第二章
他にどんな癒し効果があるかはまだ分からないが、傷を治す事は確かだろう。人間にも効くのだろうか?
お兄様は知っていたのかしら?
多分…知らなかったはず…
今更悔やんでもどうしようもないわ…
この場所は私とブルーノの秘密の場所。
他の人に教えたらきっと、たちまち人々が訪れてこの桃源郷は踏み躙られてしまう。
サラはそっと両手を湖に伸ばし水を少しすくい上げ一口舐めてみる。不思議と甘さを感じて驚く。
砂糖水みたいに甘い。
そして、悲しみに沈んだ心が晴れていくような不思議な感覚に浸る。
そうだわ。泣いてなんていられない。
父の無実を晴らさなくちゃいけない。
お父様を助け出せるのはもう、私しかいないのだから。
足早にブルーノの元に戻ったサラは次にやるべき事を既に見出していた。
「ブルーノありがとう。
こんな素敵な場所を教えてくれて、私を元気付けようとしてくれたのね。
お父様を救い出してみせるわ。私に力を貸してね。」
ブルーノの首に抱きつきサラは気持ちを新たにする。
「ルイとジーナが心配してるわ。戻りましょう。」
カプっとサラの服を甘噛みし背に乗せたブルーノはバサバサと飛び立ち林に守られた桃源郷を後にした。
カイル団長ならば貴族同士のしがらみも無く、常に両立の立場でおられる信頼における人物です。」
「ルイはお会いした事があるの?」
「はい。2、3回程、王主催の晩餐会でお会いしました。とても率直で聡明な方でした。
その晩餐会で、カイル団長が孤児院で育った平民の出と言う事を、下に見る貴族が数人で彼に聞こえる様に嫌味を言っていて、それは聞いてるこちらもイライラするほどでした。
それに対して堂々と対応していた姿が今でも忘れません。
私も平民の出ですから、まるで自分の気持ちを代弁してくれたかの様な発言は、清々しく誇らしく思いました。
彼の国を思う熱い想いを知り共感し、この方が本来国を率いるべきだと思うほどに。
随分年下にも関わらず、カイル団長の話しに引き込まれました。」
こんなにもルイが絶賛する人物に会ってみたいとサラも思った。
ルイは早速カイル宛に手紙を書き、その手紙をカイルく団長に直接渡す事を提案する。
「お嬢様1人で隣国に入るなんて危険過ぎます。どうかこのルイもお供にお付けください。」
先程から何度も何度も繰り返す。
ルイは自分も当然一緒に行くつもりでいた。
「大丈夫よ、ルイ。
ブルーノだって一緒よ。いつも空から私を守ってくれているし、お母様の短刀だってあるわ。何かあったら私だって護身術くらい習ってたんだから。」
ルイを安心させる様にサラは母の短刀を見せる。
金の鞘にルビーが埋め込まれた短刀にはサラマンダ家の家紋が彫り込まれている。
父が牢獄で捕まっている今、腹臣であるルイが動いたと気付かれたら父にまたあらぬ疑いの目が向く可能性がある。
サラの様な社交界デビューもしていない娘の方が顔も知られていない為、秘密裏に動くにはちょうどいいのだ。
「お嬢様、女の一人旅は危険です。
せめて男装をして下さい。
リューク様の少年時代の衣装を見つけました。これを着て行って下さい。」
確かにスカートを履いているとブルーノに飛び乗る事も困難だ。
「そうね。その服の方がブルーノにも乗りやすいわ。髪の毛も切った方がいいかしら。」
綺麗なブロンドの髪はこの二年で腰まで伸びていた。
「せっかくここまで綺麗に伸ばしたのに勿体無いですね…」
乳母のジーナは涙ぐむ。
サラが舞踏会の為にずっと切らずに伸ばしていた事を知っていた。
「泣かないでジーナ、髪なんてまたすぐ伸びるわ。」
サラは努めて明るくいい笑顔を向ける。
「お兄様が幼少期の頃のような髪型がいいかしら?それとも思い切ってバッサリ切ってもいいわ。ジーナに任せるから。」
「お嬢様、女の一人旅は危険です。
せめて男装をして下さい。
リューク様の少年時代の衣装を見つけました。これを着て行って下さい。」
確かにスカートを履いているとブルーノに飛び乗る事も困難だ。
「そうね。その服の方がブルーノにも乗りやすいわ。髪の毛も切った方がいいかしら。」
綺麗なブロンドの髪はこの二年で腰まで伸びていた。
「せっかくここまで綺麗に伸ばしたのに勿体無いですね…」
乳母のジーナは涙ぐむ。
サラが舞踏会の為にずっと切らずに伸ばしていた事を知っていた。
「泣かないでジーナ、髪なんてまたすぐ伸びるわ。」
サラは努めて明るくいい笑顔を向ける。
「お兄様が幼少期の頃のような髪型がいいかしら?それとも思い切ってバッサリ切ってもいいわ。ジーナに任せるから。」
ジーナはサラの髪を切る事になかなか決心がつかなかったが、最後は泣く泣く切ってくれた。
「これが精一杯です」と肩より上でなんとか切り揃えた。
髪を紐で1つに纏め、サラシを巻いて胸の膨らみを隠し、兄の服を着たサラは一見若き貴公子の様な出立ちだ。
ただ、やはり背の低さと手足の細さで男性としては物足りない気がして鏡の前でため息を付く。
「こう言うのも何ですが…良くお似合いですお嬢様。」
涙で真っ赤になった目を拭きながらジーナが言う。
「ありがとう、ジーナ。
少年ぐらいには見えるかしら?」
鏡の中の自分が軟弱に見えて少し弱気になってしまった。
気を取り直して母の形見の短剣を何処に忍ばそうかと考える。
「男性は何処に短剣を隠すの?」
「それでしたら、これもリューク様の形見になりますが足首に付ける隠し鞘があります。」
「さすが、ジーナありがとう助かるわ。」
足首に付けて歩いてみると少し違和感があるが、これは慣れるしか無い。
「あとこれは、クッキーとサンドイッチです。お腹が空いたら食べて下さい。」
サラは、至れり尽くせりのジーナにお礼を伝え抱きしめる。
「ありがとう、ジーナ。
心配しないで待っていてね。着いたら手紙を必ず書くわ。」
「どうか…お体を大切に…無理は禁物ですよ。身の危険を感じたらどうか、すぐに帰って来てください。」
涙を拭いながらジーナもサラを抱きしめる。
「サラお嬢様の事は勝手ながら、自分の子の様に思っています。なので、もしも1人で寂しくなった時、私達がいる事を忘れないで下さいね。」
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