第4章 とある宣言。

 四章


「私は、今日まで多くの時を、苦しみの中に捧げてきた。自身の土地を持つことも、正しく生きることもできなかった。

 しかし、今日、我々は世界に対し、生きる理由を与えられた。

 (不敵な笑み)

 ご存知の通り、いま世界は危機に瀕している。私はこの世界に訪れた多くの悲しみに、心からのご冥福をお祈りいたします。


 我々は人ではありません。そのせいで、私の家族は、友はこの世界の片隅に肩を寄せ合い、隠れるように生活しています。

しかし、この国の大統領は偉大な決断をした。

 この緊急事態に、対応できる力を持つのは私たちのような存在だと思います。

 (演説者の男は、自身の首に指を立てると横一線に切り裂く)

 ええそうです。どこかの国が求めた、不老不死なのです。私たちは、今まで歴史を傍観することを信念として生きてきました。それは、子へと受け継がれ、骨に刻まれるほどの誓いとされました。

 しかし、この犠牲者の増える世界で私たちは出来ることがあります。幸運なことに私達には、感染者の区別が分かるのです。

 私たちは長い時間何故生まれてきたのか考えてきました。そして結論に至りました。私たちはウイルスと同じです。もしかすると、どこかの国が生み出した生物かもしれません。地球が生み出した自然的なものかもしれません。神が与えた、試練の一部なのかもしれません。

 ええ、そうです。答えなど誰もわからないです。しかし、現在できることがありません。私には、目の前に自分たちの権利や、自由があるのなら、兄弟たちが幸せに生きれる道があるのなら迷わずそれを選びます。

 きっと、私たちを、非難する者もあらわれるでしょう。しかし、私たちはあなたたちに、影響を与える気もないのです。保護してもらうことも、身分以上の富も望みません。

 もう暗闇に潜みたくはないのです。

 我々は、あなた達のために戦います。私たちは、あなたに干渉しません。私たちは、選挙権を望みません。私たちは、あなたたちから仕事を奪いません。

 ですので、どうか、私たちに生きる土地を、お与え下さい。私たちにどうか自由に歌うことをも認めてください。──どうか、どうか、私たちが生きることを許してください。

私は今日が始まりの一日だと思います」

 黒い燕尾服を着た男は。零れ落ちた一筋の涙の筋をふき取ると、深々と頭を下げる。


 カメラのフラッシュが彼を包む。そこには、歓声も拍手もなかった。

 次に軍服を着た、男が登壇し、記者たちの質問に答え始めた。

「彼らの呼称は何というのですか?」

「ええ、我々は『吸血鬼(ヴァンパイア)』と呼んでいます」

「彼らの言う、感染者に対する効果はどれほどなのでしょうか」

「実験的に彼らを運用したところ、一週間で、十個の街を開放いたしました」


 約二時間に及ぶ、質疑応答が終わりその日、世界には、数千人のヴァンパイアを名乗る種族が、名乗りを上げた。

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