第2話

「どうぞ見ていって下さい」


 ベレー帽を被った女性が、明日美に愛想良く笑いかける。二人の年齢はそう変わらないだろう。


「これ、手作りですか、」


「はい。ここにあるものは、全部私の手作りです」


 明日美はカフェオレ色の熊を手に取って、しげしげと眺めた。黒いビーズの目玉が愛らしい。明日美も以前、フェルトでマスコットを作っていたことを思い出した。とりわけ目をつける作業が、たのしかった。目をつけると、途端にただのモノから、ひとつの命へと変化するのだった。


 離れたところで無添加のジャムを買っていた梨花が、「何か良いものでもあったの、」と、明日美の横に来た。


「見て、これ。可愛いでしょう」


 明日美は熊を彼女の鼻先にぶら下げた。


「本当だ、可愛い。でも、手作りかあ……」


 梨花は熊のお腹を指でとんと押した。


「手作りだと、何か駄目だめなの、」


「別に駄目じゃないけど、ちょっと安っぽいじゃない」


 明日美は熊を元の位置に戻した。ベレー帽の女性は子どもの客に気を取られて、明日美たちの会話は聞こえなかったようだった。


 梨花は背伸びをして、


「あ、やっぱりあのベーカリーのブース、行列が出来てる。私、並んでくるね。明日美は?」


 目当ての店を見つけたようだ。明日美はかぶりを振った。


「私はいい」


「じゃあ、後でね」


 駆け足で梨花は行ってしまう。相変わらず自分勝手だなと、梨花は溜息ためいきを吐き、一人で青空市を見て回った。


 陽気が良いからか、ジェラートの店の前にはたくさんの人が集まっている。明日美も喉が乾いていたが、人だかりに加わるのが面倒で、我慢して通り過ぎた。隣りは山野草の店だったが、出店者も客も誰もいなかった。そしてそのまた隣りに、神様を売っている店はあった。


 ”あなたの願い叶えます”


 ”神いっぴき百円なり


 テーブルの前に貼り出されたうたい文句に、明日美の目はきつけられた。筆で書かれた願いの文字が、妙に大きく踊って見える。

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