第123話 第3部第32話

タッシュマン王国東部最前線城砦都市ノヴァリスから数日地点。人類未踏領域古代遺跡群付近にて。


ラージャ・ラージ率いる第5軍団二個連隊3000名と魔物軍約5万体が向き合っていた。お互いに視界には捉えたものの接敵までは今しばらくの猶予がある。


エリン達208名はラージャの指示で後方待機。まぁそれはそうだろう。人数的にも少数、戦いの連携なども確認していない、更に重要人物である聖女もいる。この状況下でラージャがエリン達をわざわざ前に出す理由が無い。


しかし5万もの大軍。これはどこから現れたのだろうか?


ラージャはもちろん斥候や索敵など出していた。人類未踏領域という事で普段よりも警戒度をあげてしっかりと探索していたのだ。


冒険者たちが作った地図もある事にはあるが、それを基にして軍事作戦を行えるほど信頼度が高いものではない。


したがってこの数日は可能な限り高速で行軍しながらマッピングもしつつ、更に広範囲な索敵を実施するというやり方で進んで来たのだ。


この一事だけでもラージャの指揮能力の高さと第5軍団の練度の高さが伺える。


もちろん偵察していた先行部隊は半日ほど前にしっかりと古代遺跡群の存在を確認しており、その際には魔物の大軍の気配など一切無かった。


それがどうだ。古代遺跡群付近の少し開けた場所を埋め尽くすほどの魔物の大軍である。


ラージャをはじめとした第5軍団首脳部は渋い表情でその様子を確認していた。偵察部隊が見逃したとは考えにくい。


彼らの実力も実績も確かだ。であるならば考えられるのは一つ。この半日の間で突然出現したのだろう。


先立って王都ではオークキングが十数体突如出現するという事象も確認されている。それを考えるとこの魔物の大軍も転移魔法など含めた特殊な方法で現れた可能性も否定できない。


南方大騒乱の際の魔物軍の連携といい、王都への襲撃といい、明らかに最近の魔物の動き方はこれまでのものと異なる。


一言で言ってしまえばまるで人間の軍を相手にしているような感覚だ。ただでさえ数が多い魔物の軍。それが知恵をつけ更には大規模な魔法まで使うとなるとどれだけ面倒なのか。


しかも今回は第5軍団側は3000に対して相手側は5万。平原での会戦という事を考えれば明らかに戦力比的にはこちらの不利。


ラージャはややゲンナリした表情をしつつも一つため息をつくと。


「しかしまぁ、戦果をあげる格好のチャンスではある」


と気軽な様子で呟いた。それを聞いてじわじわと戦意が高揚していく第5軍団。


「最近は南や北の連中ばかりに良い格好をされていたからな。東部戦線の力、しっかり見せてやろうぜ?」


ニヤリと笑うラージャ。そして追加で指示を出す。


「セイラー達に伝えろ。この大軍は俺たちが引きつける。その間にセイラーの部隊は遺跡群に突入しろとな」


ラージャの指示を聞いた伝令が頷くとエリン達がいる後方へ走る。それを見届けたラージャは前方の敵軍を見据えると


「全軍、準備は出来ているな?敵の数はおよそ5万。対して我々は3000。……これが意味する事は分かるな?」


覇気を込めて全軍に語りかける若き軍団長。その姿を見た全軍の士気は否が応でも上がる。そして全軍が自身の言葉を待っている事を確認したラージャは不敵な笑みを浮かべると。


「……意味する事はたった一つ。あれくらいの数じゃ俺たちは止められないって事だ。行くぞ!!!第5軍団、進軍!!!!」


「「「「応!!!!!」」」」


ラージャの号令のもと、3000名が一糸乱れぬ動きで敵の大軍目掛けて進軍を開始した。


・ ・ ・


地球世界、東京。市ヶ谷駐屯地内演習場にて。


先程から断続的に響き渡る剣戟の音。そして演習場内を所狭しと動き回る2名の探索者。


“おお”

“三崎と完全に互角!?”

“いや、むしろ姫さんの方が押してるじゃない?”

“というか姫様の剣術がやばい”

“まぁ三崎の本領は剣じゃないしな”


模擬戦が始まってから数分。お互いに模擬剣を手に、軽いアップ半分で剣を交えるレネと三崎。


どちらも服装は先程のまま。明らかにお互いに本気ではないものの、超深層級探索者とドラゴンを討ち取った異世界人の模擬戦である。


本気ではなくとも既にそれなり以上の攻防となっているが。


「……この程度じゃやっぱ何もわからないか」


「三崎殿も剣はメイン武器では無いにしては筋が良いじゃないか。ウチのジェズよりもセンスがあるぞ」


「……今の流れで俺をディスる意味ありました?」


三崎もレネも物足りないという表情。それはそうだろう、お互いに相手の戦闘動画は見ているのだ。相手の本気を知ってるからこそ、それを見てみたい。自分の実力を試してみたい。


剣を交わした直後、お互いが飛び退くと二人ともがニヤリと笑い。


三崎は白衣をはためかせたまま右手を掲げ、左手で右手を支え、そして最後に両手を前に突き出して叫んだ。


「アルファ、強化外骨格 ニュートラルモード スタンバイ!」


『Ready! Set!』


そしていつもは平坦なトーンで喋っているアルファが通信機越しに無駄に良い発音の英語で応える。そして、


「変身!!!!!」


『変身コマンド承認しました。強化外骨格を量子空間から実体化、使用者に装着します』


まばゆい光が一瞬にして三崎を包んだ後、そこには仮面とボディーアーマー一式に身を包んだ三崎がそこにいた。更に


「アルファ、武装同時展開。空間制圧型自律起動兵装、拠点制圧兵装!!」


『了解です。アイテムボックス起動、各武装を量子空間から実体化。メインウェポンに換装完了しました』


黒い変身スーツに身を包み、その周囲にはまるでファ◯ネルのような12機のドローンが追従。そしてその両手には巨大な超電磁砲レールガン


超深層級探索者 三崎考。ダンジョン技術研究所職員にして、その本質は。


ロマン武器の求道者。それが三崎である。


“ロマンバカ来た!!”

“最初からクライマックスw”

“嫌いじゃないぜ?”

“演習場でその装備は大丈夫なのか?”

“まぁアルファちゃんもいるし大丈夫なんじゃない?”


そんな三崎の変身と武装展開を正面から見ていたレネは「これが生変身!!」と目をキラキラさせながらその様子を見ていた。


そういえばこの子、三崎さんの動画のファンだったなとジェズは側から見ながら苦笑いをしている。確かに生で見るとジェズも少しテンション上がったのだが。


そんな三崎に応えるようにレネもスマホを掲げて魔力を解放すると。


一瞬でパンツスーツに身を包んだ外資系OLとなる。もちろんその手には炎帝剣フレイムソブリンが。


こいつらここが演習場だって忘れてないよな?大丈夫だよな?とジェズがやや不安になったまさにその時。


まるでレネの魔力に反応するかのように市ヶ谷駐屯地演習場に高エネルギー反応が突如発生。


全員がそのエネルギー反応に警戒する中、


「……これは!?マスター!!ダンジョン反応来ます!!」


秘書官のアルファが叫ぶと同時、エネルギー反応は更に上昇。そしてダンジョンが出現すると同時に。多数のモンスターがそこから溢れ出そうとしていた。

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