百円神様

ユメノ

第1話

 幸せ。とはどう云うものなのだろうと、最近つくづく考える。


 同じ判子はんこをくり返し押すような毎日。判子の数がどれだけ溜まっても、何のご褒美も無い。ただ台紙がむなしく薄汚れていくだけ。恋人はいない。友人ならちょっとはいるけれど、この頃あまり遊ばなくなった。みんな自分のことで忙しい。特に向こうが結婚してからは、お互いの生活が違いすぎるからか、連絡を取り合うことも減ってしまった。


 仕事が充実しているならば、それはそれで満足して暮らせるのかもしれないけれど、そんなことは無い。そもそも好きで入った職場ではない。入れたから入っただけで、全くもって愛着はなく、かと云って新天地を望む気概も無い。とにかく無いことばかりだ。


 たのしみにしていることも取り立てて無い。仕事から帰宅すると、食事をしながらテレビを観て、あとは寝るだけ。休みの日はたいてい一日中ねむっている。つまり仕事以外の時はおおかた寝ている。無為な時間が貴重な若さを喰い潰そうとしている自覚は、ある。


 二十代も最後の年だから、今年こそは幸せになろうと決心して、張り切って初詣に出かけた。電車に乗って、毎年ものすごい参拝客で溢れ返る有名な神社へ行った。前後左右を人に揉まれながら、必死になって手を合わせて、願った。今年こそは幸せになりますように。今年こそは、必ず幸せになりますように。


 それから四ヶ月経つけれど、ちっとも幸せのきざしは訪れない。自分はきっと、このままつまらない一生を送るのだと思うと、永遠にぬかるみの中をつめたく歩いているみたい。今朝、鏡を見たら、目元にうっすらとしたが出来ていた。



ーーーーーーーーーー



 友人に誘われて、明日美あすみは青空市に出かけた。休日に誰かと外出するのは久々だった。学生時代からの仲間で、独身なのは彼女と明日美だけだった。どうせ暇なら付き合ってよと云われ、あんただって暇なんでしょとい返して、承知した。こんな風に云い合えるのも、お互い似た者同士だからだと、明日美は内心で苦笑した。


 市は大盛況だった。日曜だけあって親子連れが多く、公園内は青空を覆うように明るい声で満ちていた。地元の農家や洋菓子店、フランクフルトなどの軽食を売る屋台の他にも、手作りのアクセサリーや古着と云った個人の出店もあった。


 暇潰しに来ただけだったが、場のにぎやかさにつられてこちらの気分も自然と上がる。最初の億劫おっくうな感情は、明日美の中からすぐに消え去ってしまった。


「あ、可愛い」


 思わず呟いて、立ち止まった。布のかかった販売用のテーブルの上に、小さな熊や兎のぬいぐるみのついたキーホルダーが展示されている。

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