動き出す

コンコンコン


「こんな朝早く誰だ?」


朝の日課になっている筋力トレーニングしている最中、誰かがカイルの部屋のドアを叩く。


「ショーンだ、急ぎの用だ入るぞ。」


副団長のショーンは同期の為、気心が知れている。

「入れ。」


ガチャっと勢いよくショーンが入って来る。


「どうかしたか?」


「密偵から連絡が、ボルテ公爵の居場所が分かったらしい。」


「本当か⁉︎」


汗をタオルで拭きながらカイルは急ぎシャツを羽織る。


「それは何処だ?」

「カターナ国の城下町シリの港、船の中だ。」


「船の中⁉︎」


「海軍の船か⁉︎」


「いや、海賊船だ…。」


「海賊船⁉︎

どう言う事だ?

カターナ国の国王が反逆罪の罪でボルテ公爵を牢獄に追いやったのではないのか?」


「確かに拘束されたのは国王の伝令だったようだが、どうやら裏があるらしい。」


「…カターナ国王と海賊が裏で繋がっているのか?」


確かにボルテ公爵のボルジーニ領土は貿易が盛んで、海賊船ともしばしいざこざがあったと聞いていたが、


「密偵の話しでは、船は不定期に港に戻って来るらしい。

いつ出航するか分からないが、ボルテ公爵が捕まっていると、港内では密かに噂になっていたと言う。」


「誰かがボルテ公爵が乗って居るのを確認したのか?

密偵はどこまで潜入出来た?」


「密偵が、ボルテ公爵の青い竜の鱗を付けた海賊が居ると言う噂を聞き付つけ、その者を見つけ追跡した。


すると今度はボルテ公爵に船で会ったと言う貿易商に会ったらしい。

その貿易商に頼んで、明日辺り船に乗るとの事だ。」


「なんと言う貿易商だ?」


「マリア・サラムッドだ。

宝石等の珍しい石を主に取引する貿易商で、カターナ国では珍しい女の当主だ。」


「俺が行くか?」


ショーンが言う。

この国が平和になったとはいえ、団長自ら長らく国を離れるのは危険だ。


「いや、俺が行く。」


「本気か⁉︎

お前がここを長く離れるのは危険だ。国の平和の安定が崩れる。もっと慎重になるべきだ。

リューク殿だって何処かで密偵に狙われているかもしれないんだぞ。」


「俺の価値はそれ程か?他にも騎士団はいる。俺1人居なくても、立派に任務は果たせるだろう。」

過剰評価し過ぎだとあきれながらカイルは言う。

ショーンはため息を一つ吐く。


「分かってないな。

お前は今やこの国の守護神だ。

ここにいるだけで民は安心するし、街にでも出てみろ、きっとキャーキャーと女、子供に囲まれるヒーローだぞ。」


「…つい最近までは、人っ子1人寄り付かなったはずだが?」

カイルは首を捻る。


「ついこの間、山賊を討伐しただろ?

