第98話 第3部第7話

奥多摩ダンジョン入り口付近。


ダンジョン内から出現したアンデッドドラゴンが謎の探索者(文官?)と交戦を開始してから数分が過ぎた。


奥多摩エリア全域には避難警報が鳴り響き、戦闘区域の外の空域には報道ヘリが飛び交う。


奥多摩ダンジョンから半径5キロ圏内の住人たちは警官や自衛官達による避難誘導に従い続々と避難を続けていた。


立川駐屯地から出撃した部隊も奥多摩ダンジョンから半径3キロ地点の絶対防衛網に展開が概ね完了。


更にダンジョン庁から緊急要請を受けた深層級探索者達にも動員がかかっていた。


突然発生したアンデッドドラゴンの地上進出を許してしまったものの、ダンジョン震発生直後から対応を進めていただけあって概ね順調な展開である。


現時点では探索者、民間人共に犠牲が出ていない事を考えるとむしろ120点以上かもしれない。


そしてお茶の間にも流れるドラゴン種と探索者の戦い。ダンジョン配信が一般的になり、探索者がモンスターと戦う姿はネットで普通に観られるようになった。


しかし地上波で、リアルタイムで、しかもドラゴン種との戦い。日本どころか世界を含めても超貴重な映像が流れていた事で各局がとんでもない視聴率を叩き出している。


そしてそれを観ていたのはお茶の間の一般人のみでは無い。日本を含めた世界中各国の探索者たちや政府機関も当然映像を確認していた。


そして全員が思う。「あれは誰だ?」と。


ドラゴン種と地上で一対一で戦える金髪の男。明らかに深層級探索者だろう。下手したらそれ以上の存在かもしれない。


その男が使う近接格闘と身体強化魔法らしきものも見るものが見れば既存の技術体系と異なる事がわかる。


彼はもしかしたら未確認の、世界で探索者なのでは?


もしかしたら自分たちは今、新たなる英雄の出現を目撃しているのかもしれない。静かに、しかし着実に世界中に広まる熱狂。


見た目は西洋風なのになぜか中華風の官服を纏ったその男は、どこの国の探索者データベースにも照合する人物がいない。


それに気づいた人々がネット上でその男の素性を探り出そうとし、各政府機関が諜報機関まで動員して本格的な調査に着手する。


世界中がそんな大事になっているとはつゆ知らず、官服を身に纏ったその男はひたすらドラゴンを殴り続ける。


・ ・ ・


目の前のアンデッドドラゴンと戦い始めて数分が経過した。


ダンジョンから出て完全に地上部にその全身を現したドラゴンだったが、幸いな事にドラゴンを象徴するその翼は機能していない。


そのためジェズも一般魔法のみで攻撃を加える事ができていたが。


「……決め手に欠けるな」


どの攻撃もドラゴンにとどめをさすには至らない。しかし敵の注意を自身に惹きつける事は出来ていた。


ドラゴンの侵攻を遅らせつつ、ダンジョン内から逃げてきた探索者たちが離脱に成功するまで注意を惹きつけることも同時に対応していたジェズだったが、どうやらそれは上手く行ったらしい。


高橋と呼ばれていた男が率いている10名のチームがドラゴンの攻撃範囲から離脱した。


これで周囲を気にしないで戦える。さて、そろそろ行きますかと思ったタイミングで


「そこの探索者!!聞こえるか!!30秒後に支援砲撃を実施する!!!タイミングを見て退避してくれ!!!」


上空を飛んできた戦闘ヘリからマイクで声がかけられる。それを聞いたジェズはドラゴンの隙を見て彼らにも分かるように手を大きく振った。ナイスタイミング。


ジェズが気づいた様子を確認した戦闘ヘリのパイロットは彼に“武運を”のハンドサインを送るとそのまま離脱。


その間、ドラゴンからの攻撃も華麗に避けていたヘリのパイロットの腕は推して知るべきだろう。


そこから更に数発の拳をドラゴンに叩き込んだジェズ。離脱前の最後の一発。攻撃を躱し、接近し、ドラゴンの体を駆け上がり、そして天高くジャンプをして。


踵落とし


轟音と共に地面にめり込むアンデッドドラゴン。しかしその見た目に反して本体へのダメージは引き続き軽微らしい。流石にドラゴン。頑丈だ。


だが隙を作るには充分。


ドラゴンの動きが止まった瞬間、その場から全力で離脱するジェズ。


それと同時。アンデッドドラゴン目掛けて各所から一斉に支援砲撃が開始された。


奥多摩ダンジョンから半径3キロ地点に展開していた立川駐屯地の各部隊から爆音と共にミサイルや砲撃が放たれる。


空に展開していた戦闘ヘリの部隊も一斉射撃を実施。


更に奥多摩ダンジョン前広場を狙える位置に展開していた探索者達からも遠距離攻撃が加えられた。


轟音、閃光に包まれるアンデッドドラゴン。その攻撃の余波による地響きは奥多摩中で観測された。


その隙をついてジェズも一気に概念武装を起動させる。ドラゴン種への特攻効果がある攻撃が出来なくとも、悪いようにはならないだろう。


そもそも概念武装が動くのかが心配ではあったが、直感的に大丈夫そうだと理解する。これならいけるか?


ドラゴンに支援砲撃が降り注ぐ中で詠唱を完了させ、まずは概念武装ペンは剣より強いジャバウォックを起動。そして大槍と化したペン(槍)を構えた所で。


突如、戦場に聞き覚えのある声が響く。


『……来た!!ペポ!!』


突如ペンだった概念武装を起点に声がする。びっくりしたジェズが何事かと手元の大槍を見ると。


大槍を起点にして一瞬で光が溢れ、そしてそこに現れたのは


『はははははははは!!!やっと繋がったペポ!!』


デフォルメされた趣味の悪い妖精をモチーフにした謎の人形?が宙に浮いていた。


なぜか眼鏡をかけているその妖精?は短い手足をピコピコと可愛らしく動かすが、全く可愛くない。


むしろそれを見ていると腹が立つのはなぜだろう。未だかつてここまで見てて腹が立つマスコットキャラはいただろうか?


「……は?」


『次元を超えてヴィクター・アルケミス、改めお助けマスコットキャラ、ヴィクポ、地球世界に見参!!ペポ!!!』


その趣味が悪い人形はヴィクターを名乗ると意気揚々と喋りながらポーズを決める。呆気に取られたジェズはドラゴン種を目の前に数瞬思考停止に陥った後、何から聞くべきかと少し迷って声を絞り出す。


「……突っ込みたいところは色々あるんだが」


『何ペポ!?早く言うペポ!』


「その語尾は何だよ」


『これは縛りペポ!!こっちに顕現するにも色々と制約をつける必要があったペポ!!まぁざっくり言うとこれも概念武装の一種ペポ!!』


にしても他にやりようがあるだろうが。

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