第120話 第3部第29話

いよいよ始まったダン研 オフィシャル 広報チャンネル。事前告知の内容が内容だっただけに開始から10分ほどで視聴者はすでに30万人を突破。


その数字がどんどん増えていく様子を見たジェズやレネも注目度の高さを再認識していた。


冒頭の10分ほどは司会進行役の三崎からこれまでの経緯や、内閣総理大臣の鷹匠からの公式発表などがあり真面目な話が続く。


三崎からジェズ達の紹介もあったがそこはあくまで軽く。奥多摩ダンジョン事変といい新宿ダンジョン事変といい、事が事なだけにダンジョン庁や政府側も慎重に対応を進めていた。


三崎達が配信している横では秘書官のアルファや、ダンジョン庁の広報担当者達が配信のコメントやSNSの投稿に関する傾向をリアルタイムで分析。


仮にこれらのコメント傾向が荒れ気味だったり、もっと真面目な内容を求めているようであればそれに沿ったトーンで配信を実施し、比較的短時間で切り上げる方針だった。


一方で配信内容に好意的なものが多く、より踏み込んだ内容を知りたいというニーズが多いようであれば研究者としての三崎の知的好奇心に任せて配信を一つのエンタメとして継続する。


これらの方針を事前に決めて臨んでいた配信だった。ジェズやレネとしてはどちらでも構わない状況だったために、事前の打ち合わせの際にもダンジョン庁や日本政府側の判断に任せる旨を伝えてある。


そして冒頭の10分がそろそろ過ぎようかというところ。真面目な連絡事項を概ね伝え終えた段階で配信コメントやSNSは比較的友好的な状態。


もちろん一部では過激な投稿や批判的な投稿も見られたが、トレンド全体には影響が出ないレベル。


この状態が秘書官のアルファや広報担当者達から内閣総理大臣の鷹匠に伝えられる。この結果を見た鷹匠は一言。「俺が責任をとるから三崎に好きにやらせろ」とのこと。


タッシュマン王国はなかなかにキマっている国だったが、ダンジョンと共に生きている地球世界の日本もなかなかにご機嫌な国だった。


それはともかく。鷹匠からGOが出た事をスタジオで三崎にカンペでその内容を伝えたアルファ。それを見た三崎はニヤリと笑うと頷いた。


“ん?”

“なんか三崎が笑ったぞw”

“どこかで見たことがある邪悪な微笑みw”

“カンペ出た?”

“これは期待w”


配信画面に映る三崎が文脈に関係なく笑った事でざわつくコメント欄。ジェズやレネにもカンペは見えていたので彼らも頷く。


「あぁ、すいません。ちょっとカンペが出たんですけど色々とOKが出たので」


“こいつにOK出して大丈夫なのか?”

“真面目パートは終わりって事ですねw”

“ここからが本番だなw”

“待ってました!”

“三崎さんに自重なんて似合わないぜw”


なんとなく状況を察したリスナーたちも盛り上がり始める。確かにこれまでの真面目な話も大事だし、ドラゴン種や神話級の話は不安になる。


しかし、三崎がいる。ダンジョン庁や政府も動いている。彼らなら何があっても大丈夫だろう。きっと守ってくれる。それだけの信頼感を三崎達はこれまでに積み重ねていたのだ。


この流れを見ていたレネは興味深そうにしつつ、為政者側の目線として民衆と良い関係性を築いている現地政府の対応力の評価を上方修正する事にした。


仮に何か不測の事態が発生したとして、タッシュマン王国とこの日本という国が戦闘状態になったとしても戦力差やその品質からして王国側が負けることは無いだろう。


しかし油断は出来なさそうだ、というのがレネの評価。ちなみにジェズは、ダンジョンができると国ってこんなに変わるもんなのか、と一人密かに慄いていた。総理大臣、覚悟キマリすぎだろ。


レネやジェズ達が色々と考えている間にも配信は進む。鷹匠からOKをもらった三崎がまるで水を得た魚のように奥多摩ダンジョン事変や新宿ダンジョン事変における各種計測装置の異常挙動を嬉々とした様子で説明していた。


「という事で、要するにこれまでのダンジョン研究における概念が書き換わるような大発見につながるかもしれないわけですよ。まさに世紀の大発見ですね」


“ごめん、ムズイ”

“3行で”

“お前らw”

“要するに三崎が興奮するほど想定外のことが起きたと理解した”

“怖すぎw”


ダンジョン研究者にして超深層級探索者の三崎考。彼はこの世界で誰よりもダンジョンに詳しい人物の一人。


そんな人物が世紀の発見かもしれないと興奮するほどの事。知りたいような知りたくないような、でも怖いもの見たさも含めて知りたいような。


じわじわと三崎の熱に当てられたように盛り上がり始めるコメント欄。そして三崎はドヤ顔で。


「という事でですね、ダンジョンは異世界に繋がっているかもしれません」


“ん?”

“んん??”

“んんん???”

“お前の脳みそが異世界だ”

“はいはい”


三崎のあまりにも突拍子がない発言を聞き、あーはいはいと流そうとするリスナー達。


しかしこれまでの配信を視聴してた世界中の有名なダンジョン研究者たちが、三崎が示した各種データを見て“あり得るかもしれない”とSNSに投稿。


専門家コミュニティのざわめきを発端に、彼らのガチなリアクションを見た一般大衆にもそのざわめきが広がる。


“え、ガチなん?”

“海外の研究者たちも発狂してるw”

“ガチ論争も勃発してる模様”

“マジもんの世紀の発見じゃねぇかw”

“後ろの錬金術師:ようこそ新世界へ。……おい、ちょ待てよ!それはダメだろ!?”


世界中が良いリアクションをしてくれている事を確認した三崎はニヤニヤしながら更に燃料を投下する。


「という事で実際に異世界からいらっしゃった方々に話を聞いてみましょうか?こちらのウィスト夫妻、異世界から事故で地球世界に飛ばされてきたそうです」


“ま?”

“えw”

“oh”

“マジかよw”

“異世界人www”

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