第100話 第3部第9話

アンデッドドラゴンへの支援砲撃が行われる中。そこから少し離れた場所に立っていた官服を纏った男。


彼がどこかから大槍を取り出した直後、彼のすぐそばに謎のマスコットキャラが出現。


そしてそのマスコットキャラと謎の探索者がしばらく会話を交わしたかと思うと、そのマスコットキャラがスマホらしきものを手渡していた。


マスコットキャラからスマホを受け取った金髪の男はそのスマホをしばらくイジると、突如そのスマホを空に掲げ何事かを口にする。


直後、金髪の男が光に包まれたかと思うと光が収まった時。そこにはクールなスーツを身に纏った金髪の男がいた。髪型もバッチリ決まっている。


なおここまでの流れは世界中に放送されていた。報道ヘリが位置的に遠いため音声を拾うことはできていなかったものの、望遠カメラでその様子はバッチリ捉えられていた。


まさかのマスコットと変身モノ。それも金髪の青年と趣味の悪い人形の組み合わせ。その変身シーンは誰得だったのだろうか?


そして逆に音声が聞こえなかったからこそ、ネット上では謎のマスコットと金髪の男のやり取りのアテレコで大盛り上がりしていたのは別の話。


ジェズは後日、自身とヴィクポのアテレコ切り抜き動画が大量にネットに流れている事を知り悶絶する事になる。


・ ・ ・


概念武装 郷に入れば郷に従えエコノミックアニマル


その効果は、その地域で信じられている信念と合う行動をとる度に次の攻撃の威力が倍増する事。


すなわち、一度の行動で2倍、2回で4倍、3回で8倍、4回で16倍と指数関数的に攻撃力が上昇する。


官服の概念武装文民統制-啓蒙主義リヴァイアサン-カオスゲートの効果、戦場の魔素支配とは異なる体系の概念武装であるが、本来は格闘技系の連続攻撃を得意とするジェズに合っている概念武装ではあった。


極大の一撃を何発も放つための概念武装が文民統制-啓蒙主義リヴァイアサン-カオスゲートだとすれば、ずっと俺のターンを実現するのが概念武装 郷に入れば郷に従えエコノミックアニマル


こうしてこの世界の文官としての戦闘服、すなわちスーツを身に纏ったジェズ。


戦場の風にはためくスーツの裾。そしてその足元を支える革靴。そして右手にはスマートフォン。左手にはペン(大槍)。


紛れもない企業戦士がそこにはいた。この雰囲気であればさぞ契約も沢山取れる事だろう。


眼前の煙も晴れてきている。そして案の定、その煙の中から


「グォオオオオオオオオッ!!!」


世界を震わせる龍の咆哮。そして放たれるドラゴンブレス。


圧倒的な光量がスーツをその身に纏った文官に迫る。その光景を固唾をのんで見守る世界中の人々。


しかし。


「……らぁあああああああ!!!!」


手にした大槍(ペン)を力の限りぶん回し、ドラゴンブレスを空に向かって打ち上げる文官。


爆音と共に攻撃の軌道が代わり、空に打ち上がるドラゴンブレス。そしてその威力で完全に晴れる周囲の煙と空の雲。


眩い光が奥多摩から離れた新宿方面でも観測される程のものだった。


奇天烈な見た目にも関わらずその圧倒的な能力。ドラゴンブレスを避けられる探索者や短時間受け止められる探索者ならば探せばいる。


しかしその攻撃を完全に打ち上げる事が出来る者はどれだけいるのだろうか?


