第12話
その男の前を歩かされながら、案内に沿って三十分ほど歩くと、道らしいものが出てきた。
更にそこを歩いて行くと、建ち並ぶ家々が見えてきた。
人が何人もいる。
私を連れていく男はそれぞれに声をかけ、時に私の事を話しながら私を連れて行った。
目の前はもう完全に時代劇のセットのような光景だ。
タイムスリップとか? まさかな。苦笑した。
ただテレビの時代劇とは違ってもっと小さな田舎の集落といった感じだ。
お城らしきものが見えた。
小さな堀があり橋が掛けてあった。建物は真っ白で三階建てだ。
門番がいて、私を連れてきた男が門番と何か話した。
暫く待たされた後、門が開くと、鎧を着け完全武装したような男が出てきて私を引き取った。
そこまで私を連れてきた男はそこまでで、私を引き渡すと城から離れていった。
門の中、建物の前は広い庭のようになっていて、そこでは、兜こそ着けていないが体には鎧を着け刀は勿論、それ以外に、槍やこん棒のような武器を持った人間が大勢集まっている。
なんとも物々しい雰囲気だ。
大勢の人間の中を通り抜け、行った先には何人かが集まっていた。
十人くらいが長テーブルの両脇に並ぶような形で椅子に腰かけている。
私はその端の椅子に座らされた。
皆、珍しいものを見るような目でこちらを見る。
ここにお殿様が出てくるのかな。
もう私は、自分の中の疑問が沸点を超えていて、どうにでもなれという感じさえしていた。
タイムスリップだろうが何だろうがもういい。
やがて、一人の鎧武者が現れた。
皆頭を下げた。
この人がお殿様か。
「ほほう」
一言言って私をしげしげと見る。
「お前はどこから来たのだ?」
「それが…分からないんです。なんと説明したらいいのか」
「それは何という着物だ?」
「これは…洋服で、その、今は…今って、その私の所では、こういうものを着ているんです」
こういう時、いったいどう説明すればいいというんだ。
「武器は?」
私を連れてきた男に聞く。
「見つけた時から、既に何も持っていなかったようです」
「うん」
お殿様は、じっと私を見た。
「お前は何か珍しいものを持っているか?」
「は?」
鞄を持っていないことに、その時初めて気が付いた。
鞄があれば子供に見せるような面白いモノもいくつか入っていたのに。
朝日を見るまでは持っていた筈だったが、仕方ない。
私は上着やズボンのポケットを探った。
ズボンのポケットにライターがあった。百円ライターだ。
それを取り出した。
「それはなんだ?」
「ライターと言って、火をつけられます」
「ん?」
私は火をつけて見せた。
おおっと、何人か声を上げた。
「こ、これ、差し上げます」
私は言った。こういうときは、何か貢ぎ物を出すものだろう?
「それはどこで手に入れたのだ?」
「え…、その、あまり覚えてないんですが、こういうものを考えて、その、新しく作ろうとしている人からたまたまもらったような気がします」
苦し紛れに言ったが、似たようなセリフをどこかで聞いたような気がした。
「うむ。そうか」
お殿様はまた暫くじっと私を見つめた。
それから言った。
「お前を客人として迎えよう。ただ客人、今我々はこの国の存亡を掛けた戦(いくさ)を迎えようとしている。だからここは安全とは言えん。もしその身に危険が迫ったらすぐにどこかへ逃げるのだ。いいな」
「は、はい」
何だって? 戦? 戦争が始まるところなのか? そんな状況なのか?
「客人を部屋へ案内せよ」
「はっ」
私はライターを近くの武将? に渡し案内されるまま板の間の部屋へ行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます