第6話 発酵(善)と腐敗(悪)は裏表

  善玉菌が増えるか、悪玉菌が繁殖するかによって、運命は分かれるのですが、日本人の食とは、味噌・醤油・納豆といった発酵・醸造という善(玉菌の働き)が基本。渋柿という「悪」でさえ、発酵作用を利用して甘い干し柿にして楽しむ。


「腐敗を観て楽しむジョーカーの楽しみ方」とは異なり、「日本昔話」流、人の手によって善なるものを増やして楽しむという生き方が、在来種純粋日本人(の発酵文化)なのです。(今は韓風政治屋とマスコミによって、日本人全員が腐敗へと流されていますが。)


そんな(昔の)日本の流儀からすれば、「他人を殺してまで自分が生き残る」という道を取るかどうか。これは、その時・その場に自分がいなければ絶対にわからないことでしょう。


しかし、私自身が知るある人たちの場合、絶対にこうなるという確信が持てるケースもあります。

それは私の(父方の)祖父と祖母であり、彼ら一家が戦争中に住んでいた朝鮮のある集落の人々(貴族ではなく平民)のことです。

かれら日本人と朝鮮人は、恐らくどころか絶対にボタンを押すことはない。極悪な生活環境の中、互いに助け合って生きることで、血は違えど、同じ「日本昔話の世界」になっていたからです。


私の祖父母は明治生まれですが、全くもって「日本昔話」の日本人。人を裏切る、疑う、憎むということをしないというか、知らない人間であったようです。


1937年(昭和12年)から1945年(昭和20年)までの8年間、彼ら一家は朝鮮のある村(川沿いの500戸・約1500人)に、日本が建てた軍需靴工場の工場長として赴任し、朝鮮の貴族である両班りゃんぱん一家が住んでいた丘の上の邸宅(この家だけにオンドル(朝鮮の暖房装置)と井戸がある)に住んでいました。


しかし、祖父母が「日本昔話」感覚で朝鮮人に接していたため、警察から「朝鮮人と仲良くし過ぎる」と咎人(とがにん)扱いされ、在朝鮮2年で工場長の職を解任されて邸宅から追い出され、1945年の敗戦までの6年間、(暖房器具やトイレさえない)一般朝鮮人と同じ部落で、貧しい暮らしに追いやられたのです。


夏は蒸し暑い、冬は部屋の中の水まで凍る、なんていう生活に耐えられなくなった私の父は、家計を助けるという理由もあり、14歳で蒸気機関車の釜焚き(16歳で機関士)になり、その姉(私の伯母)は今のソウルにあった日本料理屋へ奉公に出されました。

終戦後の日本で○○大学を首席で卒業し、○○市の教育委員長になり、裁判長閣下の娘と結婚して大邸宅に住んでいたなんていう、当時4歳の父の弟(私の叔父)は、家の中にトイレもない本も机もない朝鮮人部落で、乞食のような生活を6年間もしていたのです。


同じ日本人とはいえ、「発酵(善)と腐敗(悪)」という両極は必ず存在する。1945年8月15日の敗戦前、大日本帝国の警察署員や職業軍人(とその家族)は全員、金目のものを持ってさっさと日本へ逃げ出していたそうです。


後に残された私の祖父母のような一般の日本人は、戦後すぐの外地で、更に悲惨な状況に置かれたのですが、村の人々に助けられ釜山港で涙の別れをして日本へ帰りました(日本ではもっと酷い飢餓が待っていた)。


「朝鮮が懐かしい」と言っていた祖母のことを、その死後、父や姉(私の伯母)は不思議に思っていたそうです。あんな苦しい生活をしていたのに、と。 極貧生活に落とされてから、父は満州鉄道の寮舎に姉はソウルの日本料理屋に住み込み、恵まれた生活をしていたので、祖父母ほど村の人たちに対するシンパシー(共感)が湧かなかったのかもしれません。


私もまた、中高時代の在日韓国人の知り合いや大学時代のOB夫妻くらいで、9割はネットやマスコミ・本の知識での「韓国人」なので、祖母の気持ちは頭ではわかりますが、とても感情移入することはできませんし、それでいいのではないかと思っています。

「立って半畳、寝て1畳」。人は、結局は自分の経験を超えることはできない。孫悟空がその掌を超えることはできなかった、ように。


「アインを殺したカイン」という旧約聖書の話は、神の預言とされています。 イエス・キリストを官憲に売り・磔にすることで自分たちの悪事を隠し、カネだけ・嘘ばかりの道を選んだパリサイ派のユダヤ人たちは、永遠に「彷徨へる猶太人」となった、という芥川龍之介の小説は、その預言を裏書きする「日本昔話の一つ」となるのだろうか。


2024年1月31日

V.2.1

平栗雅人

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