村人を助け、守ったのは忘れたか?」


確か…

逃げ遅れた子供とその両親を山賊から逃したが、当たり前の事をしただけだ。


「そんなの当たり前だろ。

目の前で助けを求められてほっとくほど鬼ではないぞ。」


「その噂が街で広がってたちまち我らが団長はヒーローだ。」

ろくに街に出ないから世の中の流れに気付かないんだとショーンは思う。


「今なら、女抱き放題だぜ。団長さんよ。」

急に軽い感じで話す。


「別に興味ない…。

おい!そんな軽々しい感じで酒場に行くなよ。竜騎士団の品位に関わる…。」

ジロっとショーンを睨み付ける。


「街に行く時は名乗らないから大丈夫だよ…信用ないなぁ。」


仮にもこの男が副団長だと知られたらたちまち評判は根に堕ちるだろうとカイルは思う。


少し考え、カイルは言う。


「分かった。貿易商の件はお前に任せる。救出の手筈が整ったら俺も行く。

慎重に動けよ。」


「了解です。」

ショーンは久しぶりに真剣な顔付きで頷き、敬礼し部屋を出ようとする。


「ちょっと待て。」


「なんだ?」

カイルは躊躇う、しかしコイツには早めに伝えた方がいいだろうと思い話し出す。


「リューク殿は女だ。」


「はぁ⁉︎」


さすがにショーンも目を瞬いて驚きを隠せない。

「どう言う事だ?いつ気がついた?」


「昨夜、ボルテ公爵の話をしに行った時、本人から告げられた。


ここに居るのは、リューク殿では無く妹のサラ嬢だ。」


「だから、俺が男にしたらやけに可愛いらしい顔してるなと思ったんだよ。女好きの本能が働いたんだな。


こりゃ、ますます目が離せないな。

まぁ。後は任せた、頑張れよ。」

手をヒラヒラして軽い調子で出て行った。


なんでアイツを副団長に推薦したのか…

カイルは若干後悔した。


♦︎♦︎♦︎


早朝、ショーン副団長は朝食も食べず黒い竜に乗ってカターナ国へ旅立った。


サラが目覚めた時には既に居なくて、何やら幹部達がバタバタ動いている事だけが気になる。

朝、迎えに来た護衛のルーカスに聞いてみる。

「何かあったんですか?皆んなバタバタしてますけど…。」


「カイル団長から朝早く招集がかかったみたいです。詳しくは僕は分からないですけど、多分リューク殿には後で団長からお話しがあるのではないでしょうか。」


昨日の今日で出来れば顔を合わせたく無いと咄嗟に思ってしまうが、父の事で何かあったのなら知りたいと思う。


「とりあえず、朝食でも食べに行きましょう。」

「はい。」

いろいろ気になりはするけど、お腹が減るのは止められない。



朝食を食べに食堂へ行く。


団員達が暖かく出迎えて、それぞれ挨拶をしてくれた。まだ、3日しか居ないのに皆んな良い人ばかりだとサラは居心地の良さを感じていた。


「おはよう。リューク殿、昨日相当鍛えられてたから、どうだい筋肉痛は?

初めは皆んな毎夜筋肉痛に悩まされるんだ。今日も剣術の稽古に来るか?」


大柄でいつも元気な男が、サラの腕を掴みながら話しかけてくる。


「痛っ!痛いです…、コイル少佐。

身体中、筋肉痛なのでお手柔らかに。」

苦笑いしながらサラは答える。


「この細い二の腕に筋肉が付くのはいつになるかなぁ。」


二の腕をムニムニ揉んでくるから、痛みが倍増して、サラは苦笑いしながら答える。

「僕だって1ヶ月くらい鍛えたらきっと皆さんみたいにムキムキになりますから。」

力こぶを作ってみせる。


周りの団員も一緒にどっと笑う。


「いやぁー。1ヶ月じゃ無理だろ。とにかく脂肪を付けないと筋肉も増えないからいっぱい食べろよ、少年。」


がははっと豪快に笑ったコイル少佐の腕が突然掴まれ、食堂内の皆んなが固まる。


「リューク殿、剣術の稽古は中止だ。

今日から俺の補佐をお願いしたい。

コイル少佐、馴れ馴れしく触るな、リューク殿は隣国の次期公爵様だ。」


静かに語るが目は鋭く、カイルの持つ独特な空気感で一気にピリッと空気が張り詰める。


「す、すいません。」

コイル少佐が大きな体を小さくして謝る。


「だ、大丈夫です。

コイル少佐は僕を鍛えようとしているだけで…怒らないでください。」


「…怒ってはいない。注意しているだけだ。」


カイル団長に抗議出来る者はこの中にはいない。だから、サラの言葉に皆んなヒヤヒヤとさせられている。


「話しがある。食事をしながら話そう。」


極めて落ち着いた声でカイルは話し、サラに席を示す。

「はい。」


「僕は遠慮しときます…。」

ルーカスがすかさず言うが、


「お前も来い。」

カイルは有無を言わさない。


「…はい。」


2人はカイルに促されて、三段上がった席に着く。


ルーカスからはソワソワと今にも逃げたい気持ちが伝わってくる。


サラは朝からカイルと顔を合わせたくなかったと言う思いと、先程からの微妙な空気感に気落ちする。


沈黙の中、朝食が準備される。


そして、静かにカイルが話し出す。


「リューク殿、ボルテ公爵の事で今朝、進展があった。」


昨夜の話しでは手詰まりなのかと思っていたサラはびっくりする。


「父が見つかったのですか⁉︎」


カイルは強く頷く。


「城下町の港にいる船に監禁されていると有力な証言が取れたと報告があった。」


「船の中ですか⁉︎」


「それが少し厄介な相手なのだが、海賊の船だそうだ。」


「えっ⁉︎だけど、父は確かに国王の兵に連れて行かれたのです。馬車には国王の家紋もありました。」


「何故か分からないが国王と海賊が繋がっている可能性もあるし、もしくは何か脅されているか…

まだ、探ってみないと真相は分からないが、今朝、副団長が向こうへ飛んだ。」


「海賊を探る為ですか?危なくは無いですか?」

心配顔で聞き返す。


「我々は竜騎士団だ。

危ない事が得意な連中の集まりだ。その点は心配するな。」

 

