第14話 小嶌神楽①
「お、おはようございます。朝食を作りにわざわざこちらまで来て頂いたんですか」
「ねね、穂香……美味しそう! 旅館の朝食って感じで、豪華だよねぇ。ありがとうございますぅ」
沙奈恵は、手伝おうとした穂香を制して二人分の朝食を用意してくれた。
「ふふ、気にしないで下さいね。私も村長も
「今夜、ですか?」
穂香は戸惑うようにオウム返しに聞き返した。普通なら、遭難した人たちをなるべく早く本土に帰れるよう、村長が率先して手配してくれそうなものだが、柔らかい口調で、今夜も真秀場村に泊まるようにと、遠回しに提案してきた。
マイペースな由依は、なんの
穂香もそれに釣られるように隣に正座する。
正直に言えば、昨日の疲労を引きずっていて食欲があまり湧かない。それは斜め前に座っていた樹も一緒で、昨日の出来事を、飲み込めない様子でいる。気まずさから由依と目を合わせないようにして、白米を頬張る大地にちらりと、視線を向けた。
「大地の叔父さん、食べずに船に行っちゃったよね。
「まぁ、腹が減ったら戻ってくるだろ。でも叔父さんの無線機、固定型だから座礁した船の中で直せっかなぁ」
「無線? まぁ……ふふ。残念だけど、この辺りの海は霧が濃くて、なかなか無線が繋がらないのよ。私たちは境界線の近くに向かう時は、岬の灯台だけを頼りにしているのです。ですからここ小嶌では、地引き網漁が主流なんですの。そうだわ、貴方たちも若衆と一緒に地引き網をやってみます? 都会じゃ、なかなかできない体験でしょうから」
沙奈恵は上品な手付きと口調で、艷やかな首筋に色香を漂わせている。あいかわらず下心のある視線を、無意識に向けてしまう大地や由依も、まだ事の重大さに気付いていない。
違和感を感じた穂香と陽翔は、同時に顔を見合わせる。穂香は、陽翔が自分と同じような疑問を持ったと考えたはずだ。
この島は明らかにおかしい、そして一刻も早く、美雨を連れて全員この島を抜け出さなければならない、と。けれど、陽翔は穂香ほど危機感はなかった。
昨日の出来事はまるで夢のような素晴らしい体験で、女好きの陽翔にとっては楽園のように思える。
真秀場村に住む女の子たちは、古臭い和服姿であることを除けば、どの子も肉感的で可愛らしい。
このまま、就職や論文など面倒なことをすべて捨てて、小嶌に入り浸ってもいいと思うくらい、居心地が良かった。
もちろん、陽翔は高校の時から気になっていた、憧れの穂香とも関係を持てて満足している。
穂香とこのまま付き合ってもいいが、他の男と仲良くしている様子を見ると、気持ちが冷めてしまい、都合のよい関係で良いかと思ってしまった。
(穂香ちゃんって意外と、男好きなのかな。美雨の友達にしては可愛いけど。まぁ、セフレで、保留ありか)
ふと、忘れていた美雨のことを思うとまたイライラとした気持ちが蘇ってきた。
初対面のあの二人には何もない。介抱のために美雨を連れて行っただけ。なのにまるで、大事にしていた玩具を横から奪い取られた子供のように、陽翔は腹立たしく、嫌な気分になった。
大地が、美雨と付き合いたいと言った時には特別なんとも思わなかったのだが、悪樓だけは違う。
「沙奈恵さん、美雨もその小嶌神楽に来ますか? あいつも俺たちと一緒にここに居たいでしょうし。地引き網漁だって―――」
「――――美雨様は、悪樓様がお許しになれば共に過ごせるでしょう」
沙奈恵は急にスッと冷たい表情の笑顔を浮かべ、陽翔を嗜めるかのように言った。
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