クオリア

人はある絵画を見て言った


この作品は


嬉しそうに微笑んでいる


暖かくとても美しい作品だと



しかしまたある人はこうも言った


この作品は


海底の様に何処までも深く静かで


とても美しい作品だと




目の前にはいつもと変わらない景色が映る


朝の騒がしい教室


午後の気怠さの残る教室


放課後の喧騒と再び取り戻される静寂




昨日彼女は


私の事をずっと前から知っていると言った


それは


高校生になる以前から知っているかの様な口ぶりだった。


だが私たちが出会ったのは高校生になり


同じクラスになってからなので


当然それ以前の彼女を知らない




私にとって


あくまで自分が見ているものこそが真実であり


それ以上もそれ以下もないからであるが


彼女が昨日その言葉を発した時


何の根拠も信憑性もないのに


何処か過去に経験したかの様な錯覚を覚えた


存在しない記憶について


単に揶揄われているだけかもしれないという


懐疑的な気持ちを持ちつつ


その真実に迫りたいという感情が


奥底で渦巻いていた。

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