第3話 不思議な出会い

 突然の声にすかさず振り返ると、そこには女の子が立っていた。僕と同学年位に思える人の登場に驚いていると、彼女は口を開いた。


「そんなに驚いて、どうかしたの?」

「え、あの、その」


 金色の髪、緑色の目、まるでお人形のようなきれいな肌。まるで、漫画やアニメの美少女みたいな容姿の彼女に僕は思わず見とれた。

 そして、目の前の美少女は不思議そうな顔をして僕の顔をのぞき込んできていた。


「ねぇねぇ、どうして君は壁をたたいてたの?」

「え、いや、その」


 どうやらすべて見られていたらしい。


「どうして?どうして壁を叩いてたの?」

「な、なんとなくです」


「なんとなく?」

「は、はい、あはは」


 ごまかすように笑って見せると、目の前の金髪美少女も同じく笑った。


「なにそれ、おもしろいっ」

「お、おもしろい?」


「うん、それでどうしたの?迷子?」

「えっと、はい」


「そっか、お父さんやお母さんは?」

「いません」

「そっか、君もいないんだ」


 なんだか意味ありげな言葉と表情をする美少女は、すぐにはにかんだ。


 実際には、ここにいないというだけで母親は確かにいる。だけど、そんなことを言うことすら忘れるほど僕は目の前の美少女に見とれていた。

 しかし、見とれている場合ではない事をすぐに思い出し、我に返ってこの場所の事について聞いてみることにした。


「あの、そんな事よりここってどこなんですか?」

「ここ?」

「はい」


 ここでイタリアとか、ドイツとか、フランスなんて言葉が出てくるなら僕は鏡を通して外国へワープできる鏡を利用したことになる・・・・・・あれ、でもそれにしては普通に話せてるような。


「ここはドールだよ」

「・・・・・・へ、今なんて?」


「ここはドールだよ」

「ど、ドール?」


 二度聞いても聞き覚えのない名前に嫌な汗が噴き出してきた。いや、聞いたことがあるような気がしなくもないし、世界のどこかにそういう地名があってもおかしくはなさそうだ。


「うん、ドールだよ」

「ドール?」


 しかし、それでも聞きなれぬ国の名を不思議に思っていると、目の前の金髪美少女は突然顔を近づけてきた。


「あれ、ドール知らない?」

「知りません」


「えぇっ、ドール知らないの?」

「はい」


 やけに驚く様子を見せた金髪美少女、そしてすぐに考え込む様子を見せた彼女は、まるで何かを思いついたかのように手のひらをたたいた。


「あっ、もしかして外から来た人かな?」

「外から来た人?」


 言葉は理解できる、だがその言葉の意味は理解できなかった。


「うん、たまに迷い込む人もいるみたいだけど、えーっと、こういう場合どうしたらいいんだっけ」

「あの、どういうことですか?」


「えっとね、ここはドールっていう国でね、それでね、たまに君のように外の世界から迷いこんじゃう人がいるって話をママルから聞いたことがあるの」

「そ、そうなんですか」


「うん、えーっと、そういう時はどうすればいいんだっけ、えっと、えっと」

「あ、あの落ち着いてくださいね」


 僕の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、金髪美少女は騒ぐのをやめて、あたりをテクテク歩きまわりながら物思いにふける様子を見せた。

 

 そんな彼女を横目に、僕は外の世界という言葉がとても気になっていた。もしかして、僕は鏡を通じてどこか違う国にでも飛ばされたのだろうか?


 いや、でもその割には会話が成立している、言語が通じるあたり海外に飛ばされた感じではないようだけど、街並みや人は、はっきり言って日本のそれではない。


「うーん、うーん、どうすればいいんだっけぇ」

「・・・・・・あのぉ、所であなたは誰ですか?」


 僕のために悩んでいるところ申し訳ないけど、なんだか気になったのでそう質問すると、彼女は動きを止めた。


「え、私?」

「はい」


「あ、そういえば自己紹介してなかったね、私はメープル、ヨロシクね」

「メープルさん」


「メルでいいよ」

「メルさん」


「うん、それで君は?」

「僕は番条小鞠ばんじょうこまりです」


「バンジョーコマリ?」

「コマリと呼んでください」

「コマリ君っ」


 そうしてメルさんは嬉しそうに僕と握手をしてきた。これもいたって普通のやり取り、まぁ少しフレンドリーな感じもするけど。


「は、はい」

「じゃあコマリ君、ちょっとついてきて」


 そうしてメルさんは握手していた僕の手をぎゅっと握ってきた。柔らかい感触と、初めて感じる変な高揚感に顔が熱くなってきた。

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