一緒に聞いているルーカスは、今までリュークがここにいる意味を知らずにいたから、話しの展開が大き過ぎて、気後れして放心状態だ。


「とりあえず、副団長からの報告を待つしか無いが、俺も救出の時は向こうに渡るつもりだから、お父上の事は心配しないように。」


「ぼ、僕もその時は連れて行って下さい。」


カイルには予想外の発言だったのか、目を見開き驚く。

「…ダメだ。危険な場所に連れて行くなんてもっての他だ。」


サラだって足手まといになるのは重々承知している。

ただ、じっと待ってることなんて出来そうも無い。

「逐一報告をもらう事になってるから、

今日から出来るだけ俺の執務室にいるように。ルーカスもだぞ。」


「りょ、了解しました。」


ハッと放心状態から解放され、ルーカスは慌てて返事をする。


「後1人、ドア付近に護衛を配置するよう班長に通達してある。」


「はっ」

ルーカスは、団員らしく敬礼した。



「とりあえず、食事をしてくれ。」


二人は既に食欲は無くなっていたが、言われた通り食べ始めた。


カイルはサラの様子を伺う。


素直な性格は顔に出る。

不服そうだな…

現地に連れて行く訳にはいかない。

守らなきゃいけない者が増えるだけだ。


多分足手まといになる事を本人も充分分かっているからこれ以上は言って来ないだろう。


「リューク殿、一つ頼まれてくれないか。


ルイ殿に速達を出して欲しい。ブルーノにお願い出来るか?」


「はい。多分、ブルーノなら2日有れば戻って来れると思います。」


「後で手紙を書くからお願いする。」


「はい。」

サラは静かに頷いた。


「他にも、ここに居て出来る事はリューク殿に頼むから。」


カイルが優しく話す。


ルーカスは内心びっくりした。

こんなに優しく話す団長を見たのは初めてだと。


カイルの執務室に3人で戻る。


手持ち無沙汰な二人にそれぞれやるべき事を与える。

サラには手紙の整理を、ルーカスには班から毎日上がってくる書類の整理をやらせる。


カイルは机に向かっていくつか手紙を書く。

ボルテ公爵の家臣ルイ殿と、国王陛下、


海軍に船の要請もするべきか…

いや、他国に了解を経ない段階で海軍が乗り込むのは良くない。民間の船を探すか。


手紙を書きながらカイルはいろいろ考えていた。

「リューク殿、貴方もルイ殿に手紙を書きたいだろう。」

カイルが、紙とペンをサラに向けて差し出す。

「ありがとうございます。」


早速サラは、応接席の机を使い手紙を書く。


カイルはその様子をこっそり見ながら自然と微笑んでしまう。

床にペタンと座り、低い机の上で真剣に手紙を書いているサラが可愛く思えて、何度もチラチラ見てしまう。


ダメだ…。


同じ空間にいると、どうしても気がサラに向いてしまう。

自分を戒め、やるべき事を成そうと無心になる。


ルーカスがサラに話しかける。


「リューク殿、その姿勢では書きにくくありませんか?簡易的な椅子と机を用意しますよ。」


「えっ?全然大丈夫ですけど、運ぶのも大変ですからこのままでいいです。」

