13-3
夜道を歩く。人が少ない夜は絶好の時間。今日は、昼まで眠り。目を覚ましてからもアリスはしばらく起き上がらず、仙崎は何も言わず、読書に時間を費やした。
これも、最近買った布団のせいかもしれない。昔ながらの、うすべったい敷布団にブランケットのような布を二枚ほど重ねただけのものだったが、元を考えると、天と地の差だ。
日が暮れてから、「そろそろ行こうか」と声を掛け、何十度目かの根気比べの結果、やっと立ち上がった。
それからも、
「ねえ、最近歩きすぎて足が痛いんだけど」
と文句たらたらであった。
「そうか。じゃあ、もっかい同じ道」
圧。
「はぁ……。嫌。もう歩かない」
いい。それでいい。アリスに「君のこれからの人生のため」なんて言いたいわけではない。これは自分を試しているのだ。道徳心。この街が持たないものの存在を、一人で証明しようとしている。
それに、彼女のこのようなわがままは、残りの日数を伸ばしてくれていた。それを喜ぶ自分がどれだけ愚かなことか。
──できれば今日中にここら辺を覚えて貰いたかったのだが、仕方がない。
「帰ろう」
じっとしているアリスの反応は鈍かった。
「どうした。お前の望み通り、もう帰るぞ」
「シュウは、私をどうするつもりなの?」
「怖いのか?」
彼女の答えを聞かなくても、表情で明らかだった。これまでも、見逃していただけで、そうだったのだろうか。彼女の性質上、隠し通していたに違いない。身近に、死を背負っていては、正気でいられなかっただろうに。
「もう、お前が恐れるようなことはしない……つもりでいる」
「自信ないの?」
「……」
「そうよね。シュウは、数分後には、全く反対のことを言うような人だったものね」
「そっちがお前の本性なのか?」
「……しらない。だって、シュウみたいに、自分って、これって言えるような教育を受けてきてないんだもの」
仙崎は何も言えなかった。それは、彼女が誉めるような物言いだったからだ。
「そんな顔しないで。怖くなるじゃない」
「ごめん」
「もう少し落ち着いてきたら、ホノカみたいに学校に行ってみるってのは、ありね」
なるほど、彼女が、思い描いているのは、帆風だったかそれなら納得だ。
「……俺みたいになって、失望することになる可能性もあるけどな」
「それは、んー最悪かもね」
そういうと、足の痛みはどこへやら、ふわりとした動作で立ち上がり、トテトテと小走りで向かってくる。
仙崎は、この生活を幸福に思っていた。日を重ねるごとにその思いは、強くなっていっく。しかし、同時にそこに限りがあるという安心感が、この甘えた生活を許しているのではないだろうかという思いが、彼を滅ぼしへと引き寄せた。
実際、家を新しく変えたのだって、アリスの自立などというのは建前で、トイレに行く食事をするために、あのきしむ木の床を歩くたびに、おびえないといけない生活から逃げ出すためだった。限りのある自分の生活を守りたかったのだ
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