第1話「出会いの夜」Part2

咲夜は女子高生と少し距離を取り、同じ方向の壁側にもたれ掛かった。近くの電柱の街灯が二人を照らす。

女子高生は乱れていた制服を正し終えると、壁にもたれ掛かった。そして一呼吸し、

「あなたが噂の殺人鬼さん?」女子高生が咲夜に問いかける。だが、返答はない。顔はフードで隠れていて見えなかったが、咲夜は下を向いているようだった。でも、それが質問への答えだと理解した。女子高生は話を続ける。

「まさか女の子だったなんてね。ニュースでは男性だって言われてるし、それに何十人も殺されてるから、てっきり、男の人かと思ってた。本当にビックリしてる。こんな、か弱い女の子が人をたくさん殺しているなんて…。ねえ、どうして人を殺すの?」女子高生の問いかけに、咲夜は黙っている。咲夜は自分の内面を探り、答えを見つけようとしていた。だが、答えが出てくるはずもなかった。咲夜は右手で左腕を抑え、ギュッと、力を入れる。 

「わからない…急に衝動がきて、自分でも抑えられなくなる。でも、殺すことでしか、自分が生きていると感じられないの。それが私の、唯一の現実感なの。」咲夜の声は震えていた。

女子高生は静かに彼女の言葉を聞いてた。二人の間に夜の冷たい風が吹き抜ける。「安心したよ。好きで人を殺しているんじゃないんだね。あなたは、自分が何者なのか悩んでいる感じがする。時に私たちは、自分が何者なのかを見失うことがある。でも、それを取り戻すチャンスもあるのよ。」

女子高生は胸に手を当てながら話す。女子高生は咲夜を殺人鬼とではなく、一人の少女として見ていた。

冷静に話す女子高生に、咲夜は動揺し、胸が騒ついていた。さっきまで、自分に殺されかけていたというのに、どうして、こんなにも落ち着いて話しているのか、理解出来なかった。それに、さっき、「安心した。」と言っていた。私に安心する?意味が分からない。人殺しの私に安心できる要素はどこにある?今、この瞬間にも私があなたを殺すかもしれないのに…。どうして…。気がつくと女子高生の言葉に心を奪われていた。自分でも会って数分の、しかも、殺そうとした相手に心が惹かれていることが分からなかった。それに、なぜ、彼女の言葉はこんなにも自分に刺さるのだろう…。これまで咲夜は自分の行動を疑うことがなかった。しかし、女子高生との出会いが、咲夜の心の奥底に隠れていた疑問を呼び覚ます。

咲夜は女子高生をフード越しに、横目でじっと見つめ、自分の本心を探るように問いかける。

「どうして、私を変えようとするの?」

女子高生は夜空に手を伸ばす。広げた指の隙間から、星々が見え隠れしていた。そして、優しい口調で答える。「私を殺さなかったから。さっき、ナイフを突き付けてきた時、あなたの目は獣のような目をしていたけれど、どこか、寂しげで、助けてほしそうな感じがしたんだよね。それに、私には失うものがないけれど、あなたには、まだ見つけられていないものがあるから。それを見つけるためには、変わる必要があるのよ。」

女子高生の言葉に、咲夜は自分自身について深く考え始める。彼女はこれまで殺しを通じてしか自分を感じることができなかったが、女子高生の存在が彼女の心に新たな可能性の光を投げかけていた。

「でも、変わるって、どうすればいいの?」咲夜の声は小さく、迷いに満ちていた。

女子高生は答える。「変わることは、新しい自分を受け入れること。あなたが本当に望むものを探してみるの。大丈夫だよ。私も手伝うから。」

女子高生は咲夜からの返事を待つように、しばらく黙り込んだ。周囲の静けさが、彼女たちの心の動きを反映しているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る