第14話 パートナー

 フシミ先生曰く、僕が所属するクラスはパートナーを結んでいない生徒が多い事らしく、好きなように選べばよいと言われた。

 ドールである証は、制服の紋章の違いで判るらしくドルマはスペードの紋章、ドールはハートの紋章をつけているとの事だった。


 僕はいったん紋章の確認をするために教室へと戻ると、確かに室内ではそれぞれの役職を示す紋章を付けている事に気づいた。そして、よく見るとドルマとドールといった組み合わせで二人組になっている人たちが多く、もうすでにパートナー関係を結んでいるように見えた。


 そんな中、僕はとりあえず自分の席に着いて一息ついていると、ちょうど隣にいるエルさんが話しかけてきた。


「コマリ君」

「え、あ、なんですか?」


「学校には慣れた?」

「いやぁ、二日目なので」


 エルさんを見ると、彼女はハートの紋章を身に着けていた。どうやら彼女はドールらしい。


「エルさんはドールなんですね」

「うん、そうだよ、コマリ君はドルマだよね」


「はい」

「パートナーはもう見つけたの?」


「実は、先生からも見つけるように言われていて、どうしようか悩んでいたところです」

「そうなんだ」


 そうして、エルさんと話し込んでいると、教室内にいるクラスメートたちがゾロゾロとどこかへ行く様子が見られた。

 いったいどこへ行くのだろうと思ってみていると、エルさんが再び話しかけてきた。


「あの子たちはみんな訓練に行くんだよ」

「訓練、というとどんな訓練ですか?」


「基本的には戦闘訓練、そしてそれに伴うコミュニケーションかな」

「へぇ、なんだか本格的なんですね」


「・・・・・・ねぇ、コマリ君」

「はい、何ですか?」

「コマリ君って、どこの出身?」


 ごくごく単純な疑問に僕は答えることができなかった。なぜなら、僕はこの世界で生まれた人間でもなければ昨日今日来たばかりの異世界人だからだ。


「えっと、そのどうしてそんなことを聞くんですか?」

「なんだか普通の人とは違う感じがするから、それに私みたいなのとも普通に話してくれるし」


「ぼ、僕は普通の人ですよ、それにエルさんと話すことが何かおかしいのですか?」

「おかしいよ、普通、私みたいな出来損ないとは話さないんだよ」


「え、出来損ないって、そんな言い方よくないですよ」

「あはは、優しいんだねコマリ君は、でも、私がこのクラスにいて、しかも一人でいるっていうことは出来損ないを証明してる事になるんだよ」


 言っている意味が理解できない、だけど、一つだけわかるのは目の前のエルさんという人がどこか悲しい気持ちであふれているように見えるということだ。

 彼女が「ドール」と呼ばれる作られた存在であるということを忘れてしまうほどにその様子は悲壮感にあふれていた。


「言っている意味が分かりません、いったいどのあたりが出来損ないなんですか」

「だから、私はパートナーもいなけりゃろくな成績も残せないポンコツドールだって事だよ、何度も言わせないで」


「じゃあ、僕とパートナーを組んでくれませんか?」

「えっ?」


「ちょうど僕もパートナーの居ないドルマです、でも、エルさんのためなら何でも言うことを聞く従順なドルマになります、どうですか?」

「ちょ、ちょっとどうしてそうなるの?」


「だめですか?」

「いや、駄目じゃないけどさ」


「何か、問題でもありますか?」

「いや、ないけど、やっぱり変だよコマリ君」


「何が変なんですか?」

「普通、ドールがドルマの言うことを聞くんだよ、ドルマが何でも言うこと聞くなんておかしいよ」


「おかしくありません、ドルマはドールの力を引き出すと聞きました、だから僕にできる事なら何でもしたいだけです」

「・・・・・・」


 エルさんはどこか困った様子を見せたかと思うと、顎に手を当てながら悩みはじめ、幾度か僕の事をチラチラとみてきたかと思うと、あきらめたかのようにため息を吐いた。


「はぁ、きっと後悔するよ」

「じゃあ、その時は僕を励ましてください、エルさん」


「うぅ・・・・・・どれだけポジティブなのさコマリ君」

「それは、もしかすると母さん譲りかもしれません、それで、どうでしょうかエルさん」


「わかったわかった、でも、本当にいいの?」

「勿論ですっ」


 なんだか簡単にミッションをクリアすることができた僕は嬉しい気持ちと一緒に、エルさんとパートナーになれた事のワクワクで一杯になっていた。


「ちなみにパートナーになったらまず何をすればいいんですか?」

「待ってまって、パートナーになるって言っても、まずは互いの事を知らなくちゃいけないんだよ」


