3.推理

「犯人はあなただ!」


 と探偵はよくミステリーで言う…いや最近は言わないか、いやまあ、便宜上、言っていることにする。僕は今回の事件の犯人はよくわからなかった。当たり前だ。僕はただのミステリー好きの男子大学生。推理小説をちょっと読んだり、書いたりしてはいるものの、所詮、素人に毛が生えた程度。

 そんな僕が犯人なんてわかるわけがないのだ。

 なので、せっかく容疑者を連れてきたトメさんには悪いが、僕はトリックだけを推理することにした。トリック以外に関してはというと、後は警察に任せることにした。


「皆さん、わざわざ僕のために、お集まりいただきありがとうございます」

 僕は、雪上せつじょうを歩きながら、そう言った。

 容疑者4人とトメさんは皆、僕の方を見て啞然としている様子だった。

 僕が先が血だらけのシャベルを片手に持っていたからだ。

 はたから見たら、僕が殺人犯だ。

 僕は無意識に引き抜いたシャベルを持ってきてしまっていたのだ。昨日までシャベルを使って雪掻きしており、いつも置き忘れないように意識付けていたので、その癖付けが悪い方向にはたらいてしまったのだろう。

 

「もう~驚かせないでください、屯さん」

 邦彦君が少し笑みを浮かべてそう言った。


 僕はシャベルを雪の無い地面に音を立てないようにそっと倒し、皆をざっと見渡し、こう呟いた。

「今、現場を見てきたばかりなので、ちょっと家の中で考えさせてください」

 …推理小説の探偵ならここで、トリックをズバリ当てるのだろうが、僕はただの学生だ。考えるには時間がかかる。

 皆一同、八の字眉を浮かべて、首を傾げながら各自の自宅に戻った。


 走って我が家に戻る際、玄関前のプロテクター付きのホースを避けずに飛び越えてしまい、足元を濡らしてしまった。

 ただでさえ寒いのに、冷たい水で濡れたことでさらに寒くなってしまった…

 家のドアを開け、石油ストーブを付け、温まる。

 頭が回らない。どうしよう。

 ちょっと気休めにSNSでもみるか…そんな感じでうろたえていると…

 昔、テレビの再放送で逆立ちをして物事の解決方法を発見するガキ大将が主役の大昔のドラマがやっていたことを、僕はつと思い出した。

 これだ!

 思い立ったが吉日。僕は家の壁に向かって即座に、逆立ちをして考えた。

 逆立ちをすることで、確かに頭の中の血の巡りがよくなり始めた気がする。

 …逡巡。逡巡。逡巡。

 大きな木の近くにあった凶器のシャベル、やけに柔らかい雪…

 そして、融雪のためのホース…

 そうか…そういうことだったのか!

 僕にある考えが浮かんだ。

 僕はすぐさま町内を駆け回り、容疑者一同とトメさんを事件現場前に来るよう呼びかけた。

 町内を駆けまわった後に、僕の推理と合致するも偶然見つけたので拾った。


皆が事件現場に集まった後、僕はこう切り出した。 

「単純なトリックでした。犯人は、ホースを用いたトリックを使ったんですよ」

「ホース?」

 夏美さんが訝しげな目を浮かべながら僕を見て言った。

「そう、ホース」

 そう言いながら、僕は自宅に会ったシャベルの取っ手部分の三角の穴にホースを通した。僕が取っ手に通したのは、玄関前にあった50mの長さのホースなので、ホースを通し、その両端を結ぶことで、最長25m程までシャベルを飛ばす武器が完成する。ホースは耐久性に優れており、新しければ、破れない。そして、雪の多く降る地域では朝から雪解け水を出すために、ホースは必需品だ。水が常に流れているホースがあることで雪が常に溶けている状態となり、僕らは町の中を先程みたいに徒歩で走り回れるのだ。なので、ホースはどの家でも手に入るのである。

