第122話 第3部第31話

タッシュマン王国東部最前線城砦都市ノヴァリスを守る第5軍団。そしてそこの軍団長を務めるのが、軍団長の中では若手となるラージャ・ラージだ。


第1軍団のレオや第7軍団のレネという王族の軍団長を除けば1番若い軍団長が彼である。


一般的には当然ながら軍団長になるためには実力と実績の双方が必要とされる。その双方が揃うのは40歳前後という事が多く、実際に歴代の軍団長の多くはアラフォーからアラフィフが多い。


現在の軍団長達の中でも第8軍団軍団長のフィン・モーガン、今は亡き第9軍団軍団長エリオット・クレイン、そして第2軍団軍団長のジェラルド・ノーマンの3名は同世代のアラフィフである。


第10軍団の軍団長セレナ・カスティロは30代前半でありながら王家に連なるカスティロ公爵家の若き当主を務めており、血縁としてもレネ・タッシュマンの従姉妹に当たる。


実力としてもタッシュマン王国最強の一角に当たるが、家柄もあるためにレオやレネ同様に例外的な位置付けの軍団長と考えて良いだろう。


そして新しく第9軍団 軍団長になるマリア・ヴァレンティは30歳になったばかり。このマリアとラージャは同世代である。


ラージャ・ラージはすでに3年ほど軍団長を努めている。即ち、彼は家柄なども特にない中で腕一本で20代後半で軍団長にまで上り詰めた傑物だった。


彼もまた王立学園出身であり、レオ・タッシュマンの学友でもある。元々東部出身だったラージャは王立学園の一般入試枠をその腕前のみで突破。


そして王立学園入学後は、当初こそレオを筆頭とした王族や貴族派閥と喧嘩に明け暮れる事になるが、2年生の後半になる頃にはレオの随一の友人になっていた。


物怖じしない性格、誰にでも公平な態度、そして武力。平民の一般家庭出身者であるが故に下の者の気持ちもわかる。


気づけば名実共にレオ派のNo.2と言って良いポジションになっていたのはラージャ・ラージにとっても意外な展開ではあった。


そんな彼は学生時代から長期休暇には地元に戻り冒険者稼業に参加。東部は北や南とは異なり冒険者活動も活発なエリアだったためにラージャにとって格好の実戦経験の場となっていたのだ。


そして学生時代から磨いてきた腕を持って、王立学園卒業後は教練過程を経て地元の第5軍団に配属される。


前任の第5軍団長が比較的高齢だったという事情もあったにせよ、家柄は普通の平民だった者がわずか7年ほどで軍団長にまで上り詰めたのだからその才覚は明らか。


軍団長就任後もそつなくこなして今に至る。


東部戦線は、激戦区の北方や、最近大きな戦いがあった南方に比べると比較的平和だと言われている。しかしそもそも東部戦線は二個軍団しか配属されていない事は忘れてはならない。


王都には近衛軍団、第1軍団、そして遊撃の第10軍団。北方には第2、3、4の三個軍団。南方には第7、8、9の同じく三個軍団。


そして東部戦線には第5、6の二個軍団。防衛線の総距離という意味では北、東、南のどのエリアもほぼ同じ。


東部戦線は王都から支援が受けやすい位置にあるとはいえ、二個軍団で守るのは中々に骨が折れる。


そんな要衝を任されているのが第5軍団 軍団長ラージャ・ラージだ。


・ ・ ・


東部最前線城砦都市ノヴァリスから出撃して早くも3日が過ぎた。そろそろ古代遺跡群が視界に入る頃合いである。


ここまでの3日間、数百体規模の魔物の群れには数度遭遇しているが、その全てを騎馬隊の突撃でほぼ一撃で粉砕。


ラージャ自身も慣らしを兼ねて一度だけ前線に出たがそれ以外は部下たちに任せていた。


王都からのお客さんたちも問題なく過ごせているようだ。彼らが最初にノヴァリスに来た際にはなんて面倒な事を持ってきてくれたのかとボヤいたものだが、事が事なだけに仕方が無いだろう。


王からの親書もあり事実上の勅命。流石にレネ姫殿下が行方不明というのはまずい。それに王都を襲撃した連中の事も気になる。


あくまでも推測だが、魔族や魔物に類するものがタッシュマン王国内に潜入するとしたら東部ルートが一番簡単な可能性があるのだ。


これは冒険者達が人類未踏領域によく出入りしている事も関係する。実は人類未踏領域も少数ながら人が居住している村落が存在。


そのような背景もありラージャ自身も一度広域の威力偵察の必要性を感じていたのである意味で渡りに船であったのだが。


ただ。これを言うと絶対にレオにしばかれるので言わないが、レネ姫はこのまま行方不明の方が政情的には望ましいのではないかとも思う。


ちょうど一年ほど前までは次代の王がレオである事は誰も疑わなかっただろう。ラムセス王は未だ50代で健在とはいえ、噂レベルでは数年中の譲位の話まで出ていたのだ。


その状況がこの半年で一気に変わった。レネ姫が突如として後継者候補に躍り出たのだ。南方大騒乱での戦果、指導力、そして武威。誰が見ても素晴らしいものだし、実際にラージャも同じ軍団長としては誇らしい気持ちである。


しかしレネ姫は王族であってただの軍団長ではない。これが事態をややこしい事にしていた。


更にレネ派には現役宰相の娘であるエリン・セイラー、王家に連なるジョンソン公爵家のリリー・ジョンソンという二枚が看板おり、本人たちにその自覚があるかどうかは置いといて政治的には既に一大勢力なのだ。


そしてここにノーマン家まで絡んできた。ラージャにとって最大の驚きだったのがジェズ・ノーマンの表舞台への登場である。


ラージャとジェズは4歳差であるため、王立学園では直接的に学年が被っている訳ではないのだが、レオ派の後輩たちからその存在は聞かされていた。


あのノーマン家の養子である。そのため学生時代からラージャはOBとして王立学園に赴いたり色々な機会を通してジェズ・ノーマンと接触を測ってきたのだが、尽く振られていた。


根本的に政治や出世には興味がなく、なんならあの実力で武官にすら興味が無かったようで学園卒業後は文官になっていたジェズ・ノーマン。


そんな彼が気づいたらレネ姫の副官的なポジションに。その知らせを聞いた時に、アイツ舐めてんのか?とラージャがややイラっとしたのも仕方がない事だろう。


更にラージャはジェズ・ノーマンをマークしていた結果としてヴィクター・アルケミスの名前も当然把握していた。


そのため今回の一連の騒動で、エリンや聖女ルクレティアからヴィクターが古代遺跡群にいると聞かされた時に内心ではこう思った。


ジェズとヴィクター。王立学園が誇る二大問題児がガチでやらかしやがったな、と。


そんな事を考えながらもラージャ・ラージは全軍に指示を出す。


「全軍、戦闘体勢を!!!!!」


ラージャ達が古代遺跡群を視界に捉えたまさにその時。古代遺跡群を守るように大規模な魔物軍の展開を確認した。


その数、約5万。

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