第93話 第3部第2話

王都ネヴァリスタからレネ姫とジェズが消失した翌日。エリンたちは再び王城での対策会議に参加していた。


昨晩はエリンとリリーがヒートアップした事もあり、王の勅命でその日は会議も打ち切り。帰ってさっさと寝ろとのことになった。


ラムセス王自身も娘のレネが行方不明になり非常に心配しているはずだが、それでも今いる面々に負担をかけすぎる訳にもいかない。


不安げな雰囲気が流れている時だからこそ王は毅然とした態度で指示を出していた。


なお別の話になるが、会議が解散した後にラムセス王は第0軍団にもしっかりと休むように通達。今回のテロを防いだのは間違いなく第0軍団の功績だが、転移魔法陣防げなかった事に責任を感じている者もいるかもしれない。


彼らはほっといたらいつまでも働き続けてしまうので、王自身がしっかり休みの指示も出す必要があった。


それはともかく、一晩寝てリフレッシュした面々が翌日には再び王城の臨時対策室に揃っていた。


冷静に考えれば今回の件、王都にドラゴンと十数体のオークキングが突如出現したのにも関わらず犠牲がほとんど出ていない事を考えると凄まじい戦果である。


下手をしたら王都が壊滅していてもおかしくないレベルの敵戦力だったのだ。


しかもレネ姫もジェズも転移魔法陣らしきものに巻き込まれたのであって死んだ訳ではない。単体戦力が非常に高いあの二人のことだ。余程の事がない限りすぐに死んだりはしないだろう。


更に転移の瞬間、ジェズとレネが手を繋いだ事も地上から観測できており恐らく二人は同じポイントに飛ばされている。


レネ一人であれば生活などに若干の不安があるが、ジェズがついているのであればその辺りも何とかなるだろう。


ジェズ・ノーマン。喰えない男ではあるが器用なのは間違いないのでこのような非常事態にこそ真価を発揮するタイプだとラムセス王をはじめとした対策会議に参加していた面々は考えていた。


しっかり寝て、一晩超えて落ち着いた事で熱くなっていたリリーとエリンも冷静に考える事ができるようになっていた。


対策会議に参加していた他の面々もあの二人であればしばらくは大丈夫だろうと判断した上で具体的な捜索手段について話が進む。


今回の最大の問題。それはドラゴンとオークキング十数体を用いた場合、どこまで転移させる事ができるのか?だった。


現在アカデミーの面々が総力を結集して王都に出現した大規模転移陣の解析、および生贄として利用された魔物の魔力から考えた転移先の検討を実施している。


ただし昨日時点の超概算で、最悪のケースではレネ姫とジェズはこのアゼリオン大陸にいない可能性もある事が指摘されていた。


アゼリオン大陸における人類生存圏の国々については教会にも力を借りて各国への聞き取り調査を実施する予定である。


一方で人類生存圏のその先、未踏領域に転移していた場合は救出隊の結成が必要だ。


更にアゼリオン大陸外となるとより調査が難しい。現在この大陸は他の大陸とほとんど交易が無い状態なのだ。


海岸沿いの国々では細々と別大陸とやり取りを続けているところもあるが、大洋が魔物領域となっている関係でほとんど船の行き来が無いのが現実である。


これらの事情もあって、まずは転移魔法陣の解析が急ピッチで進められていた。


そしてもう一つ。レネ姫専任騎士であるエリン・セイラーの提案により正式に錬金術師ヴィクター・アルケミスの捜索も決定される。


エリンが回収したペン。このペンがドラゴンからジェズを守るために突如出現したのを大勢の人物が目撃していた。


その事実から推測されるのは、このペンを模した概念武装がジェズの位置を特定できる可能性がある事。


その仮説の真偽を確かめるためにもヴィクターを探す事が王命によって決定される。


昼過ぎから始まったこの対策会議。具体的な動きが次々と決まっていく中で、


「すいません、遅くなりました」


部屋に到着したのは聖女ルクレティア・アルマと大司教エデルマー・ソレムニス。彼らは王都民の治癒や炊き出しなどを対応していたために会議への参加が遅くなっていた。


今回の大規模テロ。被害は最小限に抑えられていると言っても多数の建物損壊や少数ながら死傷者もでている。


それらの慰撫を聖女と大司教含めたディヴィナ教会の面々も王国軍に協力して対応していたのだ。


会議室に到着した聖女と大司教はこれまでの議論の内容を把握すると間髪入れず。


「私もその捜索に参加しましょう」


とヴィクター捜索隊に参加を宣言した。


聖女によると昨日から天使たちが非常に騒がしいらしい。以前ヴィクターが王都に現れた時と似たような騒がしさである事から、天使たちの動きを見ていればヴィクターの動きもわかるかもしれないとの事。


更にこの捜索隊にはアカデミーからもミリアム・ストーンウェルの参加が決まる。


ミリアム・ストーンウェル。彼女はヴィクター、ジェズ、エリンの王立学園時代の同級生であり、ヴィクターと同期でアカデミーに就職した偉才。


ヴィクターがアカデミーを辞めて地方で店を開いた後も付き合いが続いており、現在もアカデミーで順調に出世していたのだが。


学生時代からヴィクターが何かをやらかした際の後始末や、逃げたヴィクターの確保は彼女の仕事となっていた。


ミリアム曰く、完全に腐れ縁になってしまったので何とかしたいとの事だが。なおこのミリアム、エリンとは非常に仲が良い。


それはともかく、こうしてレネ・ジェズを捜索するためのヴィクター捜索隊が結成されていく。


この臨時チームにはエリン、リリー、ミリアム、さらにルクレティアとエデルマー。


この主要メンバーに加えて捜索先が人類未踏領域などの遺跡群になる事も想定して聖騎士団の一部、およびアルファズ隊が護衛として出撃する事になる。


こうして総勢200名ほどの人員で頭のおかしい錬金術師の捜索作戦が始まろうとしていた。

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