第119話 第3部第28話

「リスナーのみなさん、こんばんは。ダン研 オフィシャル 広報チャンネルです」


新宿ダンジョン事変から2日後。事前に告知されていた通り配信が始まった。この配信、当然ながら日本だけでなく世界中で注目される事となる。


“キタ!”

“本当にキタw”

“すでに視聴者数がえぐい”

“そりゃそうだろ”

“はよはよ”


今回の配信では新宿ダンジョン事変で大活躍した二人の探索者、姫と金髪リーマンの二人がゲストで登場するとの告知もありいつも以上に熱気溢れるコメント欄。


それらをサッと流し読みしつつダン研の三崎が司会を進める。


「はい、という事でコメント欄もすごい勢いで流れてますが本日はスペシャルゲストに来ていただいています。早速行っちゃいましょう、ウィスト夫妻です!」


「「こんばんは」」


“こんばんは”

“こんばんは”

“こんばんは”

“マジで来たw”

“美男美女w”


配信画面にジェズとレネが登場すると同時。更にすごい勢いで流れていくコメント欄。それを興味深そうに眺めながらもレネはいつもより機嫌が良さそうな雰囲気。


彼女はどうやらこの状況を楽しんでいるらしいと気づいたジェズは苦笑いしつつ、何事もなく終わると良いなぁとやや遠い目になる。


「では早速お二人を紹介させて頂きましょう。先日の奥多摩ダンジョン事変、そして続く新宿ダンジョン事変でドラゴン種を討伐されたのがこちらのお二人です」


MCの三崎がジェズとレネの紹介を始めるとリスナー達も興味深そうにそれを聞いていた。


「なおこれから話す内容はダンジョン庁、および日本政府の公式見解という扱いで大丈夫です。情報公開が遅くなり色々と皆様には不安にさせたかもしれませんが、我々も状況をしっかり把握できています。ご安心ください」


やや申し訳なさそうな表情をしつつも力強く言い切った三崎。実際問題として正体不明の探索者2名がドラゴン種を二体も討伐し、更に神話級のヤマタノオロチも討伐したというのは安全保障上も脅威以外の何者でもない。


保守的な一部のメディアなどはダンジョン庁や政府の一連の事変での対応を批判しており、かなり真面目に色々な意味で危ない状況ではあったのだ。


「と言うわけでウィスト夫妻へ本格的にインタビューを始める前に、まずは内閣総理大臣の鷹匠秀一からも一言もらおうと思います。鷹匠さん、よろしくお願いします」


“いきなり大物来たw”

“色々とガチw”

“まぁ真面目な話、今回は結構やばかったしな”

“というか真面目に司会進行してる三崎がw”

“それなw”


三崎やジェズ達が配信を行っている市ヶ谷駐屯地内のスタジオと首相官邸スタジオがオンラインで繋がれる。


そしてそのまま内閣総理大臣である鷹匠から今回の一連の騒動やその対応について3分ほどで説明があった。


一部で荒れているコメントなどもあったものの問題なく説明が進む。鷹匠からの説明は比較的あっさりと終わり、真面目な質疑応答などは明日以降の官邸での記者会見で対応すると明言。


これにてまずは真面目な諸々の対応が完了し、割とガチで不安に包まれていた世間の雰囲気も一定程度落ち着くことになる。


そんな鷹匠の説明を聞きつつレネは不思議そうに「あれが王では無いというのも不思議な話だな」と解せぬと首を傾げていた。


日本は議会制民主主義を採用しており、象徴天皇制がうんちゃらかんちゃらという説明を事前にジェズがレネにしていたのだが相変わらずピンと来てないらしい。


絶対王政バリバリな最前線の戦争国家、タッシュマン王国の王族であるレネにとっては勝利のために迅速な意思決定と上意下達は必要不可欠。


それが難しそうな制度は、制度として理解はできても実際の運用が機能するかどうかがイマイチ腑に落ちないらしい。


会議なんぞをやっていて最前線の状況変化に迅速に対応できるのだろうか?あるいは長期にわたる国家戦略を任期付きの政治家が本当に刹那的なインセンティブに惑わされずにできるのだろうか?


この辺りがどうしても腑に落ちないらしく微妙な表情をしていた。もちろん権力に対する牽制機能は大事な事も理解できるのだが。


とはいえタッシュマン王国が存在するアゼリオン大陸にも宗教国家や、後方には連邦制や議会制を取る国も少数ながら存在しているため、まぁそういうものかと頷いておいた。


要するに平和な国なんだろう。


他国の政治制度に首を突っ込むと碌な事にならない。人類最前線国家、タッシュマン王国の王族として、軍団長としてレネは国を、人類を、仲間を守るために剣を振るう。それで充分。


そんな事をレネが考えていると鷹匠の説明が終わり、配信画面が市ヶ谷駐屯地の仮設スタジオに戻される。


「さて、ひとまずお堅い話はここまでにして早速お二人にも自己紹介してもらいましょう。ではまずレネさんからお願いします」


「はじめまして。レネ・ウィストだ。今回はこのような形で諸君に会えて嬉しく思う。またこのような機会を設けてくれた鷹匠殿や三崎殿にも感謝を」


レネがいつものように堂々と、上に立つ者の雰囲気を発しながら挨拶すると


“おお!姫ムーブ!!”

“かっこいい系の姫だったか”

“姫様〜”

“諸君って呼ばれたのは初めてだけど良きw”

“マジで姫っぽいw”


と一斉にコメント欄が湧く。金髪の美女が堂々とした雰囲気で語る。それだけであればここまでの盛り上がりは無かっただろうが、ジェズによる“姫”呼びのせいで色々と台無しである。


コメント欄の盛り上がりに対してレネはなぜそんなに盛り上がっているのか解せぬという表情をしつつ、まぁ悪い空気ではないから良いかとひとまず放置した。


そんな空気の中でジェズも続く。


「はじめまして、ジェズ・ウィストです。色々とお騒がせしたようですいません。我々もダンジョン庁や日本政府に協力させて頂いていますので、まずはご安心ください」


といかにも文官が言いそうな胡散臭い発言をにこやかに語るが


“ そういう覚悟、嫌いじゃないぜ?”

“ そういう覚悟、嫌いじゃないぜ?”

“ そういう覚悟、嫌いじゃないぜ?”

“ そういう覚悟、嫌いじゃないぜ?”

“もう大丈夫だ。お前たちは俺が守る”

“後ろの錬金術師 : 俺のことも守ってくれない?割とガチでヘルプ”


一部界隈で完全におもちゃにされているジェズだった。

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