第121話 第3部第30話

配信が始まってから早くも30分が経過しようとしていた。三崎による“ウィスト夫妻は異世界から来た”という発言をきっかけに元々高かった注目度が更に上昇。


すでに視聴者は500万人の大台を超えて、更に増え続けている。日本のみにとどまらず世界中の視聴者たちがこの配信を見ていた。


それもそうだろう。この配信、場合によってはダンジョンが人類史上初めて確認された時以来の大発見に繋がるかもしれないのだ。


ダンジョンが初めてその存在が確認された時はそれはもう、物凄い混乱が世界中で発生した。何せダンジョンにモンスターに魔法である。


今回の異世界の話が本当であるなら、場合によってはダンジョン発見時よりも大変な事になりかねない。なぜなら、今回は“人”がいるからだ。


これがどのように転ぶのかはまだ誰にもわからない中で三崎によるインタビューは続いていた。


「なるほど、お二人はタッシュマン王国という国の軍人で、ドラゴン種と戦っていた際になんらかの儀式魔法に巻き込まれたと」


“マジで異世界から来たのかな?”

“ここまでの話の設定は破綻してないぞw”

“ただの妄想の可能性も否定できないしな”

“悪魔の存在証明的な?”

“仮に存在してるとしたらめちゃくちゃ戦争国家だなw”


レネやジェズ、三崎達との会話を静かに見守っているリスナー達も興味津々にその話の内容を吟味していた。


ウィスト夫妻の話によると、二人はアゼリオン大陸に存在するタッシュマン王国の貴族で軍人。そしてその国は北、東、南の三方を魔物領域に囲まれた人類最前線国家。日々魔物との戦いに明け暮れているらしい。


こちらの世界でいうダンジョンは存在しておらず、魔物領域全体がまるでダンジョンフィールドのようなもの。


地球世界では基本的にモンスターはダンジョン内にしか存在せず、スタンピードやダンジョンブレイクが発生しない限り地上にモンスターは出てこない。


そしてそんな事態が発生してしまえば大きな損害が出ることが普通だった。都市一つが消滅するのもざらにある話。


モンスターが地上を跋扈するというのはそれだけ危険な話なのだが、どうやらタッシュマン王国ではむしろそれが普通の状態らしい。


そしてそんな状態でありながらも魔物を押し返すだけの戦力を保有しているとの事。それなんて修羅の国?と配信を見ていた多くのリスナー達は思った。


しかしただ喋っているだけではあまり異世界な感じも出てこない。ただの妄想を聞かされている事とぶっちゃけ変わらない。


コメント欄も引き続き興味深そうな反応は示しつつ、もう少しわかりやすい何かはないのか?と期待をしていた。そんな様子を察していた三崎は、そろそろ頃合いか?と判断する。


「なるほど、僕たちの世界とはだいぶ雰囲気が違いますね。……戦いが日常であるタッシュマン王国のお二人に相談があるんですが良いですか?」


「なんだ三崎殿、急に改まって」


「不躾なお願いで申し訳ないのですが、僕と模擬戦をお願いできますか?」


相手の事を知るには拳を交えるのが一番早い。そうとでも言いたげな三崎の表情を見たレネは非常に良い笑顔になると。


「もちろんだ。私も三崎殿とは一度手合わせをお願いしたかった」


“模擬戦!”

“超深層級 vs 異世界人!?”

“他にもやりようあっただろw”

“わかりやすいのは嫌いじゃないw”

“三崎はなんだかんだで脳筋なとこあるよなw”


・ ・ ・


東部戦線の最前線城塞都市ノヴァリスから更に東。人類未踏領域古代遺跡群。


頭のおかしい錬金術師はノックアウトした12名の魔族を縛り上げて簀巻きにしていた。


擬似神器 Perception / Possibilityホルスの目を連続使用した反動でやや頭が痛い。


さすがに擬似神器を短時間に12回も連続で使うのはヴィクターに取っても負荷が大きかった。


ただまぁ。少し休めば問題ないレベルではあるし、魔族側に中途半端に攻撃して泥沼の戦いになってしまうよりも遥かにマシだろう。


それよりも気になったのは使の動向だ。ヴィクターが擬似神器を使った事でどうやら天使たちに捕捉されたらしい。


地球世界とこの世界の狭間の次元世界で逃げ回った時のように直接的に天使がこちらに介入してくる事は無いようだが、どうやら神器も使いすぎるとダメらしい。


恐らくこれもなんらかのに触れるのだろう。流石のヴィクターも天使や神器についての詳細は知らない。


魔族、神器、天使、更には異世界。


まだまだ世の中には俺の知らない事がたくさんあるんだなぁと好奇心を一杯に詰め込んだ瞳を爛々に輝かせたヴィクターは、まずは魔族さんからはじめましょうかね、と簀巻きで気を失ったままで転がっている魔族達をまずは起こす事にした。


・ ・ ・


エリン達が東部最前線城砦都市ノヴァリスから出撃して早くも2日が過ぎた。


騎馬や軍用馬車をメインとした機動力に特化した編成。そのため非常に早い行軍スピードである。


第5軍団軍団長ラージャ・ラージはエリンからの相談を受けた結果、自身も2個連隊3000名を率いて出撃する事にした。


ノヴァリスには第5軍団第3連隊1500名、および支援部隊500を残し、残りの第1、第2連隊3000名を率いての大規模な強行偵察である。


ラムセス王からの親書によると第3王女であるレネ・タッシュマンが行方不明に。エリン・セイラーやルクレティア・アルマはその救出任務の一環でわざわざ東部最前線まで来ていたらしい。


更に聖女によると人類未踏領域付近で神器らしきものの起動が確認されたとのこと。


南方大騒乱、王都大規模襲撃と魔族の出現。そして逆に違和感を感じるほどいつも通りの東部戦線。


何もないのであればただの強行偵察や魔物の間引き、あるいは行軍演習で良い。ただ後手に回るのはよくねぇなと判断したラージャはエリン達のサポートも含めてノヴァリスを出撃。


3000名の第5軍団とエリン達208名が何も知らない錬金術師に迫っていた。

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