第11話 お買い物
「じゃあ、大切な家族のために生活必需品を買いに行こうか」
「は、はい、お世話になります」
「うむ」
そうして、昨日会ったばかりの僕を家族といってくれる優しいママルさんに感謝しつつ、せっかくだから買い物中は荷物持ちに徹しようと思った。
だけど、買い物を重ねるごとに僕の許容量を超える荷物の多さに、最後にはすべての荷物はママルさんが持つことになっていた。
ママルさんはとても力持ちのようで、たくさんの荷物を軽々と持ち運んでおり、その様子はとても格好よく見えた。
なんだか、ここにきてから情けないことばかりしていることに僕は思わず自己嫌悪に陥った。
そして、それからはあらかたの買い物が終わり、休憩がてらに近くにあった広場でママルさんにアイスクリームを買ってもらって休憩する事になった。
これもまた、なんだかむず痒い状況だったけど、とてもおいしそうなアイスクリームを前に僕は食欲にあらがうことができなかった。
「コマリ君は、この食べ物も知っているのかい?」
「えっと、アイスクリームです」
「そのとーりー、本当に君は別の世界から来たのか疑いたくなるものだ」
「ほ、本当に違う世界から来たんです。僕の居た世界ととても良く似ていますけど、僕の居た世界にはシャドーとかいう変なものはいませんでしたし・・・・・・」
まさか、スパイか何かと疑われていると思った僕は、すぐさま弁明して見せると、ママルさんは笑顔で僕を見つめていた。その様子は、まるで僕をからかっているかの様な笑顔だった。
「ふふふ、分かっているさコマリ君、少しからかってみただけだ」
「う、うぅ、そうですか」
「そうさ、なんたって君はとても素晴らしい男の子だからね」
「僕が、素晴らしい?」
「えぇ、そしてそんな素晴らしい君にちょっとした提案をしようと思っているんだけど、聞いてくれるかな」
「はい、なんでもいってください」
「実はコマリ君にはスクールに通ってもらおうと思っているんだ」
「スクールっていうと、学校のことですか?」
「えぇ、ドールでは君のような子どもは教育機関に属するものなんだ」
「義務教育というものですか」
「うーん、もう少し特別な所かな、とにかくそのスクールではドルマになるための訓練が行われている」
「ドルマの訓練」
まるで兵隊か何かにでもなるような表現に、少しだけ不安になった。しかし、ママルさんは終始笑顔だった。
「一般教養からドルマになるための授業まで、ここドールでは次世代のドルマ育成にかなり力を入れていてね、それもこれもすべては世界のため我が国ドールの未来のためといったところね」
「・・・・・・あのぉ」
「ん、なんだい?」
「その、ドルマっていうのは何ですか?」
「その疑問はスクールに通うことですべて明らかになる、だから、スクールに通ってみないかい?」
まるで僕の好奇心をあおるかのような話に、僕はすっかり魅了されていた。未知なる世界、情報を前に僕の心は心地の良いリズムで跳ね上がっているように思えた。
「大丈夫、コマリ君が帰れるようになるまでの暇つぶしだと思ってくれればいい、どうかな?」
「しかし、学校に通うとなったらそれなりに費用が掛かるというか、ママルさんに迷惑がかかることになるんじゃないですか?」
「その点については心配しなくてもいい」
「でも」
「スクールは楽しい所だ、君と同じくらいの年の子たちがたくさんいる。ここでの孤独感も少しは和らぐと思うんだ」
僕が知っている学校というものは、ママルさんが言うように楽しいところではない。まぁ、それはつまり僕に友達がいないからという事だけなのかもしれないけど。
「ちなみに、今日の買い物はすべてコマリ君がスクールに通うためにそろえたものばかりだからなけれど・・・・・・」
「え、えぇっ、そうだったんですか?」
まるでスクールに通わせることが前提の様な展開にびっくりしながらも、せっかくの提案を断る理由は特に見当たらなかった。
「さぁ、どうするコマリ君?」
「ママルさんが、そこまで言うのでしたら、それにせっかく色々なものを買っていただいたので」
「よし決まり、期待してるよコマリ君」
「そんな、期待されても困ります」
「期待せざるを得ないよ、君には素質がある」
「素質?」
「そう、メルと一緒にシャドーを相手にしたそうじゃないか」
「あれは、メルさんがとてもすごい力で追い払ってくれたんです」
「まぁ、メルなら一人でも大丈夫だ、だが、メルは君の声のおかげだとも言っていた」
「僕の声ですか?」
「そうだ、君の声の力はこの世界においてあらゆる問題を解決し得る特別な才能だ」
「そんな事・・・・・・僕はただの小学生ですよ」
ママルさんは、ほとんど初めて会ったばかりの僕に期待のまなざしと言葉を送ってきた。それはどこかうれしい気持ちもあったけど、それ以上に会ったばかりの僕にそんな言葉をかけてくるママルさんが不思議で仕方なかった。
「まぁ、何はともあれ君なら大丈夫だよ、うん、そろそろ帰ろうかな」
「は、はい」
こうして、僕は異世界「ドール」で「ドルマ」になるためのスクールに通う事となった。
流れに身を任せ、考える暇もない位に物事が進んでいくが、それくらいの方がどこか心が安心できるような気がした。
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