第4話 理由

「と言うかですね、なんで煙草なんて吸うんですか? ダメだって分かってますよね?」


「んー、そうだな―――退廃的な気分だからかな。文芸部風に言うとデカダンス?」


「荒んでるってことですか? お疲れ様ですね」

 

 私は、先輩の金色の頭を撫でる。頭髪自由の我が校ではあるが、こんなに派手に染めているひとも珍しい。自分でやっているのだろうか。


「いや、やっぱり少し違うかな……」

 頭を撫でられながら、先輩が続ける。


「なんて言ったら良いか……、『自分が荒んでいることを、自分自身で確認するため』というか、『こんなことをしてしまう程の気分であることの再確認』というか」


「それが煙草と繋がりますかね? それを他人に見える形にしてしまったら、なんだか誰かにかまって欲しいだけみたいに感じますけど」


「案外、そうかも。かまってよ、ふーちゃん」


「かまってますよ。現在進行系です」


「確かに。そうだ、ふーちゃん、逆に聞くけど、煙草の何が嫌い? 誰かに怒られるとかじゃなくてさ、ふーちゃんの理由を教えてよ」


「そうですね……やっぱり臭いですかね」


「そっかー、案外悪くないんだけどな。……キスしてみる? いっそ」


「―――は?」


「大人の味がするかもよ?」


「ヤですよ! なんでファーストキスが煙草の味じゃなきゃいけないんですか!」


「へぇ、したことないんだ。じゃ、初めては何味がいいの?」


「何味って……そういうものじゃないでしょう!?」


「いいからさ、何味がいいの? おーしーえーてーよー!」

 なんなんだ、このひと。


「ええっと、レモンとか……?」


「うわー、定番じゃん、超無難じゃん」


「いいじゃないですか! 別に! それに、好きだからって『味噌煮込みうどん味がいい』とか言ったらおかしいでしょうが?」


「あ、味噌煮込み、あたしも好きだなー」


 ああもう!



 

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