第129話 第3部第38話
固有魔法デウス・エクス・マキナ。
地球世界の超深層級探索者 三崎考の象徴にして奥義。世界に五人しか存在しない超深層級探索者達。彼ら五人とその他の探索者たちを分けるのがこの固有魔法の有無である。
一般に上層、中層、下層、深層などの各階層で表現される探索者達のレベルは人間が決めたランクにすぎない。実態として例えば上位の下層探索者と下位の深層探索者の実力にどれほどの差があるのだろうか?
しかし超深層級探索者だけは違う。彼らは純粋に“固有魔法が使えるかどうか?”の一点のみで評価される。
それだけの価値が固有魔法にはあるのだ。そんな切り札を躊躇なく使った三崎。
彼が固有魔法を展開すると同時。市ヶ谷駐屯地演習場を中心として世界が創り変えられる。
そこに現れたのは著しい機械化が進んだ近未来都市。更に見渡す限りに機械化された兵器が揃う。ありとあらゆるサイズのドローン。人型の支援兵装。自走砲台。空を飛ぶ無人機。
そして人のサイズを遥かに超える全高20メートルほどのロボット。それら全ての兵器が動き出す。
“固有魔法キタ!!”
“勝ったな”
“風呂入ってくる”
“勝ち確演出w”
“三崎さん、やっておしまい”
デウス・エクス・マキナ。この固有魔法はこれまでも地球世界をあらゆる災厄から守ってきたロマンの力。
あらゆる武装がモンスターの大軍に向けられ、
「フルバースト!!!」
三崎の号令と共に一斉に攻撃が放たれた。まるで世界が割れるかのような轟音と光。それが断続的に続き、その衝撃で空気が揺れる。
異界の門から溢れ出たモンスターの大軍が物凄い勢いで駆逐されていき、回廊への道が開かれていく。
なおデウス・エクス・マキナは地球世界側ではうまく作用しており市ヶ谷駐屯地を中心に半径10km圏内はすでに三崎の固有魔法の影響下にある。
しかし異界の門とそれに続く回廊はいまだにその力の侵食を受けておらず、門の周囲で三崎の魔力と門の魔力が拮抗し火花を散らしている。
そんな様子を確認した三崎は、やはり固有魔法では次元世界を繋ぐ回廊とは相性が悪い事を認識した。
ここはレネとジェズをあちらの世界に送り届ける事で良しとするべきか。研究者としての血はめちゃくちゃに騒いでおり異世界には凄く興味があるのだが、現状の世界の不安定化を考えると限界も近いだろう。
このまま時間が過ぎればこちらの世界も、あちらの世界も魔力バランスを崩してそのまま世界ごと崩壊しかねない。すでに日本を含めて世界各地のダンジョンが活発化しているとの報告もある。
本当に残念だが仕方がないか。ひたすらにあらゆる砲撃をモンスターの大軍にぶち込んだ三崎は叫んだ。
「さぁ、道は開いた!!行ってくれ!!!」
既に概念武装を展開して三崎が撃ち漏らしていたモンスターを肩慣らし程度に屠っていたレネとジェズ。
三崎の圧倒的な火力に感嘆しつつ彼が用意してくれた門へと続く道を確認するとレネは一気に魔力を解放し炎の翼を展開。
翼を羽ばたかせると空へ浮き、右手に炎帝剣を、左手にジェズを捕まえると
「三崎殿ありがとう!助力感謝する!!」
「助かった、ありがとう!!」
レネとジェズが三崎に一言感謝を伝えると、三崎の方も笑顔で
「こちらこそ楽しかった!気をつけて帰れよ!!」
と手を振りつつもレネ達の進路に向けて更に攻撃を集中させた。門の方からは彼らの動きを察知したかのように更に大量のモンスターが溢れ出てこようとしているが。
「あはははははははははははは!!!!邪魔だ、どけぇええええええええええ!!!!」
魔力を全開にしたレネが炎の翼を羽ばたかせながら全速力で門へと突っ込んでいく。三崎の支援射撃を受けつつ、ジェズからの支援魔法も受けたレネは炎の嵐となり突き進んだ。
そしてついにレネとジェズは門へと到達した。
・ ・ ・
門と回廊の向こう側にジェズとレネ姫を確認したヴィクター。
擬似神器 Perc
しかし様々な偶然が重なっての結果。もう一度同じ事をやれと言われてもできない。本来であれば龍のカケラを集め、それを用いて反転術式を利用してジェズ達を回収するつもりだったのだがエライ大事になってしまった。
数十人の魔族、マジックジャマーによる干渉。次元特異点になりつつあるヴィクターやエリン、そして聖女のルクレティア。更に古代遺跡群のすぐそばで大規模な戦闘も発生しているらしい。
これらの結果、世界の魔力バランスが局所的に崩れた上で古代遺跡が起動して門が開いた。今回は様々な事象が同時に発生している事もあり、古代遺跡の起動方法も再現するのは難しいだろう。
すなわち、このチャンスを逃せば次にジェズ達がどうなるかは分からない。早く回廊へと進もうとするが。
「……なるほど、そう来るか?」
珍しく真面目な表情でヴィクターが呟く。マジックジャマーの影響を受けて動きがおかしくなっていた魔族たち。
その姿が魔力に還元されていきながら門へと吸い込まれていくと、その分だけ大量の魔物が生まれてきていた。どうやらこの魔物の軍勢は向こう側の世界にも溢れているらしい。
この敵の量。いまここにいる人数で相手にするのは難しいか?とヴィクターは悩むが。
マジックジャマーによる結界で干渉されていた古代遺跡群の結界を覆うように更にもう一つの結界が展開された。
「天上の神々よ、時は来た。その音を世界に響かせ給え。全ての不正と悪を浄化し、平和の力をこの地に満たせ」
聖女が纏う法衣。それこそが最強の霊装の一つ。それが淡い光に包まれ、聖女を照らす。
「世界へ響け、鐘の音よ。その音色により戦いの中に平和をもたらす力よ、正義の名の下に制約を課せ」
神聖な魔力を帯びた聖女ルクレティア・アルマが祈る。この力。以前ジェズとラムセス王の模擬戦の際にも使われたものだが、今回はその時以上の力をルクレティアは込めている。
「神々の加護を受けし力よ、我が声に応え正義の鐘を響かせよ。概念武装
魔族が魔力に還元し、門へとその力が吸い込まれていたがルクレティアの介入によりその動きが鈍る。
概念武装
その能力は自勢力以外の魔力結合を阻害する事。言って終えばマジックジャマーの上位互換のようなもの。それをルクレティアはここで使った。
「みなさん、早く道を開きましょう!!!」
概念武装を起動させたと同時、エデルマーや聖騎士団を従えたルクレティアが吶喊し、動きが鈍った魔族を盛大に蹴り飛ばした。
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