二人の会話を聞き取ったカイルは言う。


「ルーカス、俺の部屋にある簡易的な椅子と机を運んで来ていいぞ。」


「あっ、はい。ありがとうございます。」


慌ててルーカスは続き間になっている、部屋のドアに向かう。


「僕も手伝います。」

サラもすかさず立ち上がりルーカスに着いていってしまう。


サラは女子だろう…重たい物は男に任せばいいのにと、カイルは思うがルーカスを前に言える訳も無く。


はぁーとため息を一つ吐き、静かに席を立ち遅れて二人の後について行く。


だいたい今朝の無防備さはなんなんだ。

あんなに男にベタベタ触られて嫌なら嫌とはっきり言うべきだ。


…嫌なのは俺だけか…


朝はさすがにイライラを隠せなかった。


サラから怒らないで下さいと言われ、少し反省したくらいだ。


サラが椅子をよいしょと運んで来る。


「俺が持つ。」

カイルは半ば強引に椅子を奪う。

ならばとサラはルーカスを手伝いに机を半分持とうとする。


本当に公爵令嬢なのかと思うほど、ちょこちょこ動き目が離せない。


「だ、大丈夫です。リューク殿、一人で持てますから。

……あっ、あの花瓶を窓際に移してきてくれませんか?」


カイルの目がこちらを睨んでいるのに気付きルーカスは何とか違う仕事を頼む。


カイルはそれで良しと言うように背を向け先を歩き出し、ホッとルーカスは肩を落とす。


「机はそっちに置いてくれ。」


「了解です。」

二人でサラの場所を作り終え、それぞれの仕事に戻る。


サラは急いで戻って来たら既に場所が整っていて、ちょっと不服な目をカイルに向ける。

そんな2人をハラハラしながらルーカスは見守る。



コンコンコンコン


「はい、どうぞ。」

カイルは手紙を書く手を止めず返事をする。


「失礼します。

三班朝礼が始まります。

よろしくお願いします。」

下っ端らしい団員が緊張気味に声をかける。


「分かった。すぐ行く。」

カイルはチラッと入口に立つ男に目をやり声をかける。


「はっ。」

敬礼し、部屋を出て行く。


カイルは手紙を封筒に納め封をした。

「リューク殿、この手紙をルイ殿に届けて欲しい。」


「はい、わかりました。お預かりします。」

丁寧にサラは両手で手紙を貰い、大切そうに胸で抱き締める。


「朝礼に行ってくる。この部屋内なら自由にしててくれていいから。」

そう言ってカイルは部屋を出る。


はぁー。団長が居ると緊張して精神的に疲れます。」


ルーカスが手を休めドカッとソファに座る。


「カイル団長って、そんなに怖いですか?

僕から見たら過保護過ぎて困るくらい優しい人ですけど。」

ルーカスがハァーと深いため息を吐く。


「団長に歯向かうの辞めてくださいよー。

団長に物言える人なんて副団長か貴族幹部くらいなんですからぁ。

ハラハラ見てるこっちの身にもなって下さい。」


「えっ、歯向かってるつもりはないですけど…普通に会話しちゃダメなんですか?」


「リューク殿は戦中の団長を知らないから、鬼ですよ!