「犯人は、こうやってシャベルの取っ手部分にホースを通して両端を結んだんです。その後、あの大きな木に登って、カウボーイみたいにホースに回転をかけてポイっと、幾田さんの後頭部に向けてシャベルを放り投げてぶつけたんですよ、おそらく。そして、ぶつけた後は、ホースを引っ張ってシャベルを回収すれば、証拠は残らない」

「あれ?おかしくないですか?うちの元夫の近くにその凶器はあったんでしょ」

 と郁恵さんは頭に?マークを浮かべたような顔で言った。

「僕も最初はこの説に自分であなたと同じようにツッコミを入れたんですけど、色々考えて納得しました。まず、ホースでシャベルを木の上から投げるのは簡単なんですが、戻すのは大変なのです、重力の関係で」

 暫し場に沈黙が走る。

「まあ、確かに重いやつぶら下げてだったらそうっすね」

 皆が口をあんぐりあけて無言の中、僕のことを励ますつもりなのか、ちらりと僕を見ながら邦彦君が頷きながらそう言った。

「それで、どうなったかというと、何度も木の上までシャベルを引き上げようとして、ホースを引っ張って、雪の上をシャベルでグサグサグサグサつついちゃったんですよ。するとどうなると思いますか?」

「ああ、かき氷みたいになるってこと?」

 と邦彦君の彼女の…名前を忘れたがそう言った。

「遺体の周辺の雪が柔らかかったのはそういうことだったんです。それを繰り返して、どうにか、犯人はシャベルを木の近くまで持ってきました。それは良かったんですが、ここであることが起きました。ホースが千切れてしまったんです。見てください。これを」

 僕は、足元の裏に隠しておいた、2本のホースを皆に見せた。まるで手品師だ。僕の推理はこのホースを見つけたことで確信に変わったのである。

 2本のホースは不自然にちぎれた後があり。その千切れた後をくっつけてみると完璧に合わさった。長さは思った以上に短く10mくらいだろうか。しかし、木から遺体の距離は1mと50cm離れているだけであり、木の高さを考慮しても、僕の推理通りホースを取手の穴に通すことでシャベルは十分届くだろう。

「なるほど、頭良いっすね、足跡が無かった謎は解けたけど、それで…犯人は誰なんすか?」

 邦彦君が神妙な面持ちでそう聞いてきた。

「うーん、それがわからなくて困ってて…後は警察に任せようかと」

 僕は思ったことを素直に言ってしまった。

 迂闊うかつ!これは失言!!

 トメさんは眉間にしわを寄せて、僕のもとに近づいてきた。

「ちょっとどういうことなんや!ワシはあんたが犯人を見つけてくれると思うてたから、さっき容疑者を連れてきたんやで!年寄りやのにこき使って!」

 それはあんたが勝手にやったことだろ!と頭では思ったが声に出さず、僕は平謝りをした。

 結局、僕は役立たずな人間なのだろうか…

 僕が考え事をして、無言で俯き、皆が踵を返し始めた頃、急に僕のスマホが鳴った。

「もしもし、屯君、お母さんでーす。今どこ?まあ、家か」

「どうしたん?家にはいないけど町内にはおるよ」

「そうなんや~今さあ、町へ戻る山道で雪崩なだれが起こって危険やから徒歩でも暫くの間帰れんくなってもうたんや。どないしよ。おせちの具材とか夕飯の弁当とかいっぱいうたのに~」

 その時、僕の頭に閃きの電流が走った。

「あっ、ちょっと、用事思い出したから後からかけ直すわ~」

 そう言って母からの電話を切る。

 

 そうか…つまりそういうことだったのか…

 僕はこの事件の犯人がわかった。

 この事件は複雑にみえて至極単純な事件だったのだ。


「皆さん!!待ってください事件の真相がわかりました!!」

 僕は大声で容疑者一同とトメさんを呼び止めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る