第一章 

隣国と接する港町ポルジーニに公爵として統治していた父ボルテが、無実の罪で牢獄に送られて半年。


兄リューク(19歳)と妹サラ(16歳)は住む場所も統治していた土地までも全てを取り上げられ、少しの財産と、数人の使用人そして一頭の青い竜を引き連れて、山奥の辺境地カーサまでやってきた。


サラはブロンドの肩より長いストレートの髪を1つで縛り馬車から景色を眺めている。


今年で16歳になったばかり、本来なら舞踏会デビューの年であったが父が捕まりそれどころでは無くなってしまった。


幼い頃に亡くなった母の顔をサラ知らない。

白い肌に澄んだグリーンの瞳が亡き母を思い出すと父は良く話てくれた。



馬車の上を守る様に飛ぶ、青い鱗の竜ブルーノの背中には兄のリュークが乗っている。


竜は代々古きに渡って貴族達と交流を深め、竜が選んだ乗り手だけが背に乗る事を許される。

それは必ず男子であり、その家の後継者となる事が定められていた。


竜は性質的に何故か皆、女子を嫌い近づけさせない。

そして気高き生き物として大事にされ、人間とは常に対等であり、その家の守り神の様な存在でもある。


しかし、全ての家に竜が存在する訳ではなく、カターナ国では全部で約50頭ほどしかいない。


サラマンドラ家では代々青い竜、ブルーノを所有してきた。


竜は人間より遥かに長く生きる生き物で、ブルーノは今年250歳。800年以上生きるとされているから、人間に例えるならばまだまだ働き盛りである。


父が投獄されてから、兄リュークが四代目の乗り手となった。


ブルーノは穏やかで優しい竜だった。 


そして何故か女であるサラを毛嫌いせず近付く事を許し、サラであれば手から食べ物を食べる事も鼻先を撫でる事も可能であった。


青い竜は、火を吹く赤い竜が多いカターナ国では珍しかった。


青い竜は火の代わりに水を吹く。


その為、民家の火事や山火事などの消火活動に重宝され、父と共に国王からも何度となく勲章を頂いてきた。


そんな父が国王を暗殺する計画を立てたと無実の罪で投獄された。


朗らかで優しい公爵様がそんな計画を立てる訳がないとボルジーニの村人達も口々に噂した。


そして、この地に来てから2度目の冬


男子にしかかからない謎の流行病で兄リュークは呆気なくこの世を去ってしまった。


一人残されたサラは大好きだった兄を失い絶望の中悲しみに暮れていた。


この先、

私は一人でどうやって生きていけばいいの?お父様をどうやって救い出せばいいの?


…お兄様…教えて…


サラはリュークのお墓の前で、来る日も来る日も泣き続けた。傍には青い大きな竜が寄り添い、彼女を守り温め続けた。


「お嬢様、そろそろお戻り下さい。

この寒空に長く外に出ていては体が持ちません。どうか…お願いです。」


一緒に来た使用人も兄が亡き後、一人去りもう一人去りと…

今や父の副臣であるルイと、サラの乳母であるジーナの夫婦、二人だけが残った。


「…ジーナ…一人にして…

お兄様が居なくなって…私はどうやってこれから生きていけばいいの…。」



青い竜ブルーノの首にしがみ付き涙を流し続けるサラ…


不意に、バサバサと羽根を伸ばしたブルーノはサラの服を優しく咥え、自分の背中にポンと乗せたかと思うと、


空高く飛び立つ!


「キャッ⁉︎」


小さな悲鳴と共にサラは訳も分からず必死でブルーノの背中に抱きついた。


「お嬢様⁉︎」


ジーナの悲鳴だけが虚しく響く。


「ブルーノ!!

サラ様をどこに連れていく気だ!早く降りて来い!!」


ルイは慌てて馬に飛び乗り、飛び立つブルーノを追いかける。


「ブルーノ!!

降りて来い!サラ様は女子だ。

乗り手にはなれない!!」


いや、待てよ?

竜が認めた者が乗り手になるのか⁉︎

ルイは青く輝く竜を追いかけながら考える。


もしかして、ブルーノは次の乗り手にサラ様を選んだのか?


ルイが追いかける道沿いの森の奥に

バサァと一振り羽ばたいてブルーノが降り立つ。


「ブルーノ…


突然どうしたの?

びっくりしたじゃない…

どこかに連れて行きたかったの?」

驚いたおかげで涙は止まっていた。


ブルーノの手綱を必死に握りしめていたサラが手を緩める。


兄の見よう見まねで、背中からスルーと地面に滑り降りる。


痛っっ!いたたた…初めての着地は上手くいかず尻餅をつく。


そんなサラにブルーノは鼻先を擦り付けて立ち上がるのを手助けした。


「ありがとうブルーノ。」

鼻先を撫でながら礼を言う。


ジーナの悲鳴だけが虚しく響く。


「ブルーノ!!

サラ様をどこに連れていく気だ!早く降りて来い!!」


ルイは慌てて馬に飛び乗り、飛び立つブルーノを追いかける。


「ブルーノ!!

降りて来い!サラ様は女子だ。

乗り手にはなれない!!」


いや、待てよ?