世界中の視聴者達が呆気に取られる中。右手のスマートフォンをジャケットの内ポケットにしまったジェズは両手で大槍(ペン)を握りしめて空を駆けた。


概念武装文民統制-啓蒙主義リヴァイアサン-カオスゲートがこの世界に最適化された事で官服からスーツに変化したように、この世界に転移させられた時から足につけっぱなしだったアームカバー、概念武装言論の自由ベヒモスは革靴に変化していた。


企業戦士の足元を支える革靴。それは全ての艱難辛苦、無理難題を乗り越えるための靴。この靴はあらゆる場所を踏破する。


スーツの裾を翻しながら大槍を両手に構え、縦横無尽に空を駆け回る金髪の男。


ドラゴンから放たれるあらゆる攻撃を立体機動で躱し、受け流し、時には打ち返す。


そして距離を詰めた文官は大槍を全力で振りかぶると。


「らぁあああああああああ!!!!」


アンデッドドラゴンに叩きつける。一撃、二撃、三撃と連続で放たれる絶技。


その威力に耐えかねたアンデッドドラゴンがまるで悲鳴のような咆哮を上げるが、


「……これでも足りないか」


ドラゴンが全力でぶん回した竜尾によりその場から吹き飛ばされるジェズ。大槍でしっかり受け、自らも後ろに飛んだ事からダメージはほとんど無いものの手がやや痺れる。


劣勢ではないが優勢でも無い。大槍を構え直しながら油断なくドラゴンを観察していたジェズだったが。


『やはりドラゴン種は伊達ではないペポね』


ヴィクポが冷静に分析する。さて。完全に余談ではあるがヴィクポは先程からどこにいたのか?


「なぁ」


『どうしたペポ?』


「ジャケットの胸ポケットに入るのやめてくんない?マジで邪魔なんだけど」


そう。本格的な戦闘が始まると同時。元々は人間の頭サイズほどだったヴィクポは手のひらサイズまで小型化。


そしてそのままジェズが着るジャケットの胸ポケットに潜り込み、そこから頭だけを出していたのだ。


胸ポケットに人形を入れてドラゴンと戦う金髪の男。なおその服装はスーツ。非常にシュールである。


『そう邪険にするなよペポ。この体は非常に脆弱だからちゃんと守って欲しいペポ』


その言葉を聞いたジェズは何とも言えない苦い顔をしたまま胸元に収まるヴィクポを見る。


『まぁ、冗談はこれくらいにしておいて』


「おい」


『こっちも準備できたペポ。あのドラゴン、やっつけようか。スマホを出すペポ』


何やら真面目な雰囲気になったヴィクポを見て頭を傾げながらも内ポケットからスマホを取り出すジェズ。


『さて、行くペポ。合わせるペポ』


その言葉と同時。ヴィクポは胸ポケットから飛び出る。


『「新たなる世界の扉を開け、古の伝承よ、今ここに目覚めよ。星々の囁き、時の流れを越え、その輝きを我らに示せ」』


宙に浮くヴィクポのそばにスマホ、そしてペンに戻った大槍が集まる。


『「天地の裂け目から現れし刃、その光は闇を切り裂き、希望を照らす。数多の魂が一つとなり、新たなる力を解き放つ」』


手のひらサイズから人間の頭サイズに戻ったヴィクポがデフォルメされたその手でスマホとペンを掴み、輝きが増していく。


『「神々の祝福を受けし剣よ、その煌めきで全ての悪を払いたまえ。古の呪文、秘められし力よ、我らの手に宿りて、無敵の盾とならん」』


そしてヴィクポが光に包まれると


『「竜の怒りを鎮め、炎を消し去り、正義の刃を振るうために。世界を、時代を超えて舞い降りし剣よ、今こそ目覚めよ。我らの意志を結びて、全ての障害を打ち破り、勝利の光を導け!」』


詠唱に完了と同時にヴィクポ、スマホ、ペンが合体。黄金の剣が現れる。


『「概念武装 新世界よりアメノムラクモ」』


圧倒的な存在感を放つ黄金の剣。躊躇なく、宙に浮くその剣を掴んだスーツ姿の金髪の男は全力でその剣をドラゴンに向かって振り抜いた。


それと同時に。黄金の剣筋がドラゴンを断ち切る。


崩れ落ちるアンデッドドラゴン。剣を振り抜いた姿で残心を取る企業戦士。静まり返る世界。


そして喋る黄金の宝剣。


『100話記念にぴったりな派手な攻撃ペポ。みんな、いつも読んでくれてありがとな!!ペポ!!』


100話記念でついに剣になった男。それこそが我らの頭がおかしい錬金術師ヴィクター・アルケミスである。

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