第3話

翌日、朝起きると着信履歴があった。

山田からである。

掛けなおす。

「おはよう。例の件考えてくれたか? 少しは」

山田は直ぐ本題に入る奴だ。

「ああ、考えてるよ。迷っててさ」

「そうか、まぁ、そうかも知れんな」

「そういう事を今更する気なんかなかったし、俺はもうそういうんじゃないと思ってたからさ」

「そんなこと言うなよ。お前ならできるっていうか、お前しかできないと思って話してんだぜ。これ、言っていいかどうか分からんが、もう過去の亡霊から解放されてもいいんじゃないのか?」

「うん、それはそう思う。そうは思うが、今は今でそこそこ安定して暮らしてるってこともあってな。ここに来るまで結構大変な思いもしたんだぞ、知らないだろうけど」

「うん、そうだろうな。俺もだいたいの想像は付く。でも、だから今、お前にこうして連絡がついて話を持ち掛けてる。だいたいこの話は、二人でいつかやろうって昔言ってた事じゃないか。あれから何年も待ってその時期がついに来たという事だぞ」

「そうだよな、それはそうだ」

「うーん、煮え切らないやつだな、全く。おっとキャッチ入った。ま、もっと考えてくれ。また電話するわ」

いつも忙しいやつだ。

山田は過去の私を知っている。

少しの間病んで行方不明になっていた私を、最近見つけ連絡をしてきた。

「さて、どうするかな」

私は洗面台の鏡に写る自分に向かってつぶやいた。

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