第95話 第3部第4話
自衛隊立川駐屯地に併設されているダンジョン庁特殊作戦群所属の部隊が奥多摩ダンジョンに到着してから10分ほどが過ぎた。
部隊を率いるのはベテラン下層探索者の高橋優斗。若手ホープの伊藤優香、田中涼介を含めた計10名はダンジョン入り口付近の調査を実施。
そしてダンジョンに人が出入りした形跡を発見。さらに残留魔素が明らかに高い値を示している事を確認。
最初はダンジョン震そのものが誤報かもしれないと考えていた高橋だったが、もはやその考えは捨てた。確実にこの場で何かがあったのだ。そのつもりで探索を実施する。
装備を整えた彼らは3名をダンジョン入り口に残して、7名でダンジョンアタックを開始。
既に死んでいたはずの奥多摩ダンジョン。そこで発生した不可解なダンジョン震と人が出入りした形式。
細心の注意を払って高橋たち7名は奥多摩ダンジョンを進む。しかし、ダンジョンアタック開始から30分が過ぎた頃。痺れを切らした田中が尋ねた。
「……高橋さん、何もないですよ」
田中以外の面々も警戒を維持したまま彼の言葉に頷く。ダンジョンに突入してから30分。ここまで何もないダンジョンも珍しい。
と言うよりも普通のダンジョンだったら30分歩いてモンスターに一回も遭遇しないのは明らかにおかしい。やはりこのダンジョンは機能を停止したままなのか?
モンスターに遭遇しない事に加えて、ダンジョンの内部空間も異空間と言うよりはただの洞窟である。確かに残留魔素濃度は引き続き高い値を示しているが、ダンジョン自体からはほとんど魔力を感じない。
明らかに異常が発生していたはずなのに、異常が全くない。その異常さを不気味に思いつつ高橋は悩む。このまま探索を続けるか。あるいはダンジョン周辺を探索するか。
判断に迷った高橋だったが、このまま収穫なしで駐屯地へ戻るわけにもいかないだろう。魔素濃度や人の痕跡もあったのだ。
ひとまず行けるところまでは行こう。
そう判断した高橋はそのまま奥に進む事を決める。元々奥多摩ダンジョンは深層までの一級ダンジョンだ。
超深層が確認されている特級ダンジョンとは異なり、ある程度その危険度は予測がついていた。高橋自身は下層探索者だが、現在の7名のチームであれば深層も索敵のみであれば問題ないだろう。
補足するとダンジョンはその危険度に応じてダンジョン庁によってランクづけされている。
最高危険度の特級ダンジョン、および一級ダンジョンは国が管理する。二級、三級ダンジョンは各地方自治体の所管。
そして探索者はそのキャリアを上層探索者からスタートし、中層探索者で中堅。下層探索者でエリート。深層探索者で化け物扱いとなる。
これらの階位は、ダンジョンにおける各階層を単体で踏破できるかどうか?で判断されていた。
例えば上層探索者であれば上層を単体で踏破可能と言う事だ。単体で上層を踏破するのはもちろんそれなり以上に難易度が高いので、多くの探索者は上層探索者のままで終わる。
したがって上層探索者と一言で言っても文字通り上層を探索する者と、上層をクリアして中層へ挑む者の玉石混合な状態になる。
一方で中層を超え、下層を単体で踏破できるようになると探索者としての実力は文字通り桁違い。
もちろん階層が深くなるにしたがって出現するモンスターや素材の質は上がっていくため、その収入も桁違いなものとなっていく。
こうした事情からダンジョン探索は現代のゴールドラッシュとも言われており、国を挙げての一大産業となっていた。
ダンジョン探索者の質や、得られたダンジョン産の素材がそのまま国力となるような時代である。
話を戻すと、ここ奥多摩ダンジョンは過去には深層まで確認された一級ダンジョンであり、首都圏に数少ない自然型ダンジョンとして人気のスポットだった。
高橋自身も昔、まだこのダンジョンが枯れてなかった頃に何度かダンジョンアタックした事があるようなメジャーなダンジョンだったのだ。
だがしかし。いくらダンジョンが枯れたからといっても雰囲気が変わりすぎでは無いだろうか?
足を進めるたびに違和感を感じはじめていた高橋は、ハッと気づく。なぜ失念していたのか?
「……全員止まれ」
やや緊張した声でチームに指示を出す高橋。彼の緊迫感を含んだ声を聞き全員が警戒度をあげる。
その様子を確認した高橋は冷や汗をかきながらも言葉にする。
「……ダンジョンに入ってからそろそろ1時間が経過しようとしているが、周りの風景は変わらず洞窟のまま」
高橋の言葉に頷くチームの面々。隊長は何が言いたいのだろうか?
「てっきりダンジョンは枯れていて、ここはダンジョン内部の異空間ではなくて現実世界の洞窟のままだと思っていたんだが」
高橋の言葉を聞いて全員がハッとする。
「奥多摩ダンジョンの現実世界の洞窟はここまで深くなかったはずだ。……俺たちはすでにダンジョンの中にいる」
一般的にダンジョン内部の異空間に突入すると景色がガラッと変わるため、明らかに異空間へ入った事がわかる。
しかしごく稀に現実世界の外部環境とダンジョン内部の異空間がほとんど同じような変則的なダンジョンが存在していた。ここ奥多摩ダンジョンもそうなのだろう。
枯れたと思われていたダンジョン。それが完全に復活していた。しかも変則型ダンジョンとして。これに気づけなかったのは高橋のミスだ。
ダンジョンが復活している事がわかったのだ。早くこの事を駐屯地に知らせよう。そう判断した高橋は入り口へ引き返そうとする。
新規のダンジョンはその内部にダンジョンネットワークが敷設されておらず外部と通信が取れないのだ。今思えば通信環境もしっかり確認しておくべきだった。高橋が自分の迂闊さに反省していると。
「あれ?なんだこれ?」
高橋の少し先を歩いていた田中が何やら黒いものを拾い上げていた。
「何それ?」
田中が拾い上げた大きな板状の物体を伊藤も不思議そうに眺めている。高橋も何気なくそれを見ると。
「……!?バカ野郎、早くそれを捨てろ!!それは龍鱗だ!!」
高橋が気づいた直後。田中が拾い上げていた黒い龍鱗が発光し、周囲の魔素を一気に吸収していく。
慌ててそれを捨てた田中だったが。
「グァァアアアアアアアアアアア!!!!」
奥多摩ダンジョンにアンデッドドラゴンが現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます