第136話 第4部第4話
たった一言で室内の雰囲気を最悪な状態に叩き落とした若き日の錬金術師。この辺りはさすがである。
にっこりしたエリンとブチ切れ寸前のミリアムを見た彼女達の周囲の取り巻きが逆に慌てている。
そしてジェズに失礼な態度を取るエリン達に対して難しい顔をしている北部出身のリンネア、イーダ、オーレ。彼女達としてもいきなり王都の主流派と事を構えるのは望まないが、ジェズが舐められるのはそれはそれで腹が立つ。
初っ端だというのにカオスな室内。全くこれだからガキンチョは数が増えると碌な事にならねぇとゲンナリしたジェズはやれやれと首を振りながら事態を収拾すべく室内を見渡す。
室内の28名。その大半はエリンとミリアムの派閥であり、それぞれの盟主がお怒りな状態であるため動けないだろう。
その他の少人数グループも今の所動く気配は無い。北部出身の面子にはジェズが目で動くなと指示を出すと渋々頷くリンネア達。
東部、南部、そして留学生グループは完全に静観の構え。妥当な判断だろう。
残りは三人のぼっち達。彼らの方を確認すると二人は完全に我関せず。しかしやたらニヤニヤした一人の女生徒がいた。その服装は特徴的な司祭服。
ジェズと目が合った彼女は仕方がないなぁとでも言いたげな表情をしながらジェズ達から少し離れた場所のソファーから立ち上がると、咳払いをしながら近づいてきて。
「やぁ、皆さん初めまして。ボクはセラフィナ・ロレンツィ。見ての取り見習い修道女さ」
とにこやかに挨拶してきた。どうやらディヴィナ法王国からの留学生らしい。やや大人びた雰囲気の聖職者見習い。
立場的にもどの勢力にも属していない彼女ならばこの場を納めるには最適な人物だろうとジェズは進み出てきてくれた事に感謝するが。
「……えっと。今時ボクっ娘修道女とかキャラ付けしすぎじゃないかな?」
「おいアルケミス。黙ろうか」
相変わらずのアルケミスの発言に即座に反応するジェズ。そのやり取りを聞いたセラフィナは一瞬きょとんとした顔になりその後に爆笑。
しばらく笑った後に息を整えると。
「アルケミスくん、言いたいことはわかるけど程々にね?」
そう言ってヴィクターの暴言を軽く流す。この一連の対応を見たジェズは目の前の見習い聖職者の評価を上方修正する。
この娘、ただの学生とは思わない方が良いかもしれない。ディヴィナ法王国からの留学生は毎年数名づついるらしいが、こいつはその中でももしかしたら既に役職づきかもな。
そんな事をジェズは思いながらもセラフィナを見ていたが、どうやらセラフィナの登場とヴィクターの暴言を彼女が笑って受け流した事で場の雰囲気が変わる。
ここがタイミングかなとジェズが思ったまさにそのタイミングで。
「お待たせしました!学生の皆さんはこちらへ!!」
貴賓室のドアが開き会場へ案内されることになった。エリンやミリアムは釈然としない顔をしつつその場を離れそれぞれの派閥の元へ戻る。
ジェズは成り行きでそのままヴィクターとセラフィナと行動を共にする事になった。
・ ・ ・
王立学園大闘技場にて今年度の入学式が始まる。コロッセオの戦闘フィールドに新入生たちが入場してくると観客席から割れんばかりの拍手が贈られる。
そして新入生が概ね入学し終わると。最後に今年度の成績上位者28名が入場してくる。彼らだけは出身と名前が読み上げられ、その栄誉が個人として讃えられる。
観客席には上級生や保護者、教師陣に加えて各軍団やアカデミー、他国の大使館や財界からも人が来ているため格好のアピールの場。
ジェズも自身の名前が読み上げられると観客の声援に手を振って応えた。一際声援が大きくなったのはセイラーの名前が呼ばれた時。やはり彼女は王都では既にそれなり以上に有名人なんだろう。
新入生の入場が終わると、続いてそのままタッシュマン王を先頭に来賓の王侯貴族や学園長などの上級教員が入場してきた。
その後の進行は至って普通。王立学園の学園長から挨拶があり、続いてはラムセス王から激励の言葉。
在校生代表として王立学園三年生にして生徒会長、そして第2王子でもあるレヴィス・タッシュマンから歓迎の言葉。最後に新入生代表としてエリン・セイラーから挨拶があった。
入学式そのものは30分程度であっさりと終了。最後には王立学園の教師陣から今後のスケジュールやオリエンテーションの案内が実施され、入学式は終了。
この日は午前中の入学式のみで終了し、実際にクラスでオリエンテーションなどを受けるのは明日から。
ジェズは面倒な事に巻き込まれる前にさっさと帰ろうと思い式が終わるや否やコロッセオを離れようとする。とりあえず大闘技場の中でトイレへ行ってから帰ろうとしていたのだが。
「……うん、迷ったな」
大闘技場、かなり大きな施設であり今日は人も多い。さらに今朝は一般の入り口とは異なる貴賓室ルートを案内されていたために寮へ戻ろうとするも道がわからなくなってしまった。
とりあえず朝に行った貴賓室でも行ってみるかと向かった先で。
「レネちゃん!!早く戻ろうよ、怒られちゃうよ」
「この程度大丈夫だろう!私たちがいずれ通う学校、少しくらい探検しても問題あるまい」
小学生くらいの女児二人が貴賓室エリアで何やら騒いでいる。なんだこれ、迷子か?と思ったジェズは自分自身も迷子である事はひとまずおいといて声をかけた。
「君たち?迷子かい?大丈夫?」
いきなり声をかけられた二人のちびっ子は肩をビクッとさせつつもすぐに臨戦体勢を取り、
「レネちゃん、不審者だよ、排除する?」
「リリー、許す。さっさとやってしまって探検の続きをしよう」
ジェズ16歳、レネとリリーは12歳。意外なところで意外な出会いもあったらしい。
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