしてくるので、僕は再び右手を翳した。
扉が音もなく開いた。
その先にはあるのは――
「なんだここは。武器庫のようだが……」
そこはかなり広い部屋で沢山の武器が置かれていた。だけども、剣や槍といったものは殆どない。
「金属製の筒……槍かしら!? でも先は尖っていないし、柄も変ね……。それに色んな形があるわ。それとあっちの人形は何かしら。女の子っぽい見た目だけども!」
ジルがまるで子供のような声を出すが、僕は予想通りとはいえ、その光景を見て感慨に浸っていた。
前世の記憶があるからこそ分かる。
まだ騎兵が活躍するこの時代に――銃がこれほどの数が揃っている、その意味が。
「ざっと見た限り、数百丁はあるな。弾も使えるかは不明だが、揃っている」
僕は棚に置かれた箱の中に無数に詰められた弾を見て、頷いた。
銃と言っても、前世のものとは形や機構が多少違う。しかし見る限り、その全てが後装式銃で、薬莢まである。つまり前世において、一般人がイメージする銃とほぼ同じ仕様のものだ。
こんなものまで造っていたご先祖様の技術力には恐れ入る。そして空中戦艦や銃を造る必要があるほどの敵がいた時代に生まれなくて本当に良かった。
「これがあれば……貧弱なうちの軍でも勝てる。ただしあくまで最初期、そして局地的にだけどね」
銃および近代兵器――それこそが、この竜欧大陸において戦争を激化させる要因である。
ドワーフの遺産という設定で存在するこのチート級武器が眠っているせいで、このヴァーゼアル領およびエリオン王国は各国に狙われることになるのだ。
そして一度明るみに出れば――あっという間に大陸中にこの武器が広がっていく。当然、他国に模倣できるレベルの技術ではないけども、問題はドワーフの遺産がここだけにあるわけではない点だ。
これまで各地に眠っていたドワーフの遺産が……これをきっかけに封印が解かれることになる。
つまり僕のせいで、この世界に銃という特異点がふいに発生してしまったのだ。
今は第一発見者である僕が有利かもしれないが、時間が経つにつれ、各国にも銃が行き渡るようになる。
少なくともゲームではそうだった。
この世界でも同じになるだろう。
もちろん――僕だって銃を使わないことを考えた。この封印を解かないままにしておくことをずっと考えていた。
だけども銃による軍事力の強化および、それを利用した外交を行わないかぎり、この国は守れそうにない――そう結論付けてしまったのだ。
それに僕が開けなかったところで、誰かにここを取られれば、遅かれ早かれ封印は解かれてしまう。
だったら先行者有利を使える今こそ、開ける方が良い。
だから僕は矛盾を抱えながらも、封印を解いた。これから始まる血みどろの大戦争を生き抜くために。戦争を少しでも無くすために。
「……ウル、あれも武器なのか」
リッカが、壁に飾られていたものへとジッと視線を向けた。
長い銃身。リボルバーのような機構。六弁の花を模した華麗な装飾。それを僕は壁から外して、弾が込められていないことを確認してから、その銃口を覗く。
螺旋状に掘られた溝があるのを見て、確信。
「リボルビングライフルだね」
「私にも使えるのか」
リッカがそう聞いてくるので、僕は頷いた。
とはいえ整備も必要だし、弾も錆びていないかどうかの確認もいる。
ただ、千年以上前から放置されているはずなのに、なぜかどの武器も新品同様に見えた。この部屋だけまるで時が止まっているかのようだ。
「多分、使えると思うよ」
「そうか。なら、これがいい」
リッカがリボルビングライフルを手に取った。
なぜかそれが妙に似合っている。
「ちょ、ちょっと待って! これ、ぜーんぶ武器なの!? ああ、どれから手をつけたらいいのかしら!? というか、なんでウル様はそんなに詳しいの!?」
ジルが耐えられずにそう叫んだ。まあ無理もない。むしろすんなり受け入れているリッカがおかしいのだ。
とはいえ、説明はし辛いのでこう言うしかない。
「王家の伝承」
「なんか冷静に考えると、凄く嘘っぽいわねそれ……」
「あはは、また今度ゆっくり説明するよ、とりあえず動作するか確認したいから、いくつか持って帰ろう」
僕がそう言って拳銃と、弾薬をいくつか手に取った。箱に書かれている古ドワーフ語もなぜか読めるので、弾の種類もなんとなくだが、見分けられた。
整備道具も置かれてあるので、それも拝借する
その時、僕は背中に視線を感じたような気がした。
振り向くと、武器庫の奥の壁に立て掛けてある人形と目が合った。
美しい少女の形をしていて、球型関節や一部の金属部のおかげで人形だと分かるけども、それ以外は人とそっくりだ。
あんなものまで造っていたのか、ご先祖様は。良い趣味をしている。
でもまさか……動かないよね?
「どうした、ウル」
「いや、なんでもない」
結局微動だにしない人形に背を向けて、僕達は武器庫を出た。
こうして僕は世界を激変させる武器を手に入れた。
あとはこれをどう使うか、そして使われたらどう対処するか、である。
*作者よりお知らせ*
現在1日2話更新しておりますが、すみません!!! 当分の間、1日1話更新(18時更新)になりますっ!!!!
理由は作者のお引っ越しおよび確定申告や本業のあれこれが重なり、めちゃくちゃ忙しいからです! まことにごめん!!
毎日更新は継続するので許して!
というわけで引き続きお楽しみください。
君のフォローやレビューやコメント、待ってるぜ!
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