「そういえば、コミュニケーションは大切だと聞きました」

「うん」


「ではエルさん、まずご趣味は?」

「へぇっ?」


「ご趣味は」

「趣味はあやとりとか、編み物とか、縄跳びとか?」


「わぁ、実に女の子らしい趣味ですね」

「コマリ君の趣味は?」


「僕ですか、僕の趣味は植物鑑賞です」

「え?」


「植物に詳しくはありません、ただ見て愛でるだけです」

「そ、そうなんだ」


 コミュニケーションをとろうと努力してみたが、なんだか空気が悪くなったように感じた。そんな空気を払拭すべく、僕はちょっとした提案を持ち掛けた。


「そ、そうだ、ここでは戦闘訓練っていうのもあるんですよね」

「うん、あるよ」


「よかったら、エルさんの戦闘訓練を見せてくれませんか?」

「・・・・・・え、見たいの?」


「はい、ぜひとも見てみたいです」

「じゃあ、私達も訓練場に行く?」

「はいっ」


 そうして、僕たちは教室を飛び出して訓練場へと向かうことになった。しかし、訓練場は多くのドルマとドールで一杯であり、みな真剣な様子で訓練に励んでいた。

 

「うわぁ、皆さんすごい熱心ですねぇ」

「・・・・・・あぁそっか、近々交流戦もあったんだっけ」


 エルさんはため息混じりにそう言った。


「交流戦って何ですか?」

「このスクールに存在する五つのクラスが交流という名目で格付けを行うの」


「それは、どんなことをするんですか?」

「簡単、私たちドールの役割はシャドーを倒すことだから、単純に力比べするの」


「そんな行事があるんですね、なんだか面白そうです」

「行事っていうか、格付けだから面白いものでもなんでもないよ」


「そうなんですか、じゃあ格付けというのは一体なんですか?」

「ドルマであることは勿論ドールとしての力を見極める必要があるの、そして、私は万年使えないポンコツドールって所かな」


 苦笑いするエルさん、そんな彼女に何か言葉をかけようと思っていると、彼女は訓練場を後にしようとしていた。


「それよりも、ここで私たちのできることはないかな、帰ろっかコマリ君」

「え、でもエルさんの訓練はどうするんですか?」


「ここはいっぱいだから別の場所に行こ」

「そうですか」


 そうして、再びエルさんの後についていこうと思っていると、突如として訓練場内に怒声が響き渡った。

 

「なんでこんなこともできないんだよっ」


 不満をぶつけるような声。その声に僕は思わず立ち止まり、声がする方へと目を向けた。すると、そこにはイライラとした様子の男子生徒と、床でうずくまる女子生徒の姿があった。

 様子からして訓練の最中であるようにも見えたが、男子生徒が女子生徒に対して追い打ちをかけるかのように次から次へと暴言を吐き続けていた。


 あまりにも非道な言動に、思わず彼らの元へと向かおうとしていると、ふと、腕をつかまれた。つかんできたのはエルさんであり、彼女は僕の目をじっと見つめながら首を横に振っていた。


「近づいちゃダメ」

「どうしてですか、あれは言いすぎだと思います」


「あの二人はもうパートナー関係にあるドルマとドールなの、安易な介入はトラブルにつながるだけ」

「でも」


「でもじゃない、私たちにできることはないよ」

「あんなのがドールとドルマのパートナーだっていうんですか?」


「私はそう思わないけど、あれは珍しい光景じゃない」

「・・・・・・え?」


 エルさんは目をそらし、苦い顔をしながらそういった。どうやら、子の異世界においても僕が知っているスクールライフとよく似たことが起きていることに落胆した。


 そして、そんな現実を何とか変えたい僕は、やはり彼らのもとへと向かい、仲裁をしようと思っていると、今まさに、男子生徒が女子生徒に向かって暴力を振るおうとしている瞬間だった。


 あってはならない状況、見ていられない状況、しかし今から仲裁に向かっても間に合わない状況の中、僕はただ目の前でおびえる女子生徒に向かって叫ぶしかなかった。


「避けてっ!!」


 心からの言葉を口にすると、目の前の女子生徒は男子生徒の暴力から逃れることができた。しかし、男子生徒はこの状況に対して混乱している様子を見せ始めた。


 そして、周囲を見渡しながら何かを探し始める様子を見せ始めた。すると、そんな中で僕は再びエルさんに腕をつかまれた。

 そして、そのまま僕はエルさんに手を引かれるままに訓練室を後にすることになった。

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