第138話 第4部第6話
王立学園の入学式から1週間が経過した。この間に生徒たちは王立学園の様々な制度の説明や、多種多様な授業のイントロダクションを受けている。
王立学園は一学年約1000名から成るマンモス校だが各学年のクラスは10クラスしかない。すなわち1クラスあたり100名の大クラスで、各クラスには一名の担任と2名の副担任がつく。
そして基本的には1クラスから10クラスまで成績順に配属される。ただし例えば武芸が得意な者と魔法が得意な者の人数比が各クラスで概ね同じになるように若干の調整も入る。
このクラスは学年が上がるたびに成績に基づいて変更されるため、多くの学生が栄光の第1クラスを目指して切磋琢磨する事になる。
過去の軍団長や政府高官の成績を見ても多くの者が卒業時に第1クラスであったため必然的に皆がトップを目指す。
ちなみになぜ一クラスの人数が100名なのか?
これはタッシュマン王国における各軍団の最小構成が百人隊である事に由来する。学生のうちから百名という単位での集団生活や行動に慣れるためにこのような比較的大人数のクラス編成となっていた。
ただし繰り返しにはなるが教師側も百名という大人数に対応するために一名の担任と2名の副担任の計3名が各クラス別に配属されており、さらにそれとは別に各科目別の専任講師も多数存在する。
全ての教員や職員を合わせるとそれだけで500名を超える人数になるのがタッシュマン王国の王立学園だった。
更に併設されるアカデミーや王都に駐在する第1軍団や第10軍団の面々が臨時講師やティーチングアシスタントとして参加する事も多い。
特に若手のアカデミー在籍者にとっては王立学園のティーチングアシスタントは生活費の良い足しになっていた。
授業については基本的には2年生までは午前中は必修科目を各クラスで、午後は各個人が選択した講義を受ける。そして3年生になると午前も午後も各個人が選択した講義を受ける事になる。
1、2年生で午前中に実施される必修科目はいわゆるリベラルアーツ。歴史や哲学に加え、音楽、絵画、詩などの芸術や数学、土木、工学などの高等学問も学ぶ。さらに体育や武芸も必修授業がある。
これは過去に多くの学生がそれぞれの専門性に特化し過ぎた結果として逆に各軍団や官僚、アカデミーの質が落ちた事を反省した結果としてのカリキュラムだった。
すなわち将来的に軍団兵を希望していても座学はしっかりやる必要があるし、逆にアカデミーでの技術系専門職を希望していてもある程度以上の武芸を身につける必要があるという事だった。
国民皆兵と開拓者精神。これこそが人類最前線国家であるタッシュマン王国の国是でもあった。
これらの必修科目を毎日午前中に受け終えると、昼食を挟んで午後からは選択式の講義となる。
王立学園は16歳から18歳までの少年少女達が通う教育機関だが、午後の授業選択は日本で言うところの大学の講義制に近い。
午後の講義では各生徒たちが、自らの将来に必要になる講義や、関心がある分野の講義を受ける事になる。
なお一部の者は逆に学生のうちしか学べないからと自分の将来に全く関係なさそうな講義を受ける者もいる。例えば軍団兵志望だが魔道具について専門的に学ぶ等。
ただしこれが案外馬鹿にできず、文字通り何が将来役に立つかわからないという事例も多々あった。
話を戻すと、タッシュマン王国で王立学園に来るような生徒たちの主な卒業後の進路としては軍団兵、官僚、アカデミー関連、財界、世襲貴族領主などがある。
これらの各職種に求められる素養はかなりばらつきがあるため、生徒たちは自分の将来の希望にそった講義を自ら選ぶことが期待されている。
こうして生徒たちは午前中は各クラスで必修授業を受け、午後からは自ら選んだ個別の講義を受ける事になる。
・ ・ ・
「なぁ、なんで俺と同じ講義ばっかり取るのお前ら」
「……えっと。ノーマン君が友達少なそうだからしょうがなくかな」
「ノーマンくん、それは自意識過剰というものだよ。むしろ君がボクと同じ講義を取ってると言っても過言ではないんじゃないかな?あれかな?君はボクの事が好きなのかな?」
入学式から1週間。セイラーにたまに嫌味を言われたり、リンネア達に謎に心配されたりする事を除けば今のところは特に大きな問題もなく学園生活を送っていたジェズだが。
午前中の必修講義を第1クラスの大教室で受け終えた後、学食でランチを食べながらジェズはアルケミスとロレンツィと話をしていた。
この二人、入学式の翌日からなぜかやたらジェズに絡んでくるのだった。
「むしろ俺が困ったちゃんみたいな表現やめてくれる?」
ただ絡んでくるだけならまだしも、二人ともに中々にナチュラルにウザイのが面倒だった。第1クラスも他クラス同様100名の大所帯なわけだが、予想通りクラスはセイラーやミリアムを中心に回っている。
そしてあとは出身地や希望職種、家柄別に小さなグループが幾つかという状態。
しかしその中でもジェズ・ノーマン、ヴィクター・アルケミス、そしてセラフィナ・ロレンツィの3名の謎グループは非常に悪目立ちしていた。
個別科目の一位を独占したノーマンとアルケミス。そしてディヴィナ法王国からの留学生で修道女見習い、総合3位のセラフィナ・ロレンツィの組み合わせ。これで気にするなという方が無理がある。
3名で食堂で昼飯を食べているだけでもチラチラと視線を感じる。それだけインパクトがある3名だったのだ。
その後もこの1週間の講義や学校生活について雑談していた三人だったが、セラフィナがふと思い出したように二人に問いかけた。
「そういえば来週には王立学園1年生名物、オリエンテーション合宿だってね?二人はこの合宿について昨年以前の話とかは聞いてるかい?」
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