第99話 第3部第8話

『さて、あまり時間がないから色々と伝えておくぞ』


「……おい、語尾を忘れてるぞ」


『さて、あまり時間がないから色々と伝えておくペポ!!』


「……ほんとにその語尾は意味があるんだろうな?」


アンデッドドラゴンに支援砲撃の攻撃が雨霰と降り注ぐ中、そこからやや離れた場所でジェズは概念武装ペンは剣より強いジャバウォックを起動したペン(大槍)を握りしめたまま、頭が悪そうなデフォルメされた妖精?マスコットと会話を交わしていた。


この一文だけで情報が大渋滞である。ここだけ切り取られたら確実に意味がわからない。


それはともかく、マジでこの絵面は何なんだろうか、とややゲンナリした気分のままヴィクター改めてヴィクポの話を聞く。


『ジェズに渡していたペンが2本あっただろう?それがたまたま世界を繋ぐ鍵になっている。だからその概念武装が起動してる間だけ俺もこっちの世界に顕現できるって感じだな……ペポ!!』


ヴィクポの説明によると、本当にたまたまジェズが概念武装をうっかり落とすと言う結果オーライな事をしたおかげで連絡がついたらしい。


ヴィクポがジェズに渡していた概念武装はその稼働状況をモニタリングできるようになっていたようで、その波長をアレやコレやすると世界を跨いでの追跡も可能だったとのこと。


そんな気はしてたけど。しれっとストーキングしてんじゃねーよと内心でジェズは突っ込みつつも、そのおかげでこうして連絡がついている事を考えると本当に結果オーライが過ぎる。


それはともかく、ヴィクポは必要だと思われるような情報を立て続けにジェズに伝えていく。


その中でも最も重要な情報だったのが


「と言う事は帰れるんだな?」


『あぁ、任せろ!ペポ!!ただしさっきも説明したけど龍のカケラを全て集めて欲しいペポ』


ヴィクポによると、今回の転移魔法陣はジェズがタッシュマン王国王都ネヴァリスタ上空で討ち取ったドラゴンが起点になっている。


そのためこちらに世界で同じ条件を揃えて反転術式を使えれば元の位置に戻れる可能性が非常に高いとのこと。


ただし転移魔法陣の核となったドラゴンはエネルギー体の結晶となっており、そのエネルギー結晶はジェズ達がいた世界から地球世界に来る際に幾つかのカケラになって散らばった模様。


ジェズ達の目の前で今まさに暴れているアンデッドドラゴンもその龍のカケラを核にして発生。目の前のものも含めて全ての龍のカケラを集める必要がある。


それなんてドラ◯ンボール?と思ったジェズは間違っていない。


何にせよやる事は決まった。とにかくこの世界でドラゴンを倒し続ければ良いのだ。やる事が具体的に分かれば精神的な落ち着きも取り戻せる。


ジェズ自身が気づいてなかった落ち着きの無さも消えていき、だんだんと普段通りの調子を取り戻していく。


そんな様子を見つつも他にもヴィクポからいくつか助言があった。


レネ姫はおそらくまだ意識を取り戻していないはずだが、それはこの世界にまだ馴染んでいないため。


世界を跨いで移動すると普通ならば体や脳が環境の変化についていけないらしい。


龍のカケラを手に入れてレネ姫に持たせておけば世界との調和も問題なく進むであろうとのこと。


その話を聞いてほっとするジェズ。彼がこの世界に飛ばされてから気にしていた「帰れるのか?」「レネは大丈夫なのか?」という二つの疑問がこれで共に解消された。


『しかしあれだな、ジェズは当たり前のように今いる場所が異世界だと言う事を受け入れているペポ。それに問題なく動けているし、どうやら現地語も理解してるペポ』


その一言を聞いてしまったという表情になるジェズ。そして更に表情に出した事を気づいて自分の二重のミスを悟る。


『ふむ。ペポ。昔から変わってるやつだとは思ってたけどその様子だと異世界の事を知ってたペポね?……ウィスト家の事情か?まぁその辺りの話はお前がこっちに戻ってきてから詳しく聞かせてくれよ。ペポ!』


ヴィクポはジェズの様子を興味深そうに見つつもここが戦場であり、残された時間もそう多くない事から追求はしない。


しかし流石のヴィクポでもジェズに前世があるなんて事までは予想ができなかったようだ。


……この頭がおかしい錬金術師になんて概念を知られたらそれこそ奴はなんとかして女神なり閻魔大王なりにガチで会いに行きそうなのでそれだけは避けようと心に誓ったジェズだった。


“観測さえできれば再現できる”それこそが頭のおかしい錬金術師ヴィクター・アルケミスの真骨頂なのだから。


ジェズとヴィクポが手早く情報交換を進める事この間わずか2、3分。そしていよいよ支援砲撃の勢いが落ち着いてきていた。


辺りには弾薬の煙が立ち込め視界を邪魔するが、その煙の向こうから感じられる圧倒的な存在感。まだドラゴンは生きている事がヒシヒシと感じられる。


『さて、そろそろ時間切れペポ。と言う事で最後に贈り物ペポ。受け取るペポ』


そう言ってヴィクポがジェズに渡したのは


「……これは?」


『ははっ!知ってる癖にここでそんな演技するなよ!まぁいいか、それはスマートフォンだ。お前とレネ姫の戸籍も作っといたから。あとはうまくやれ。……ペポ!!』


そしてニヤリと笑った妖精マスコットがドヤ顔で告げる。


『マスコットキャラは主人公に変身アイテムを渡す事が最大のミッションペポ!さぁ、異界の戦士よ!僕と契約して龍のカケラを集めるペポ!』


もう色々混じりすぎてて訳がわかんねーわとツッコミを放棄したジェズは受け取ったスマホの電源を入れると、そのまま空にかざす。


「古の叡智よ、時空を超え、我が姿を現世の形へと変貌させよ。伝承の装束よ、現代の風を受け、革新の光を我に与えたまえ」


ジェズが詠唱を開始すると空にかざしたスマホから光が溢れる。


「時代の、世界の、あらゆる垣根を越え、知恵の象徴たる衣装に宿りし力よ、今ここに具現せよ。秘められし真理を纏い、全能の力を我に」


光がジェズがその身に纏う官服を包み込み、


「知の重鎧を脱ぎ去り、新たなる知恵の衣を我が身に刻め。我が名において命ず、深淵の知識よ、変容の儀を開始せよ」


光に包まれた官服がその形状を変えていく。


「新たなる風を纏い、革新の布を織り成し、我に力を与えたまえ。現世の知恵の象徴よ、今ここに降臨せよ、我が姿を新たにせしめん!概念武装 郷に入れば郷に従えエコノミックアニマル 起動」


そしてそこには。官服ではなく、地球世界の文官、官僚、そしてサラリーマンの象徴に身を包んだジェズ。


そう、スーツ姿である。


『これぞ現地改修型文官Mk-Ⅱ。ペポ』


ネイビーのスリーピーススーツをかっちりと着こなし、髪をワックスで掻き上げた金髪の男がそこにはいた。


なおこの一連の流れ。日本全国どころか世界中にリアルタイムで放送されている事をジェズはまだ知らない。

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