第134話 第4部第2話
王立学園入学式当日。1000名にも及ぶ新入生、一部の父兄や上級生。そして教師陣。
総勢2000名を超える人数が入学式のために王立学園内大闘技場に集まっていた。
学園内の各種催し物や一部の一般公開される闘技会などでも利用されるコロッセオ形式の闘技場であり、タッシュマン王国王立学園を象徴する建物の一つ。収容人数は1万人ほどの本格的な闘技場である。
新入生は闘技場のフィールド内に集められ、それ以外は観客席へ案内される。ジェズも案内に従って新入生席へ進んでいくと。
受付で名前を名乗ると他の生徒とは別の入り口へ案内された。どうやら入試の成績で10位以内に入ったものは入学式で表彰されるらしい。
タッシュマン王国王立学園。人類最前線を守る戦争国家の次世代を育てるための学校は紛う事なき競争社会であり、実力社会。
それを初っ端から感じさせるような扱いである。だがそれが悪い事だとは思わない。ジェズもこの世界に来て16年。しかもタッシュマン王国の中でも最激戦区の北部戦線で暮らしてきたのだ。
故郷も既に魔物によって滅ぼされている。強さこそが全て。ここはそういう世界だ。
そういう意味ではうっかりだったにしても入試で1位を取れたのは良かったかもしれない。というかこの辺りのシステムももう少しちゃんと聞いておくべきだったなと反省するが。
なんにせよ別室へ歩みを進めるジェズ。たどり着いた別室はどうやら大闘技場内の貴賓室らしい。
そこには既に30名ほどの新入生が揃っていた。総合、座学、武芸、魔法、面接の全5種類の10位までが集められるので最大50名ほどになるわけだが、ジェズのように複数の科目でランクインしている者も多い。
そのため人数はどうやら30名前後程になっているようだった。
室内を見渡すといくつかのグループが出来上がっている。それもそうだろう。特に王都で暮らしてきた貴族の連中は幼い頃から横の繋がりも強いと聞く。
グループの中でも最大の人数は先程ジェズに絡んできたエリン・セイラーとかいう女子のグループ。セイラーを含めて8名で固まっている。
それに次ぐグループが話から漏れ聞こえてくる限りどうやらミリアム・ストーンウェルという女子のグループ。彼女のグループは5名。
この二つのグループだけで13名。過半数に届こうかという程。やだやだ。これだから王都の貴族は。
そしてそれ以外には2、3人で固まっているグループが4つほど。4つのグループはそれぞれ南部、東部、北部戦線地方出身者のグループと留学生グループらしい。
そしてジェズ含めてぼっちが5名。これで総勢28名。やれやれと内心でぼやきながらもジェズは貴賓室内で空いていたソファーに座ろうとするが。
ジェズに気づいた北部戦線出身の3名が駆け寄ってきた。
「ジェズ様!いらっしゃったのですね、お待ちしておりました!」
ジェズに声をかけてきたのはリンネア・ハウゲン。ノーマン家に古くから仕える家令の家系の娘でありジェズとも当然面識がある。彼女の父はジェラルドの秘書。
今回ジェズが王立学園へ入学するにあたってお手伝いとして入学してきた側面もある。
「ジェズ様、またそんな隅っこに……」
やや呆れながらリンネアと共に声をかけてきたのはイーダ・ニエミ。彼女も当然北方出身であり、彼女の母は第二軍団で連隊長を勤めている。その連隊長にはジェズも模擬戦でボコボコにされた事がある。
「ジェズ様らしいですけど。立場もあるのでしっかりしてください」
最後に声をかけてきたのはオーレ・ハルヴォルセン。平民出身ではあるものの幼くしてその才覚を評価され、北部中核都市フォースヴァルの中等学校に奨学生として通っていたジェズの学友だった男。
リンネア・ハウゲン、イーダ・ニエミ、そしてオーレ・ハルヴォルセン。この3名が今年の北部戦線から王立学園へ入学してきたトップ層であり、ジェズを支える力になる者達だったが。
「……いつも言ってるだろ?俺はノーマンの家名を名乗ることを許されているけど養子だ。お前たちにそんな形で接してもらう資格はないよ」
ジェズの方はそっけない感じで応える。ジェズがノーマン家に拾われてそろそろ8年ほど。彼としてもノーマンの養子としてどう振る舞えば良いのか悩みながらの日々なのだが、今のノーマン家には直系となるルカとルチアという双子の兄妹がいる。
二人ともまだ幼いがノーマン家はどちらかが継ぐことになるだろう。それを考えてもジェズがノーマンの人間として出過ぎるのもどうかと思った結果としてのジェズの振る舞いだった。
しかしそんなジェズを見て三人はやれやれと首を振りながら、リンネアが代表して答えた。
「ジェズ様の言いたい事も分かりますが、お館様からも言われていますので。……それに仮にお館様から何も言われて無かったとしても私たちは変わりませんよ」
リンネアの言葉に頷くイーダとオーレ。
「ジェズ様、貴方は貴方自身の才覚で私たちに貴方自身を認めさせました。北部では強き者こそが正義。そういう意味で貴方は充分以上にノーマンを名乗る資格があります」
そういうと三人が一斉にジェズに跪こうとするが、なんとかそれを押し留めるジェズ。
「……わかった。ありがとう。だけどここではそういうのはダメだ。普通の学友として頼むよ」
譲らない三人の辟易としながらもジェズという自分自身をしっかり見てくれている三人のことをジェズは決して嫌ってなどいない。ただ彼自身も色々と踏ん切りがついてないだけなのだが。
そしてそのまま三人と軽く雑談した後にその場を離れ、部屋の端の方にあったソファーへ向かう。
そこには一人ポツンと地味な男子生徒が静かに腰掛けていた。その男子生徒は華奢な体格に、目元まで覆うような前髪。
まるでギャルゲ主人公じゃねぇかと思いながら声をかけるジェズ。
「失礼、ここ良いかな?」
「……え?僕?……うん、良いよ」
自分が誰かから喋りかけられる事を全く想定していなかった彼は若干驚くと人見知りらしく若干きょどりながらも答えた。
彼の確認をとったジェズは礼を言いながらそのまま腰掛けると。
「はじめまして。俺はジェズ・ノーマン。君は?」
「えっと。……僕はヴィクター・アルケミス。よろしくね」
これが後に王立学園史上最高の問題児ペアと呼ばれる者達の初邂逅。伝説はここから始まった。のだが。
……え、誰こいつ?
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