竜が認めた者が乗り手になるのか⁉︎

ルイは青く輝く竜を追いかけながら考える。


もしかして、ブルーノは次の乗り手にサラ様を選んだのか?


ルイが追いかける道沿いの森の奥に

バサァと一振り羽ばたいてブルーノが降り立つ。


「ブルーノ…

突然どうしたの?

びっくりしたじゃない…

どこかに連れて行きたかったの?」

驚いたおかげで涙は止まっていた。


ブルーノの手綱を必死に握りしめていたサラが手を緩める。


兄の見よう見まねで、背中からスルーと地面に滑り降りる。


痛っっ!いたたた…初めての着地は上手くいかず尻餅をつく。


そんなサラにブルーノは鼻先を擦り付けて立ち上がるのを手助けした。


「ありがとうブルーノ。」

鼻先を撫でながら礼を言う。


ここは何処?


辺りを見渡すと紫の可愛らしい花が咲き乱れる花畑だった。こんな雪もパラつく寒い季節にお花が咲き乱れるなんて…。


不思議に思いサラは一歩ブルーノから離れ前に歩み出す。


空気が温かい?


先程までいたリュークのお墓からそんなに離れていない筈なのに、はるかに暖かく着ているコートも脱げるほどだった。


花畑をそっと歩いて中央に進むと小川が流れる場所にたどり着く。

小川を辿って水が集まる方に進む。

振り返るとブルーノは先程降りた場所に腰を下ろし丸くなってくつろいでいる姿が見える。


ブルーノがあんなにリラックスしているのなら安全な場所なんだとサラはホッとして、前に進む。


綺麗……


少し歩くと七色に輝く湖にたどり着いた。


それは言葉でいい表せないぐらいの風景でまるで桃源郷だった。


天国があるのならばきっとこのような景色なんだろうと思わせるほど美しい場所だった。


さっきまで涙も枯れる程泣き続け、絶望感でいっぱいだったサラの心に温かい火が灯る。


湯気が立ってる?

そっと湖に手を入れる。


温かい。


無意識に湖の中に足を運んでいた。

お湯が沸いているのね。

湖の底からポコポコと小さな気泡が湧き出ている場所がいくつかある事に気づく。


『小さな森をぬけると目も醒めるような美しい花畑があるんだ。サラがブルーノに乗れたら見せてやれるのに、残念だなぁ。』


ふと、リュークの言葉を思い出す。


この辺境の地に辿り着いた時、リュークはブルーノに乗り辺りを探索しに出かけた。そこで温泉が湧き出す温かい湖があったと話していた。


ここがお兄様が言っていた場所ね。

心が癒されるような桃源郷。

お兄様がまるで私を励ましてくれているようだわ。


泣いていてもどうしようも無い。


前を向いて生きなくちゃ。

これからどうすればいいか考えなくちゃ。


お父様の無実をどうにかして証明したい。

それだけが兄妹2人の生きる希望だった。


ふと遠くを見ると向こう岸に一匹の鹿が足を引き摺りやってくる。

怖がらせないようそっと近くの岩に隠れて様子を伺う。


足から血を流し怪我をしているようだ。


鹿は湖に足をつける。

流れた血が湖の中に溶け込む。

するとキラキラと一瞬眩しく光って目が眩む。


サラは瞬きをしてその光景に息を呑む。

えっ…何で⁉︎


…傷が治った⁉︎


この湖には本当の癒し効果があるようだ。


鹿はピョンピョンと2回飛び跳ね、今きた道を元気よく駆けて戻っていく。


凄いわ。

もしかしたらこの湖の水は病気も治してくれるのかしら。


兄に飲ませられていたら病気が治っていたかもしれない。


そんな事を考え涙が溢れそうになったが、気を取り戻して今を生きる為、前向きになる事を兄に誓う。


他にどんな癒し効果があるかはまだ分からないが、傷を治す事は確かだろう。人間にも効くのだろうか?


お兄様は知っていたのかしら?


多分…知らなかったはず…

今更悔やんでもどうしようもないわ…


この場所は私とブルーノの秘密の場所。


他の人に教えたらきっと、たちまち人々が訪れてこの桃源郷は踏み躙られてしまうわ。


サラはそっと両手を湖に伸ばし水を少しすくい上げ一口舐めてみる。不思議と甘さを感じて驚く。

砂糖水みたいに甘い。


そして、悲しみに沈んだ心が晴れていくような不思議な感覚に浸る。 


そうだわ。泣いてなんていられない。

父の無実を晴らさなくちゃいけない。

お父様を助け出せるのはもう、私しかいないのだから。


足早にブルーノの元に戻ったサラは次にやるべき事を既に見出していた。


「ブルーノありがとう。

こんな素敵な場所を教えてくれて、私を元気付けようとしてくれたのね。

お父様を救い出してみせるわ。私に力を貸してね。」


ブルーノの首に抱きつきサラは気持ちを新たにする。


「ルイとジーナが心配してるわ。戻りましょう。」


カプっとサラの服を甘噛みし背に乗せたブルーノはバサバサと飛び立ち林に守られた桃源郷を後にした。



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