第124話 第3部第33話

第5軍団と魔物軍が激突する事になる2日前。古代遺跡群にて。


魔族12名を簀巻きにした錬金術師ヴィクター・アルケミスはさて、ここからどうやって情報を絞り出してくれようかとニヤニヤしていた。


ヴィクターのアッパーカットが綺麗に入った魔族たちはしばらく目を覚ます様子がない。


この間に奴らがこの遺跡で何をしていたのか探っておくかとぷらぷらと古代遺跡群の中を散策するヴィクター。


そしてすぐに彼らが拠点として利用していたであろう場所を見つけるが。


「……ふむ?キャンプ地か。ほとんど人間と変わらない装備なんだな?」


何も知らずにその場所を見たら人間の冒険者達のキャンプ地だと言われても信じたであろう装備の数々。


逆に本当にこれは魔族のものなのだろうか?と疑問に思ってしまうほどである。


確かにタッシュマン王国のそれとは若干様式というか文化というかデザインが異なる。しかしそれも他国のものだと言われてしまえばそれまでの差。致命的な程の大きな差異は無い。


魔族。その存在は公式には確認されておらず、古い文献や禁書に僅かに触れられている程度。ヴィクター自身もほとんど情報を持っておらず、そのイメージから魔物の亜種とでも思っていたのだが。


オークなどの亜人種とでもいうべき魔物の延長線上に捉えていたのだがこれはむしろほとんど人間、というよりは人種の一つくらいのもんじゃないのか?と素朴な疑問がわく。


ますます興味が出てきたヴィクターは「ごめんよ」と小さく呟きつつキャンプ地に残されていた荷物をあらためていく。


生活雑貨や食料などはヴィクターにも理解できる。しかしいくつか用途不明な魔道具らしきものが見つかった。


他にも手帳類や書類もまとめて見つかる。それらの内容も確認してみるヴィクターだったが、まるで文字が読めない。


コソ泥のように荷物漁りをしているヴィクターだが、忘れがちになるがコイツの頭のスペックも尋常ではない。アゼリオン大陸の主要言語3つと古語共通語はペラペラな彼からしてもまるで読めない文字。


根本的にアゼリオン大陸の人類生存圏とは別物の文明圏と考えた方が良いかもしれない。これはいよいよ持って謎が謎を呼びますな?と好奇心で顔をにやけさせたヴィクターはそのまま調べ物を続けた。


・ ・ ・


それから十数分後。ひとまず一度様子を見に戻ったヴィクターだったが、


「お、何人か起きてるな?」


比較的ガタイが良かった3名の魔族が簀巻きのまま目を覚まして座り込んでいた。ヴィクターが簀巻きだった頃の監視役の彼もいる。


彼らは戻ってきたヴィクターを忌々しげに睨みつけるが、頭のおかしい錬金術師はそんな事をいちいち気にするような性格をしていない。場の雰囲気を全く気にすることなく、


「それで?お前らはここで何をしていたんだ?」


と飄々と話しかけるが当然の如く無視。


「言葉がわからないって訳じゃないんだろ?というか普通に俺が簀巻きになってた時に話かけてたじゃん」


とニコニコしながら話しかける。そのヴィクターの様子を見ていたヴィクターの元監視役はため息を吐きながら


「何も喋ることはない」


と一言だけ。その後もしばらくじーっとヴィクターは見つめていたが、魔族達はダンマリを決め込んでいた。


何度かヴィクターも気軽な様子で語りかけるが全て無視される。まぁそりゃそうだわなと思いつつもこのままという訳にもいかないだろう。


突然だがアゼリオン大陸において戦争捕虜の拷問は国際法で禁じられている。そもそも人類国家同士の戦争も少ないながらも無いわけではないのだ。


魔物の襲来が多く、その対策に年がら年中奔走してるとはいえ人類同士が戦う機会は少ないとはいっても残念ながらゼロではない。


そういった時に人類が国家同士の戦いで疲弊しすぎないようにいくつかの取り決めがあり、捕虜に関する扱いも決められていた。神器に関する国際条約と同じような位置付けのものだ。


それによると戦争捕虜に対する拷問は硬く禁じられており、仮にその約束が破られた場合はディヴィナ法王国が条約を破った国家に兵を向ける事になる。


ディヴィナ法王国は小国とはいえその戦力は侮りがたく、宗教面含めて政治的な影響力は大きい。そんな国と戦う事はどこの国も避けたいため抑止力としては一定の効果を発揮している条約だった。


このような条約の存在を王立学園の授業で習っていた事をふと思い出したヴィクターではあったが。


「……まぁ人じゃないし?国家間の戦争捕虜じゃないし?」


と呟きながらアイテムボックスの中から何やら魔道具を取り出しつつ、


「さて、魔族の諸君。いつまで耐えられるかな?」


とニヤリと笑う。とても主人公サイドの登場人物とは思えないようなセリフと雰囲気。……この男は果たしてどこへ向かっているのだろうか?


すでに目覚めていた魔族たちは緊張からごくりと喉を鳴らし嫌な汗を流すが、覚悟を決めたような表情をする。そんな彼らにジリジリと魔族に迫る錬金術師だったが。


「!?」


突如その場を飛び退くとそのまま一目散に物陰まで逃げた。ヴィクターが先程までいた場所の地面は抉れており何らかの攻撃があった事がわかる。


ヴィクターが物陰からそっと先程までいた広場をのぞこうとするが再び攻撃が。


「そこのニンゲン!!貴様はすでに包囲されている!!!大人しく投降すれば楽に殺してやる、諦めて出てこい!!!!」


どうやらヴィクターが気づかないうちに魔族の増援に囲まれていたらしい。把握できただけでも30名ほどの気配がある。


物陰に隠れたままヴィクターはぼそっと呟いた。


「……あれ?これ結構やばくね?」


完全に自業自得である。

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