第7話 進路

「先輩は将来なりたいものとかありますか?」

 鞄の中の進路希望調査の紙を思い浮かべながら訊ねる。

 こう見えて(?)このひとも受験生なわけだし、何かしら有意義な答えがあるだろうと思ったのだが、


「んー、そうだな……。年下の男の子を『少年』って呼ぶタイプのミステリアスなお姉さんかな」

 なんか予想外のやつが来た……。

 というか、呼ばれる方じゃなくて呼ぶ方に憧れてるひとは初めて見た。


「わりともうそんな感じの雰囲気ありますよ」

「ほんと!?」

 嬉しそうである。

「よし、ちょっとやってみようよ。ふーちゃん、少年役ね」

 なんか始まった……。


「やぁ、少年。どうしたんだい? こんなところで」


「あなたこそ、平日昼間の公園でストロング系のチューハイを飲んでるとか、どうしたんですか―――というか、どうかしてるんですか?」


「え……と……」


「ちょっとやめてください。酒と煙草で臭いし、ニートが感染ると困るんで。マジで」


「ストップストップ! 変な設定付け足さないでよ! 年上のお姉さんに話しかけられて多少照れたりする場面でしょ?」


「いやー、現実的に考えてこんなもんかと」


「悲観的過ぎるよ……」


 うなだれる先輩を尻目に、私は本を開いた。


 このひとと進路の話をしようと思ったのが間違いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る