3-2
ようやく明かりの灯る麓にまでたどり着く。
「はあ、はあ。だ、大丈夫か?」
仙崎は、汗で、手の感覚が溶け合う先の天使を見ると、彼女も体全身で息をしている。
やっと振り向くことができる。追っては来てないようだ。仙崎達は息を整えながら舗装された道を歩きだした。
それでも仙崎にはどうしても隠し切れない不安があった。今この瞬間も、追いかけられているという見えない追っ手に対してだ。
うすうす気づいていた。──あまりにも静かすぎる。まるでこの街から人が消えたようにあたりは静まり返っていた。車一つ、通らない道路。
その不気味さに、道を変えようとした瞬間、目の前の路地から人影が飛び出してくる。
「うおっ!」
年齢は、四十代ほどの男。スーツ姿に、髪の毛を綺麗に整わせている。それなのに顎には、不揃いな無精ひげが生えており、いまのいままで働いていたのだろうと窺い知ることが出来た。
仙崎は、近づいてくる男の腹を、少しの助走をつけて蹴る。男はきれいに吹っ飛ばされ、地面に受け身も取らず転がってしまう。
しかし、そこからは、怒声や苦痛、悲鳴などは上がることなく、這いつくばったまま体の反応すら返ってこない。
「お前は──ッ」
仙崎は何か言おうとするが、その前に男はゆっくりと立ち上がり、一歩、一歩と歩き出した。
その顔は紅潮し、手と足がバラバラに動き互いに別々の場所に向かうように動き、口を半開きにして近づいてくる。──もう男には意識がなかった。
顔の紅潮は、全身の血が頭に集中するためと言われている。
そう、これは病気なのだ。そして、もう初期症状は始まっていた。
この街が、閉ざされている理由。
仙崎は、彼の歩調に合わせ、距離を取ろうとするが、
「おいっ!」
天使は、その場に張り付いたように動かなかった。
「どうしたんだっ おい! 早く離れろ!」
何度声を掛けても返事すらかえってない。見た目通りの少女だとしたら、動揺でその声が聞こえていないのだろうか。
「ちっ。おい。治安機関! あいつは、お前の目標体だろ。どうにかしろよ──ッ」
仙崎は、虚空に向かって叫んだ。
「それは、私たちに命令しているのか。たかだか、お前がか?」
声がする──と同時に街が一気に照らし出される。
そう錯覚するのも仕方ない。感染者を囲むように、装甲車が取り囲み、無数の光で照らしだす。
『異常な、熱の上昇を探知。第三区において、男を感染者と認める。対感染体特別措置法に基づき、目標の完全な消滅任務を開始する』
仙崎もその声と同時に飛び出し、少女を腕の中に抱えると、横っ飛びに距離を取る。
すぐに射撃が始まる。二発で男の足を吹き飛ばすと、打撲音と共に地面に崩れ落ちる。
そして続けざまに、頭に三発の銃弾がぶち込まれる。
「すごいな」
「いいや。こんなもの意味ない」
近くにいた、隊員がそう呟くと、アサルトライフルを構えなおす。装備から見るに、第二級装備が配備されているようだ。
話を戻そうか。この街に蔓延するウイルス──病はAIDS及び、マラリア、回帰熱などと同様、血液の接触により感染する、血液媒介感染症に分類されていた。よって、当初感染力も強くないと思われていたが、一週間ほどで、爆発的な感染を見せ世界を、震撼させた。
感染者は軒並み、集団の中で症状が起きる。顔が、フグのようにパンパンに膨れ上がり、破裂しあたりに病原体をばらまいたのである。
今も頭を撃ったのは、血抜きをするため、というだけの意味しかない。
そしてこのウイルスの最大の特徴は、感染者の変質にある。
撃たれた男は、大量の出血と共に、立ち上がると、再び進攻を開始する。その姿は、映画などで目にするゾンビと言われるものに酷似していた。
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