第10話 家族

 なんだか朝から絶好調なメルさん、そして、いつの間にか顔を引っ込めているミルフィさんを確認した後に家の中へと戻ると、さっきまでは気づかなかった、香ばしいパンの匂いが鼻をくすぐってきた。


 その匂いにつられるようにリビングへと向かうと、そこではママルさんとモカさん、そしてミルフィさんが食卓に座っていた。


「おやおや、今日はお寝坊さん二人がそろって登場か、今日は久しぶりにいい朝食を取れそうだ」

「えへへ、コマリ君に起こしてもらっちゃった」


 ママルさんの言葉にメルさんは嬉しそうに返答した。


「起こしに行った方が起こされるとは、メル、もう少ししっかりしなさい」

「ごめんなさいママル、てへへ」


「さて、今日は久しぶりの5人姉妹そろっての食事だね、これもすべてコマリ君のおかげだ、君を迎え入れて本当によかったと思っているよ、ありがとう」

「え、僕のおかげですか?」

「あぁ、もう一人の寝坊助ムーが降りてきてるだろう?」


 そうしてママルさんが指さした先、僕の背後に寝癖をたくさんつけたムーさんの姿があった。


「あ、おはようございますムーさん」

「ん、おはよう・・・・・・ねぇ」


 ムーさんはどこか不機嫌な様子で僕を見つめてきていた。


「はい、なんですか?」

「これからはもう少し静かにして」


「あ、えっと、うるさかったですか?」

「すごくうるさかった、朝は静かなものだからこれからはあまり騒がしくしないでほしい」

「わ、わかりました、気を付けます」


 なんだか機嫌の悪いムーさんと、僕の事をじっと見つめながらご飯を食い散らかすミルフィさんの異変に怯えながら食卓に着くと、机の上にはパンを主体とした理想的でおいしい朝食が用意されていた。


 こんな朝食はいつぶりだろうと、昨日の夕食時にも感じたことを思いながら朝食を頂いた。朝食が終わると、ミルフィさんやムーさんやメルさんは制服のようなものに着替えていそいそと屋敷を出て行ってしまった。どうやら彼女たちは学校に通っているのかもしれない。


 そして、残されたのはママルさんとモカさんと僕。モカさんは相変わらず僕の事をじっと見ていたり、ママルさんにしがみついていたりしていた。

 姉妹の中では一番不思議な雰囲気をもつ子だなと思っていると、ママルさんが突然口を開いた。


「そうだコマリ君、今日は少し私に付き合ってくれないかな」

「付き合う、ですか?」


「えぇ、ちょっと君を連れて行きたいところがあるの、いいかい?」

「は、はい、それはもちろん」

「そう、それは良かった」


 すると、ママルさんはモカさんを連れて二階へと上がっていってしまった。そうして、なんだかよくわからないままリビングで待機していると、ママルさんはモカさんと一緒にやってきた。


「やぁ、お待たせコマリ君、じゃあ行こうか」


 二人は先ほどとは違う外出用とも思える服装をまとっていた。どうやらどこかへ出かける様子らしく、そんな二人の後についていくことになった僕は、見知らぬ街へと繰り出した。


 今度はママルさんと一緒だから少し安心しているけど、どことなく不思議な街並みに、ワクワクした。そんな事を思っているとママルさんが話しかけてきた。


「コマリ君」

「はい、なんですかママルさん」


「コマリ君は今いくつ?」

「僕は今11歳です」


「それはちょうどいい」

「ちょうどいい?」


「メルと同い年だ」

「そうだったんですか」


「あぁ、ちなみにムーは16歳で、ミルフィは17歳」

「そうなんですか」


「ちなみに私はいくつに見える?」

「え、あの」


「ふふ、ちょっとした余興だと思って答えてくれればいいんだぞ、コマリ君」

「え、えっと、女性の年齢についてはとやかく言うなと母親から言われてまして」


 思わずそんな言葉をつぶやくと、ママルさんは驚いた顔をして見せた後、急に笑顔になった。


「ぷっ、あっははは、そうなのか、君のお母さんはとても素晴らしい人だ」

「そ、そうですか?」


「えぇ、年齢についてとやかく言うものじゃない、年齢不詳ぐらいの方がミステリアスでいいものだ」

「は、はい」


「ふふふ、それにしても君のいた世界とこっちの世界では常識に大差ないようだね」

「はい、僕はここにきて一日もたってないですけど、僕がいた世界とあまり変わり無い様に思えます」


「そうなるといわゆるパラレルワールドとか、並行世界なんて言われる事象かもしれない」

「母さんの倉庫でそんな本も読んだことがあります、世界は一つじゃないってことですよね」


「そうだね、そして君をこの世界に連れ込んだ鏡というのも気になる」

「はい」


「まぁ、ごちゃごちゃ言ったところで、コマリ君にはここいる事しかできないわけだから、ここでの生活になじめる様に必要なものをそろえようじゃないか」

「そんな、僕の事なんかお気になさらず」


「おや、そんなことをいうものじゃないぞコマリ君、君はもう私たちの家族なんだから、遠慮なんて必要ないんだ」

「・・・・・・家族?」


 ママルさんの言葉に、少し困惑しながらボーっとしていると、気づいたらママルさんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「おや、もしかして家族っていうのは少し馴れなれしすぎたかな?」

「い、いや、そんなことありません、家族だといってもらえるだけで本当にうれしいです」


「そうかい、すまないね」

「ど、どうしてママルさんが謝るんですか?」


「いやぁ・・・・・・家族っていうのには、少し憧れがあるものでね、ついつい気に入った相手には持ち掛けてしまうもので」

「そうなんですね、ママルさんに気に入られたのは幸運でした。じゃないと、僕は今頃どこかでのたれ死んでたかもしれませんし」


 そうして、冗談とはいえ真実味のある例え話を交えながら僕たちは互いに笑いあった。


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