笑った顔なんて見た事無いですから…」


あれ?さっきちょっと笑ってたな…と、ルーカスは思う。


「結構、普通に笑いますよ。

きっと、今日一日一緒にいたら意外と優しい人だって分かるはずです。」


「リューク殿は能天気で羨ましい…。」


ふふふっとサラは笑う。

「能天気とは失礼な、いつも前向きなんです。」

そういえば、良くお兄様からも能天気だって言われたなぁ。『サラと話してると重い話しも軽くなる』って、懐かしい。


兄が亡くなって、もう二度と笑う事は無いだろうって思うくらい塞ぎ込んだのはまだ二ヶ月前だ。


「ブルーノは行ってくれそうか?」


「はい。体調も問題無さそうですし、大丈夫です。」


カイルはブルーノの頭を撫でる。

「夕方に港辺りに雨が降りそうだ。

今から出れば何とか濡れずに行けると思う。

ブルーノ、頼んだぞ。」


「ブルーノは雨の中でも喜んで飛びます。

水を司る竜なので。」


「そうだったな。

ハクや赤竜は大抵、濡れるのを嫌がるから天候をつい気にしてしまう。」


「ハクは白竜だから、氷か雪を吐くのでは無いのですか?」


「いや、ハクは黒滝のアルビノなんだ。

実際の白竜は今のところ発見されていない。青竜もブルーノ以外見た事が無いが、もしかしたら寒い地方にいるのかも知れないな。」


サラは昔、お婆様から聞いたおとぎ話を思い出す。

「我が家に伝わる昔話なんですが…、

黒滝が海に落ちて亡くなった時に産み落とした卵から青竜が出てきたと言うお話しがあります。」


「興味深い話しだ。

あり得るかもしれないな。

まだ、竜については謎が多いんだ。

いつか自然界にいる竜について調査したいと思っているが…

…平和が続かない限り、そんな暇はないだろうな。」


「素敵な夢ですね。

世の中に戦が無くなればいいのに…。」


カターナ国もリアーナ国も未だ各地で内戦や暴動が起こり、平和には程遠い。


「失礼します。

配達用のバックをお届けしました。」


「ありがとうございます。」

サラは団員に駆け寄りカバンをもらう。


「貸して。」


サラがブルーノに装着しようとするが、

すかさずカイルはカバンを受け取りブルーノに取り付ける。

ぐるっとベルトで首の辺りに巻き付ける様になっている。


「ブルーノ、気を付けて行って来てね。」


サラは優しくブルーノの首にぎゅっと抱きつきしばしのお別れをする。内心とても寂しく思う。


「…寂しいか? 

悪いな。ルイ殿のいる場所を知るのはブルーノしかいないから、ルイ殿には救出の際に現地に来て欲しいと思っている。こちらの密偵と合流出来るよう場所を書いておいた。」


「お気遣いありがとうございます。

きっとルイも嬉しいと思います。」


サラとカイルはブルーノから離れて見送る。


ブルーノは飛び立つ。


バサァ バサァ


と、空を回旋してから彼方遠くへ旅立って行った。

サラは姿が見えなくなるまで立ちすくむ。


「…中に入るぞ。」

 

カイルに促されて部屋に戻り、頼まれた仕事を再会した。


ブルーノが近くに居ない事が、こんなにも寂しく感じるなんて思って無かったサラは少し元気が無くなってしまう。


何となく、カイルもルーカスもそんなサラを気遣い遠めに見守る。


「リューク殿、少し休憩するか。


今から研修生の乗馬を見に行くが、着いてくるか?」

カイルは気分転換をと外に誘い出す。


「はい…、行きたいです。」

サラは椅子から立ち上がり、カイルの後について行く。


「俺がついているから、ルーカスはしばし休憩してろ。」


「はっ!!」


きっと、ほっとしているだろうルーカスを1人執務室に残して2人は外の広場に向かう。


「…こんなに良い天気なのに、何故、夕方雨が降る事が分かったのですか?」

ふと、サラはカイルに聞く。


「竜達は雨を嫌う者が多いから、竜騎士団は天候に左右されがちだ。

先に天候が分かるように、朝、昼、晩と3回天気を見る為竜で天候調査を行っている。」



「そうなんですね。

高い空から見下ろすと雲の動きも良く分かりますよね。」


「サラ殿は雲の上を飛んだ事があるか?」

急に名前呼びされてドキッとしてしまう。


「い、いえ、あまり高く飛ぶと空気が薄いと兄から聞いていたので…、そんなに高くは飛んだ事が無いです。」


「ハクは高い場所を好むから何度が雲の上に出た事があるが、

天国があればこの様な場所では無いかと思うくらい美しい景色だった。


…いつかサラ殿に見せてあげたい。」


カイルが爽やかな笑顔を向ける。


仕事中は決してこんな笑顔は見せないのに…とサラは目を見開き、心臓がドキドキ高鳴るのを止められない。


私にだけ見せてくれる笑顔なら嬉しいなと思う。


話すべきか少し戸惑いながら…


でも、カイル団長なら大丈夫だと思いサラは話し出す。


「……辺境地のカーサにも桃源郷のような美しい湖があります。


湯が湧き出て七色に輝き、冬なのに花が咲き乱れる美しい場所です。


兄と私とブルーノしか知りません。


…その湖の水に触れると不思議な事に傷が治ってしまうのです。

ブルーノの鱗もそこの水をかけたら再生が早くなりました。さすがに後少し時間が足りなかったのですが…。」


「そんな場所があるのか。

世の中にはまだまだ知られていない不思議な場所があるんだな。

その美しい風景を見てみたいな。


…いつか連れて行ってくれるか?」


「はい。」

サラは深く頷く。


「それまでは決して誰にも言わない方がいい。」

と、静かにカイルが言う。


団長は疑いもせずに私の話しを信じてくれる事に感動を覚え嬉しく思う。

そして、私と同じ様に大切に思ってくれる。


「実は、その水を少し持って来ています。

何かの役に立てば良いと思っています。」


「そうか…、それは自分の為に使うべきだ。大事に取っておいた方が良い。」


「はい。」


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