第6話 差異

「ねぇ、あたし思いついたんだけどさ」

 いつものように先輩が唐突に話しかけてくる。


「なんにですか?」

 本から顔を上げて、私は聞き返した。


「ホラーとミステリーの違いについて。ふーちゃんはどう思う?」


「んー、例えば、怪物や幽霊が出るかどうか……とかですか?」


「怪物やなんかが出るミステリーもあるでしょ。特殊設定モノってやつ」


「最近人気ですよね。じゃあ、何ですかね……。『謎が論理的に解かれるかどうか』ってのはどうです?」


「それもアリかも」

 あっさりと同意された。


「ってことは、先輩が思いついたのは別の要素ってことですよね?」


「うん。あたしが思いついたホラーとミステリーの違い―――それは、を読者が想定しているかどうかって部分なんだ」


「残念ながら、主人公が幽霊って設定のミステリーは読んだことがありますけど……」


「それはほぼ最初から死んでるし、キャラとしては生きてるようなもんでしょ。あたしが言ってるのは、物語の途中や最後で死ぬかどうかって話」


「確かに、謎が解かれる前に主人公に死なれたら困りますねぇ……」


「でしょ? よし、話してスッキリしたから続き続き……」

 先輩の視線が、手元の本に戻る。


 ホラーやミステリーなんかのジャンル分けについて、ちょっと話したいことがあったのだけれど、真剣に文章を追うその顔を見て、私は口をつぐんだ。

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