カイルの思い
俺は戦ばかりの毎日で、より人に忠実で言う事を聞くような竜を育てようとしてしまっていた。
本来、竜は自由な生き物なのに。
さっきのリュークの言葉で、まるで目が覚めたかのように本当にやりたかった事を思い出した。
ハクとの関係もどこか、押さえ付けるようになっていたのかも知れない。
自由でいいのだ。
対等な関係でなければ長く一緒には居られない。今までの育て方は間違っていたのかも知れない。
「リューク殿、ありがとう。今やっと気付いた。
我々は竜をより忠実で言う事を聞く乗り物にしようと育てていた。
それは間違いだった。
これからは兵士を育てるように、竜を育てなければ、自分で判断し自由に生きられるように。」
サラは生意気な事を言ってしまったと、内心焦っていたのにお礼を言われてキョトンとする。
「でも、ハクは自由に生きてるみたいですよ。自分で判断して言う事を聞く時と、今みたいに自由に飛び回る時をちゃんと見極めて決めていますから。」
微笑みながらサラは言う。
「確かに、協調性が無くてケンカばっかりするハクが、決して群れない竜の本来の姿なのかも知れないな。」
「我が国には竜を操る騎士団はありません。
自由気ままな竜が1つにまとまるなんてあり得ないからです。
でも、カイル殿はそれをやってのけた。
それは素晴らしい功績だと僕は思います。」
「そう言ってくれると幾分ホッとするよ。」
竜本来の姿を崩さず、竜を操るのはこれからは命令では無く、お願いにしようとカイルは心に決める。
「さぁ。ハクお願いだ。そろそろ厩舎に戻ってくれ。」
行った側から実践するカイルはとても柔軟で頭の良い人だとサラは再認識した。
素直にハクは厩舎に舞い戻る。その後をブルーノもついてくる。
ハクが降りて羽をたたむ、と、グィーンとサラは何かに引っ張られ放り投げられる。
フワッと藁のベッドに降ろされて、状況を判断する。
「ブルーノ⁉︎」
急に消えたサラをカイルは慌てて追いかける。
「リューク殿、大丈夫か⁉︎」
「だ、大丈夫です。たまにブルーノに咥えられる事はあるので…子供だと思って舐められてるんですきっと。」
苦笑いしながらいつもの事だとカイルを安心させる。
「ハクの背に乗ったから嫉妬したのか?」
カイルはブルーノに聞く。
プイっと横を見るブルーノはまるで拗ねてるようだ。
「大丈夫だよ。ハクにちょっと乗せてもらっただけだよ。」
サラも立ち上がりハクを撫でる。
これが信頼関係で成り立った、竜と人間の本来の姿たなのだな。とカイルは納得する。
♦︎♦︎♦︎
部屋に戻ったサラは何事も無かったかのように、シャワーを浴びて寝支度をする。
その間も、ふとした瞬間に屈託なく笑うカイルの顔を思い出しては赤面してしまう。
何事も無かった事にしたかった…。
触れた身体の逞しい感触や握られた手の大きさや、全てにおいて忘れる筈がない。
初めて知った胸の高鳴りはしばらく収まることが無く、この夜はなかなか寝付く事が出来なかった。
カイルも自室に戻りやり残した書類に目を通しながら、先程の楽しいひと時を思い出し思わず笑顔になる。
久々に団長と言う肩書きを外してハクに乗ったなと自分でも思っていた。
リューク殿が純粋で素直な人だからなのか、立場を忘れてはしゃいでしまった気がする。
昔の自分が重なったのか、それとも彼の笑顔に魅せられたのか、自分でもよく分からない高揚感で気付けば素の自分で接してしまっていた。
竜が好きでハクに乗る事に夢中になっていた少年時代、騎士団に入ってから忘れていた純粋にハクと共に行きたかったあの頃の気持ちを思い出した。
リューク殿は不思議な人だ。
一緒にいると気持ちが癒される。
触れるだけで幸せな気持ちになる。
男色の気などまったく無いのに…。
なぜこんなにも目を奪われ心がかき乱れるのか。自分でも戸惑う。
悲しい顔をされるとこっちまで心が痛むし、
彼にはずっと笑って過ごして欲しい。
その為にも早くボルテ公爵を見つけ出さなければならない。
カイルは強く決意する。
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