13-4
「今日は、もうないの?」
「ああ。明日も外に出るからもう寝ろ」
仙崎は、明日の予定を書きだしていた。
「シュウは寝ないの?」
「……」
「ねえ」
「なんだよ」
「ばか」
「どうしてだよ」
「シュウが寝ないと、私の体が壊れちゃうじゃない。そんなことも分からないの? ばか」
「知ってるか、イルカは脳みその半分を寝かせるんだ。俺たちだって似たようなもんだろ。だからいいんだよ」
「シュウは、イルカじゃないわ。やっぱりばかね」
そういうと、アリスは自身にかかっていたタオルケットを羽織るように包まると、のそのそと、這いずり隣までやってきた。
「どうした?」
アリスは、答えないで転がっていたスケッチブックを開く。そして、それに鉛筆で『ひらがな』を描き始めた。
「今しなくても、いいだろ」仙崎は、呆れながら言った。
「ううん。シュウが生きるためにやるなら、……私も頑張らなきゃいけない」
アリスはいっそう力を込めて描く。
「俺もさ、もう大丈夫、だからさ、無理にそんな姿を見せる必要はもうないんだ」
「……うん。
でもね、これは私のためだから。それに、シュウも私が、一人でできることが増えたほうが良いでしょう?」
何とか、涙を抑えるので精一杯だった。悲しみでも、喜びでもない、言い表せない感情の塊が一気にこみ上げてきた。
「なにしてるの? 早く終わらせて寝るわよ」
彼女は、寝転びながら手を動かし始めた。
あの一日目から、一か月がたった。がらんとした部屋。あるのは、床に置かれた数冊の本くらい。
夏も終わったというのに、いつになったら、揃うのだろうか。自炊のための道具も用意しなければ。彼女のことだ、料理を覚えるのだって時間がかかるだろう。いつになったら……。
──アリスお前だってもう気付いているだろう。俺はこの生きることに安らぎを感じている。たとえ、死ぬまでの余生としても、生きるための準備だとしても。
仙崎は、スケッチブックの上で寝落ちするアリスに触れようとして手を伸ばしたが、あと数ミリのところで力なく手を下ろし、毛布に体を包むと目を閉じた。
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